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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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106/111

99:上位者より、ダンジョンマスターは権能を与えられる

 チェリとのなれそめから今日までを、まるっとひととおりあの手この手で自白させられたタツキ。


「うんうん、タツキ君は本当に良い子だねぇ。お姉さん、久々に盛り上がっちゃった」

 それを受けて、ここぞとばかりにお姉さんムーブをするアルジェと、

「ふぅん。またぁ、宴会するのぉ。私もぉ、カータヴェル様と参加してもいいかしらぁ?」

常にマイペースなカオルコ先輩。


 床に「の」の字を字を書きながら煤けるという、精神的な代償と引き換えにして得たものは、このダンジョンマスター界重鎮2名からの、それなりの信頼だろうか。 


「くっ、お姉さんも参加したいけど、あいつらの活動期にコトネオを空けるのはマズいんだよね」

「いいじゃない? 精々半日よぉ」


 おかげでこれまでよりずっと、彼女らとの距離感が縮まった気がする。

 ただ単に、酒とメシをたかりに来たいだけかもしれないが。


「うーん、でも、ヒーズル方面の防備はこれからタツキ君に任せられるから、その分お姉さんの負担は減るね。せっかくだから、遊びに行ってみようかなっ!」


《アライアンス申請がありました。受諾しますか? 申請者はアルファ・ジェネシスです》


「参加は――、まあ、歓迎するが、防衛ってどういう意味だ?」

「君、今不自然な間があったね」

「そりゃ、俺とチェリが、2人に弄られまくる未来しか見えないからな」


 いずれにせよ受諾以外の選択権のないタツキが、了承の意を示すと《ダンジョンマスターの本能》の同盟欄にアルジェ――アルファ・ジェネシスの名が追加される。彼女はダンジョンマスターの母と名乗っていたが、ここに載るということは、彼女もダンジョンマスターなのだろうか?


「ふふふ、そんなこと言われると、ますますチェリちゃんに会うのが楽しみになってきたよ」

 ワクテカする幼女。


 おもわず、さもありなん、とタツキも思う。

 何せ、記憶が戻ったチェリは――


「――あっ、タツキ君も楽しみなんだね。わわっ、記憶が戻って、ますます包容力が増して、でも、ポンコツなのは素みたくって、やらかして恥じらう様子がたまんなく可愛いっ!? いいないいなっ、お姉さんもそれ、見てみたい!」


 どうやら、いまだにダダ漏れているようで「ぐわーっ!!」とタツキの魂の叫びがこだまする。

 防御、防御だっ!


「あらぁ、やっぱりチェリちゃんのことを考えると、心が緩むのねぇ」

 ソファー然とした何かに気だるげに体を預け、カオルコ先輩がほほえましいものを見るような眼差しを向けてくる。


「そうだよねっ、やっぱりお姫様って、男の子にとってステータスだよね!」

 そうそう、ただでさえ素敵なチェリに、付加価値が付いたみたくて、ほんと俺にはもったいない娘で――

 って、違うっ! ぼぼぼ、防御だっ、防御はどうすればっ!? そうだ、レバーを、レバーを後ろに倒すんだっ!!


「ふぅん、チェリちゃんは、記憶が戻ったのに、ダンジョンマスターを怖がらなかったのぉ?」

 そこで怖がられたら俺は泣くっ――ああああ!?――


「だから改めて2人の関係を確かめ合って、そして、当然のようにラブラブだったんだ。素敵っ!」

「まぁまぁ! そして初めて唇にキス。初々しいわぁ」

「きゃーっ! チェリちゃんを腰砕けにしてからのお姫様抱っこっ!」


 くぁwせdrftgyふじこlp――


「あら、あらあら?」「あっ、こ、これはちょっと、やりすぎたかも?」

 思考から謎言語を漏らして突っ伏したタツキが、そのままもぞもぞと膝を抱えて丸くなる。


「――こ、こほん。それじゃ、改めてタツキ君の質問に答えよっか」

「そ、そうねぇ。これからはぁ、漏れててもあんまり気にしないことにするわぁ」

 さすがに反省したのか、アルジェたちの声が露骨に優しくなる。後者の気遣いは、それはそれで居たたまれないのでやめてほしい。


***


「はいっ、まず、ランク10スキルの意味から説明するよ」

 にょきにょきと、地面から生えてきたのは*******、もとい、白い板。

 なぜかパリッとした***…、黒を基調とした仕事スタイルになった、でも、やっぱりちんちくりんな幼女がその板にきゅこきゅこと概念図を描いていく。


 TPOをわきまえたのか、黒の女学生スタイルとなったカオルコ先輩は、その長い黒髪も相まって、思わず2度見する美しさだ。この空間には自身、というか、自身の現身アバターを着せ替える仕組みでもあるのだろうか?


