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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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104/111

97:要請を受け、ダンジョンマスターは子守する

《接続要請がありました。応じますか? 申請者はカオルコです》

『ぴぃっ!?』


 《次元侵略スタンピード》は、ミスリルゴーレムが沸き点と思しき脱色した森にたどり着き、そこに転がっていた球体――一抱えほどある、明らかに自然物ではない、銀色の、タツキにとって既視感のある何か――を破壊することで停止したように思える。


 そして、この現象及び物体について、サツキと一緒に考察していたところでの、この脳内アナウンスである。カオルコとはラコウで**会系的な上下関係を構築していたらしい(?)サツキが、謎の声を発して固まっている。


『これはあれか? 俺が登り詰めてしまったから、早速ありがたいお言葉とかを賜ることになるのか?』

『早くっ! いいから、早く、早く応じるのっ!』


 この瞬間、迫りくる最後のイロナシ、それを、3柱の天使を従えたチェリの弓が打ち抜いて、砦は大歓声に包まれている。

 ロベルトたちも砦内へと戻り、村人たちにとってはモンスターのグノーメや黒砦兵ブラックポーンまでもが、大いに感謝されているようだ。


「よし、天使はそのままチェリの護衛を続けろ。グノーメ達は指示があるまで待機だ。ミスリルゴーレムは1体を除き召喚解除、残った者は俺を守れ。そして黒砦達は――、クロベニの配下だから、ま、いいかな」


 ユニットは、明確に指示をしないと動かない。以前それで痛い目にあったタツキはダンジョンマスター界の重鎮との会談の前に一通りの行動指針を与えておく。


『じゃ、接続するぞ』

 周囲の安全確認を終え、タツキが受諾の意思を示すと、いきなり周囲の空間が切り替わった。


 ***


「――え? 白い部屋…って、今更異世界転生的展開? もう転生済みなのに?」

「この子、なに言ってるの?」


 接続を承諾すると、いきなり真っ白な空間だった。《ダンジョンマスターの本能》が、これは、物理的な転移ではなく、意識だけが仮想的なコミュニケーション空間に接続した旨を伝えてくる。


 そして、その空間には、先客として、その髪色と同じ《銀》を基調とした近未来的な装束――幾何学模様の入った銀色ぴっちりスーツの上から、体のラインを隠すようなゆったりとしたトーガ――を纏う、どこか女神っぽい存在がいたのだ。


 純白空間に謎の女性。

 その第一印象は***もとい、ライトな小説または新しい文芸で一世を風靡した、異世界に転生する物語、そのプロローグな風景だろう。


 ただし、女神っぽいのはとてもちんちくりんな幼女だったが。

「今なんか、失礼なこと考えてない?」

 いや、あの手の物語の女神の容姿には、無数のバリエーションがあるので、こういうのも全然アリなのだろう。


 などとタツキが若干現実逃避していたところ、

「君ねぇ、新入りのクセにちょっとおいたが過ぎるんだよ」

そのちんちくりん女神(仮)は、口元をへの字に曲げて、無い胸を誇示するかのようにふんぞり返っていた。

「お姉さんはねぇ、すっごくすっごく心配したんだからね?」


 ん、お姉さん?

 そんな存在がどこに? とタツキは首を傾げ、はたと思い出す。

 ああ、そうだった。お姉さん。


「俺は、カオルコ先輩に呼ばれたはずなんだが?」

「いるわよぉ」

「ひぃっ!?」


 何もなかった空間から、ぬぼっ、と、黒髪の塊が現れる。

 これ、概念消失してなお恐怖を抱くのでやめてほしい。

 顔を上げれば、その黒髪の間から赤い瞳の美しいかんばせが覗くのだが。


「はぁ〜、やっぱり《ランク10》って、変態じゃないと至れないのかなぁ~」

「待て、さりげなく俺を変態そっちに混ぜるんじゃない」

 タツキが憮然とした顔をすると、ちんちくりん女神(仮)は、もう一度盛大に溜息をつく。

「君ねぇ、誕生数ヶ月で世界の頂点に至った存在って、変態以外の何者でもないと思うんだけど? しかも、M.A.O.U.のサポート無しで」

「まーおう? ああ、魔王か。チェリが落っこちてきて、俺は俺を乗り戻したからな。俺はそんなものには屈しない」

「はい、変態さん確定」

「なぜに!?」


 タツキのリアクションに、くすくすと笑う幼女。

「まー、M.A.O.U.は古すぎて頭ガチガチだから、今の世界だと、君たちのような、ちょっと…、いや、すんごくはみ出した個体が有利になるのかもね。生命進化はイレギュラー個体によってけん引される。うん、歴史が証明してきたとおりだね」


 ひとり呟いて、なにやら納得したらしい銀ピカ幼女は、タツキにずい、と右手を突き出す。


「私はすべてのダンジョンマスターの母、アルファジェネシス」

「は?」

 タツキは「何言ってんだこいつ?」の顔で、手つなぎをせがむ幼子にそうするように、しゃがんで目線を合わせて、その手を取ってやる。


「なんでぇ!?」

 と、ものすごく不本意っぽい顔をする幼女の斜め後ろくらいで、カオルコ先輩が吹き出して、若干プルプルしている。


「だ、だったら」

 ずもも、と真っ白空間から足場がせりあがり、アルファジェネシスと名乗った幼女を持ち上げ、タツキがほんの少し見上げるあたりで静止する。なるほど、挙動がダンジョンマスターっぽい。母かどうかは、大いに異論があるところだが。


「ご、ごほんっ、私はすべてのダンジョンマスターの母、アルファジェネシス」

 踏み台上に立って、さっきのはナシ、と言わんばかりに再びズイッと右手を出してくる幼女。


 なるほど、対等に握手をしたいという意図は、十二分に伝わった。

 だが、この瞬間、タツキは何故か衝動的に、懸命に笑いをこらえているカオルコ先輩を、その呪縛から解き放ってあげたくなってしまったのだ。


 ゆえに。

「そーれ」

「なっ、なななな!?」

 彼女の両脇に手を突っ込んで、たかいたかーいからの、

「ぴやぁぁぁっ!?」

くるん、と向きを変えて、肩車。

「いくぞー」「あわわわわーっ!?」

 そのまま、真っ白な空間へと、衝動的に駆け出してみた。


 その結果。

 「ふ、ふぷぷっ、あははっ!」とか言いながら膝から崩れ落ち、白い床をドンドンと叩いて震え悶えるカオルコ先輩が見られたので、タツキは大変満足したのであった。


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