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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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108/111

101:新たなタスクの発生に、ダンジョンマスターは現実逃避する

 《次元侵略スタンピード》を退けたタツキたちの次なるタスクは2つ。


 証拠隠滅と、宴会準備である。


 いずれもこの戦いの当初からの目的に合致している。

 前者は『商隊が来るまでに、この状況スタンピードを解決すること』に当たり、後者は『村長関係者が来る前に、村人たちに俺たちの有用性を明確に示す必要性』に該当する。いずれの目的においても、白化しまくった周辺の景観復旧も必要となりそうだ。


「あの、お屋形様。その前にこやつの処遇を決めていただきたく」


 そもそもに、このミアズナ防衛は、救援要請があったとはいえ、タツキが、スローライフをしたいがために行った事業だったはずだ。


 ならば、これ以上働くべからず。

 さっさと残ったタスクを片付けて、空調(?)の効いたダンジョン空間となったミアズナで、青々とした草っぱらに寝っ転がって、日がな美しい湖を眺めながら、酒を片手にチェリとののんびりイチャイチャ生活に突入すべきであろう。


「御屋形様?」

 だから、聞こえない聞こえない。

「もしもし、お屋形様?」


「…あ~、せっかくいろいろ片付いて、ほっとしてたところなんだから、もう少しくらい現実逃避をさせてもらえると嬉しいんだけどね?」

「そ、それは申し訳なく、し、しかし、ですね!」


 忠犬のように目をキラキラ輝かせているクロベニは、何者かを捕縛していた。

 この光景にタツキが幻視するのは、ご主人様、見て見て、と、生きた獲物(セミとかGとか)をわざわざ持ってきて、ドヤ顔をする猫である。――あれ、犬じゃないじゃん。


 どちらにせよ、咥えてきた――、もとい、下手人のように縄を打たれて連れてこられたのは、《次元侵略スタンピード》時に何やら難癖をつける方向でわめいていて、そして、いつの間にかいなくなっていた神父っぽい男なのである。


「ええと、なんで捕縛したのさ?」


 とりあえず現時点では、彼はタツキの《敵性感知》に反応していない。

 穢れ関連を相当に嫌悪していたが、嫌悪と敵対は、明確に別概念のようだ。


 何せ、ダンジョンマスターの基本能力だ。このダンジョンを踏破してやろう、とか、ダンジョンマスターをぶっ殺してやるぜ、とか、もっと単純で根源的な感情にしか反応しない可能性がある。後者はまだしも、この見た目はただの寒村であるミアズナを見て、踏破してやろうなどと思う者は皆無だろう。


「こやつは一貫して、我々と、村の皆様との団結を、妨害するかのような動きをしておりました。それゆえ魔兵マギに監視させていたのですが、先ほど、何事かを外部に伝達しようとした動きを見せたため、捕縛致した次第です」


 なるほど通信はいただけない。

 証拠隠滅と相反する行為である。


 これは、大いにほめねばなるまい、

「クロベニ、よくやった。いい仕事したね」

と、タツキはクロベニの頭をわしゃわしゃ撫でる。――いや、なんか、犬っぽくて、つい。あと、サラサラな髪の毛が手に心地よい。ちなみにチェリはふわふわである。


 そう。ここは、後にも先にも平和な寒村でなければならないのだ。

 定期的にやってくる商隊を穏便にごまかし、逃げ出した元村長筋からやってくる調査隊に「スタンピード? 村人たちで追い返しました。あっはっは」と、ごまかし通す必要がある。


「ダンナ、それ、無理あるんじゃねーかな?」

 タツキに撫でられて「わふぅ」となっているクロベニに苦笑しながらロベルトが返す。

「じゃ、屈強な流れの傭兵がたまたま逗留してて何とかなったってのはどうだ?」


「坊っちゃん、屈強な傭兵ってのは俺のことですかい?」

 おばさま方にぐいぐいと迫られていたヴォルドガングが心底嫌そうな顔をする。


「あの、タツキ様、それよりも――」

 と、エルローネが言葉を継ぎ、

「――そうだよタツキ様。この人が何者か、明らかにする方が先だと思うの」

続きをチェリが宣う。


 そして、

「え? ええと、なんでみんな、そんな不思議な顔して私を見るの?」

 彼女の記憶が戻ったことを知るタツキを除き、ダンジョンチーム一行は、それぞれに驚きに満ちた表情をチェリに向けるのだった。


***


「はわわ…、私の日ごろの評価って?」

 ええ、ご飯が大好きで、ドジっ子属性を持った、天真爛漫な、精神年齢10歳女児かなぁ――、とは、口が裂けても言わない。

 両手をわなわなさせながら、お目めグルグルするチェリも可愛いので。


「と、言うわけで、あなたは何者なのですか? 先ほど、どこに連絡を取ろうとされていました?」


 タツキが訊ねると、神父然とした男は視線も合わせず無視を貫く。


「貴様、御屋形様が訊ねているんだ。即刻回答せよ」

「――ダンジョンマスターと会話するなど、正気の沙汰ではないわ。穢れが移る」

「なんだと!」


 男の態度にキレかけるクロベニ。

 どうどう、ステイだ、ステイ。


「まぁまぁ、落ち着いて」

 年のころ40後半くらいだろうか。やせ形で、神経質そうな表情、白髪が目立つようになったブラウンの髪。彼の発した「穢れが移る」の一言で、なんというか『格が知れた』とタツキは直観する。


 なにせ、『穢れ』なる謎概念を持ち出して、ダンジョンマスターと会話したくない、と言いながら、その被創造物たるクロベニと言葉を交わしているのだ。この時点で理論破綻しており、外見でしか物事を判断できない小物、という評価がタツキの中で下される。


「じゃあ、あなたの言う、その《穢れ》って、いったい何なんですか?」

 神父然とした格好をしているので、宗教的な概念か何かだろうか。


《《使者》の領域接触を検知しました》

『ん、サツキ、なんか言った? 今、ちょっと取り込み中で…』

『あたしじゃないわ。けど、おにぃ、村の入り口というか、おにぃのダンジョンと通常空間の境目に、ええと、メイドさん? がいるんだけど』

『え? メイドさん? なんで?』


《《使者》を受け入れますか?》

 どうやら、また良く分からないイベントが発生したらしい。

 タツキはそのアナウンスを、スローライフ延期のお知らせのように聞きながら、

『どうせ受け入れるしかないんだろ…』

『おにぃ…』

やさぐれ気分で受け入れの意を示すのだった。


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