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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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107/111

100:ハードな会談を終え、ダンジョンマスターは心癒す

 喧騒が、次いで世界の色が、そして、空気のにおいと手触りが戻ってきた。

 タツキは己が削り残した、岩石に過ぎない、ごつごつした椅子の感触と、そして、左手に人肌のぬくもりを知覚する。


「チェリ…?」

 そちらの方を見れば、彼女がタツキの手を取って、自身の護衛である天使とともに周囲を警戒、というよりは、無防備になったタツキをさりげなく守ってくれているようだった。


「タツキ様? うまくいかなかったんですか?」

「え? なんで?」

「力が抜けたなぁ、って思ったら、すぐに目を覚ましたので…」


 なるほど、あの空間でちんちくりん幼女アルファ・ジェネシスが言っていたとおり、こちら側での時間経過は、ほとんどなかったらしい。


「大丈夫、うまく…」

 いった――、と言いかけて思い出す、というか、怒涛の如く脳裏で再生する弄られ記憶トラウマ


「た、タツキ様っ!?」

 タツキはうるりと瞳を潤ませると、そのままチェリを抱き寄せ、座っている関係上、彼女のお腹に顔をうずめた。


「ちょ、タツキ様、くすぐった、あはは、って、お腹、お腹禁止ですっ! 最近お肉がついきて、恥ずかしいですってばぁっ!」


 チェリはひとしきりジタバタした後、

「もぅ、本当に、どうしたんですか?」

そういって、タツキを抱え込むようにして、背中を優しくなでてくれた。


 彼女の体温と匂いを堪能し、ついでに、頭頂部に当たる豊かなお胸の感触で、タツキのメンタルはモリモリと回復していく。


「うん、持ち直してきた。ありがとう」

 そういって「本当に大丈夫ですか?」と、頭をなでなでしてくれるチェリに若干後ろ髪をひかれつつも、スキンシップを解く。

 なんとなく周囲から、生暖かい視線、というか、優しく見守るオーラというか、それを具現化したエーテルの流れを感じてしまったので、居たたまれなくなった、ともいう。


 なにせタツキのランク10スキルは、それら思慕のエネルギーを蓄積し続けたことによって《比翼連理ヒヨクレンリ》になったらしい。そんな衝撃の事実を得た直後なのだ。それを「ああ、こういうことだったのね」と実地で理解させられると、こそばゆさが半端ないのである。


「…と、とりあえずは、まずは砦をひっこめて原状復帰しようか。その後はサツキも呼んで戦勝パーティーしようぜっ!」


 タツキがその気持ちを取り繕うように宣言すると、

「はいっ!」

と、チェリが嬉しそうに応じ、

「パーティー?」

と、のんべぇダンジョンマスターの流儀を知らないミアズナ住民が首をかしげた。


「ああ、祭りだよ、祭り。坊っちゃんは定期的に祭りを開いてくれてな、そこで、今朝みたいに美味いものを食わしてくれるんだ。酒も出るぞ」

 それを、ちょうど城壁上までやってきたヴォルドガングが補足してくれた。


 その言葉で、村人たちがわっと沸き立つ。


「おお? なんか、盛り上がってるのな? やっぱ旦那といると退屈してる暇がねーな」

「おいしいお酒が飲めるのです。それに勝る幸せはありませんよ」

 続いて、ロベルトとエルローネの2人が姿を見せると、

「エル姉さまっ!」

チェリが、大規模戦闘の前線に立った彼女の無事をねぎらうように抱き着く。


「あらあら、チェリ様。どうしたんですか?」

 酒さえ入らなければ、あと、可愛いもの大好きスイッチさえ入らなければ、大人のおっとりお姉さんなエルローネが、チェリがタツキにそうしたように、彼女をやさしく抱き留めて、その栗色の髪をなでる。


「姉さま、お怪我はなかったですか?」

「ええ。おふたりがしっかりと護ってくれましたから」

 と言いながらも、視線はロベルトの方にあるエルローネ。


「がははっ。あ~、俺も堅気になったわけだし、そろそろ嫁さんでも探すかね?」

 視線だけで通じ合っている2人がうらやましくなったのか、ヴォルドガングは、昼時となり、陽光がその存在を主張し始めてきた空を見やる。

 すると。


「まぁ旦那様! でしたら、ウチの妹なんてどうです?」

「港のモンゼ爺さんのところの孫娘も独り身だったわよね」

「ほらぁ、ミッケも紹介してやりなよ」

「ここは漁業と林業、そして狩猟の村だからね。強い男は大歓迎だよっ」


「お? おおお!?」 

 そのつぶやきをどう拾ったものか、わらわらとヴォルドガングの周りに集まってくるおばさま方。冗談か本気か「あたしなんてどうだい」と、自分を売り込むおばさまもいて、いかつい大男は、目を白黒させながら慌てている。


「あらあら、クマの町会長様にも春がくるのでしょうか」

 その光景が面白かったのか、エルローネがころころ笑うと、

「はい。こういうの、いいですねぇ~」

彼女に抱かれたまま、チェリもほっこりとした表情で同意する。


「タツキ様」

「ん?」

「これからも、みんなでこんな世界を作っていきましょうね」

 そして、タツキにとびきりの笑顔をくれた。


「う~ん? チェリ様? なんだか少し、変わりましたか?」

 そのやりとりに、彼女の記憶が戻ったことを知らないエルローネがタツキに視線を向ける。


「ああ、ちょっと色々あってね。あとで本人から聞くといいよ。俺もいろいろ知りたいし」

 記憶が戻って、ほんの少しぎくしゃくしたけど、たぶん、前よりもっと仲良くなれると思ってるんだ――、とは、さすがに照れくさくて言えない。


「なるほど、お2人に何か、いいことがあったんですね」

 それを聞いたエルローネも嬉しそうに笑う。


 そして、 

「――ついにチェリ様も殿方を知りましたか」

などと発言し、ふたりを大いに慌てさせるのだった。


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