ご飯VS美少女
頭を撫でて、目元やら額やら頬にちゅっちゅっしながら、私は一向に反応の無い外に意識を向けた。
彼女と二人っきりになってから、軽く数時間はたってしまっている。
「うーん…そろそろ帰らなきゃなんだけど…」
思わず呟くと美少女の腕に力がこもる。
ぎゅーっと腰回り圧迫され、ギブギブと訴えた。
「かえっちゃ…や」
うるりと潤んだ瞳でおねだりされるが…
「いや、明日も畑仕事あるし、夕飯の準備しないと」
ご飯無しでは夜熟睡出来ない。
サバイバル~な半年があったから、私の中で食べることはかなりの重要度を持っているのだ。
そして、村に置かれた転移門は特別に二つ、ダンディ紳士の許可の元、海沿いの街にも繋がれたのだ。
川魚じゃない魚
昆布
海苔…は、あるかなぁ?
鰹節っ……も、あるかなぁ?
ま、無い物は私のチート能力で作ればいいとして、新鮮な海の幸っ
魚貝類が私を待ってるのだっ!
十年ぶりのお刺身…っ
お醤油にワサビ(っぽい物)は用意してある。
村の特産物を売って仕入れてくるはずの品々とソレらで、『新しい領主様いい人そうで良かったね宴会』を、私が帰ってからやる予定なのだ。
村人は当然海なんて行ったことない人達ばっかりだから、調理には私のアドバイスは欠かせない。
「や、ずっと…いっしょ」
うるりとしていた目がきゅっと変化した…瞳孔が蛇みたいに
そして彼女の全身がぶわりと光って、零れ出した光の帯のようなものが私の首に絡みつこうとした。
「うわ、ちょっとなにすんの」
思わずぺいっと手で払うと、蜘蛛の糸を払ったような感触がして光は掻き消えたが…いい気分ではない。
ひょっとして今の…私を『縛ろう』としたんじゃないだろうか?
魔法とか転移門くらいしか見たことないが、お約束からいって…彼女は核が違うらしいし、何らかの呪文が無くても力押しで魔法っぽいのが使えるのかも。
私が払えるのは、私が彼女を平気なせいか異世界人だからか…
むっとして、抱っこしていた彼女を置いて立ちあがる。
「や、やだ、行っちゃやだ、なんでっ」
追っかけてくる光の帯を払って、むっとした表情を向けると彼女はびくっと震えた。
「力で無理やり人をどうこうしようとする人は、嫌い」
「ぴっ」
何かに打たれたように彼女から光が弾け飛んだ。
「だ、だって、だって」
あわあわと半泣きで手を伸ばす幼い様子にため息をつく。
「もうしない?」
こくこくこくと一生懸命頷く彼女に、私は再びソファへと腰を下ろした。
「核を制御出来る?」
「え?」
「村人…一般人も威圧しないくらい押さえられるなら、私の家に来る?」
聖竜女の目が丸くなった。
うむ、自分が私に着いて行くという発想がなかったらしい。
「が、がんばるっ」
ぎゅっと目を閉じて、うーうー唸る彼女だが、私には変化が分からない。
…うん。薄々気づいてたけど、私には核の違いってのが感じとれないようだ。
なにせ『核』だ。
どうやらこの世界の生物には、核という器官があるらしい。
それが強さを決めるのだ。
RPGのレベルアップの元?
が、私はこの世界の生物ではないのだから、そんなのは無い。
核を感じとれる器官がないから平気なんだろうなー…
と、考えている間に、閉められていた扉が開かれ、慌てたように騎士とダンディ紳士が転がりこむように入ってきたのだった。