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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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102/111

95:頂へと、ダンジョンマスターは登り詰める

「タツキ様は、私が王族だってしっても、いつもと変わらないんだね」

 チェリはタツキの肩のあたりに顔をうずめ、もごもごと呟いてくる。吐息の温みと首に感じるふわふわした髪の感覚がこそばゆい。

「そうね。俺は、こっちの世界の常識って、あんまり持ってないから、王族と言われてもあまりピンとこない」


 そんな彼女の背を左手で抱きしめて、右手で頭をなでる。

「王女様だろうが、穢れだろうが、チェリはチェリだ」

 そういって、背中を優しくポンポンと叩くと、ふにゅ~、とチェリが謎のうめき声を上げ、そして、がばっと顔を上げた。


「タツキ様!」

「はいはい?」

「なんかズルいですっ!」

「え?」


 チェリが至近距離から、そのブラウンの瞳でタツキを見つめる。

 その瞳は、可愛い、というより、美しい、というより、ほっとする。

 タツキにとっては、自分はここにいていいんだ、と思わせてくれる、圧倒的な安心感を与えてくれるものだ。


「私ばっかりに言わせないで、タツキ様も、しっかりはっきり言葉にしてくださいっ!」

 おやまぁ、と、タツキは苦笑する。


「記憶が戻ったら、なんか、強くなってないか?」

 2人は至近で見つめあい、

「お嫌でしたか?」

「お嫌ではありません」

そして微笑みあう。


「それじゃ、改めて生贄の少女よ。お前はどこかの国の王女らしいが、俺のダンジョンに捧げられた供物だ。もう一生、俺のダンジョンから出ることは許されない」

「はい。一生、捕まえていてください。――そして、ふざけてないで、ちゃんと言ってください。一生ネタにしますよ」


 ああ、やっぱりこの娘は最高だ。


「チェリ、愛してるよ」

 と、タツキは言って、そのまま優しくキスをした。


『獲得エリキシルが規定値を突破――』

 そんな甘やかな接触の中で、脳裏では、もはや聞き慣れた宣告が成されるが、今はそれに注意を払う時ではない。


 俺を俺に戻した少女。彼女のエーテルがもたらした宣告が、悪しきものであろうはずは、ないのだから。


***


 この対応で、お姫様にはご満足いただけたのだろう。

「ふわぁ…キス、しちゃった」

 へにょっと垂れた耳の先まで真っ赤にして、チェリがとろけるような笑顔になる。

 そして、膨大なエーテルがタツキのダンジョンに流れこみ、それが新たなタツキの力になる。


「というわけで、末永く、よろしく」

「ふぁいっ! …んんっ」

 びくーんと、体を伸ばして、かみかみで返事をするチェリが可愛すぎて、もう一度キスをしておく。


『お、おにぃ。大事なところ邪魔してごめんだけど、次のウェーブに至ったみたい。それから――、ちょっと、砂糖吐いてきていいかな?』

『…覗いてたんかいっ!』


「ふにゅぅ…」

 サツキにツッコミを入れ、刺激が強すぎたのか、2度目のキスで腰砕けになってしまったチェリをお姫様抱っこして、タツキは再び城壁上に姿を現す。


「くそっ、飛んでる奴らにもデカいのが増えてきやがったっ!」

「疲れたやつは交代して、矢の補充に回れっ!」

「ダンジョンマスターの坊っちゃん!? もう少し嬢ちゃんを休ませてあげな! こっちはまだいけるから!」


「はわわ、私は疲れているのではなくてですね」

 くってりしていたチェリも、その熱気で己を取り戻し、慌ててタツキの腕の中でびったんばったんする。


「たたた、タツキ様、私も戦います~。おろしてくださいぃ〜」

「あはは。なんか、これ、懐かしいな」

「何を言って…あ」


 それは2人の始まりの記憶だ。

 ダンジョン入口につながる、断崖絶壁を下る階段。そこでタツキの腕の中で、同じように暴れた記憶。そして、2人で見た美しい湖面と連なる山脈。


「えへへ」

 そこから今まで、季節は一巡りもしていないが、ずいぶんと昔のことのようだ。


「もう大丈夫。チェリも、村のみんなも、そしてロベルトたちも頑張らなくていいんだ」

「え? それってどういうこと?」

 タツキに優しく下ろしてもらって、急いで弓矢を手に取って、チェリが訊ねる。


「いつもみたいに、タツキ様だけ頑張るのは絶対に禁止だよっ!」

 矢をつがえ、猛禽類のような形状のイロナシを打ち抜く。


「おお~。お見事! でも、今回はそんなことないかな」

「…今回・・は?」

 もう1体を射落とした後、ジト目で振り返るチェリ。

 やっぱり、記憶が戻った彼女は、ちょっぴり強くなっている気がする。


「え、ええと、次回以降も、できれば前向きに善処する方向で」

「もぅ。宰相じいやみたいなこと言わないの」

「あはは…」

 なんというか、お姫様ツッコミをもらってしまったタツキは、弓射るチェリの背後に複数の召喚陣を出現させる。


『おにぃ、何する気? ユニットではイロナシを倒せないわ』

『いや、後のためにもちょっと演出を、と思って』

『演出?』


 キン、と閃く、タツキのオレンジ色の召喚光。

 そこから翼を持つシルエットが複数浮かび上がる。


「て、て、天使さまっ!?」

 ワナジーマ防衛戦において、タツキの呼んだ天使たちを目撃していないウォルフが、ひっくり返る勢いで仰天する。


「ウォル君、祈りを中断しちゃダメ」

「は、はいっ!」


 現在複数の強化バフを維持する《祈祷師エクソシスト》のウォルフは、地味ながらにこの戦いの要となっている。

「お兄さん、今のうちに魔力回復ポーションも飲んで」

「んがくっく!」

 そんな彼をルートが支えている。


「天使様だっ! 天使様が降臨されたぞ!?」

 そして、ウォルフの衝撃が村人の間にも広がって、

「勝てる! この戦い、勝てるぞ!」

「おい見ろっ、俺の矢が化物を落としたぞ!」

戦いに参加する村人たちのテンションもダダ上がりする。


『え? バフもかけてないのに攻撃力が上がった?』


「おおっ!? こりゃ、ダンナがなんかやらかしたな」

 猪のようなイロナシを、いなすつもりが一刀両断したロベルトが、歓声に沸く城門上を見上げる。

「うおりゃーっ! どうやら俺も、コツが掴めてきたぜようだぜっ!!」

 黒砦兵ブラックポーンに体勢を崩された、オーガのようなイロナシ。その軸足をヴォルドガングの大斧が両断し、

「消えなさいっ!」

エルローネの鞭が、まるで砲弾のようにその胸板をうがち、巨大な個体を虚空に還す。


『どゆこと? え? おにぃ、どゆこと!?』

 明らかに、防衛側の、イロナシに与えるダメージ量が増え始めている。

『ふふん、それはだな――』

 サツキの問いに、タツキは自慢げに答えるのだった。


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