「はい、ちゃんと話を聞くっ! チェリちゃんに告げ口するよっ」

「い、イエスマムっ!!」

 一連のやり取りで上限関係を強制的にわからせられてしまったので、もはやタツキは完全服従である。もしかすると、サツキもこんな目にあったがためにカオルコ先輩を恐れているのかもしれない。


「よいお返事です。いいですか、ダンジョンマスターのスキルはですねっ」


 ノリノリなアルジェ先生の授業によると、ランク10スキルというものは、当該ダンジョンマスターの、ランク1~9の行動によって生成される、完全オリジナルスキルとなるそうだ。


 共通点は一つだけ。

 そのスキルを介することによってのみ、ダンジョンマスターはイロナシを駆除可能となる。言い換えれば、ダンジョンマスターランク10のスキルは、術者ごとにプロセスは違えど、必ずイロナシ特攻を発揮するらしい。


「イロナシじゃなくて、本当はI.R.I.S.アイリスなんだけどね。油膜みたいな虹色してるし」

「あれ? たしか千姿なんとか、っていうんじゃ?」

 たしか、酔っ払い助祭モードのウォルフが、タメを作って言い放ったくそ長い名前があったはずだが、やはり思い出せない。


「良くお勉強してますね。実は、これには悲しい歴史があるんです」

 と、アルジェは苦笑する。


 とはいえ、実際は黒歴史然としたもののようだ。

 なんでも、アイリスなんて可愛らしい名前では、民に脅威と受け取ってもらえません! と言い放った当時の教団の聖史編纂部が、三日三晩かけて一生懸命考えた結果らしい。


「ほら、ああいったところの連中は、好きなこと始めると止まらないでしょ? 3徹明けのテンションで自信満々にお披露目したのがあれだったの」


 女教師スタイルのアルジェ先生が、口調を元に戻してくりくりとこめかみをもみほぐす。

「ほとんど覚えられる子がいなくてさ」


 確かにあの手のモノを覚えられるのは、ああいうのが好きな世代とかかなぁ、とタツキも思う。黄昏よりも暗きもの――、とか、ワクワクしながら覚えてたっけ。


「なぁに、その黄昏とかってぇ」

「思い出せない。けど、何となく浮かんできた」


「そうそう。それ。タツキ君は専用魔技オリジナルの《万魔殿パンデモニウム》が容量大きすぎて、一部記憶や概念部分にも侵食しちゃってるから、書き込みスペースがもうないんだよ」

「え? 何の? どこに?」

 いきなりの話題転換。

 侵食、という表現が非常におどろおどろしい。


「だから、逆手にとって、《万魔殿パンデモニウム》で活用できるように、種族として登録しといたから」

「は??」

「ほんとはぁ、その調整のために呼んだのよぉ」


 と、アルジェ先生が、カオルコ先輩と微笑みあう。


「だってぇ、ランク10が《比翼連理》よぉ。経緯が気になるわぁ」

「あはは、だよね。そして、思ったとおり、ううん、思った以上にラブラブだったから、お姉さん凄く満足」


 わざわざ言い直され、再びぐはぁっ、と大ダメージを受けるタツキ。


 つまり、いうなればこの能力は、チェリとはぐくんだ愛情の結晶であるということだ。

 うん、愛情? なんとなく、両手をグーにしてナイフとフォークを握って飯を要求するチェリや、おいしいご飯を食べて満面の笑みを浮かべるチェリや、さして強くもないのに酒を飲んで、ドヤ顔で俺の膝に座ってくるチェリしか思い出せない。ああ、そういえば、すごく真摯なまなざしで俺を助けてくれることが何度かあったなぁ――


「「ふ~ん?」」


 ――って、しまった、つい、思い出してしまった!?


「か、帰るっ! 用が済んだなら、俺もう帰るっ!!」

 涙目で言い放ったその意思が通ったのか、すごくいい笑顔でニヨニヨする2人の先輩ダンジョンマスター(?)たちの姿が、ゆっくりと薄くなっていくのだった。


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