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第四話 午前2時18分

空手家パパの顔色が変わった。


「おい!」


腕の中で、少女の身体が少しずつ透けていく。


空手家パパは振り返った。


「雨宮さん手伝って!」


「!」


「なんとかしてー!」


「分かりました!」


ナギが走る。


自分の魂カードを抜くと、閉じ始めた自動ドアへ力を叩き込んだ。


ガンッ!


扉が途中で止まる。


「でも!」


ナギが叫んだ。


「私にも、この子をどこへ送れば助かるのかは分からない!」


「なんでもいい!」


「あなたの《光》はまだ、この子と向こうを繋いでる!」


少女から伸びる光の筋が、不安定に揺れている。


「切るか、繋ぎ直すか――決めるのはあなたです!」


そのとき、三浦が声を上げた。


「俺も……」


レジから離れ、こちらを見ている。


端末にはまだ《勤務終了》の赤い文字が点滅していた。


だが、三浦はもうそれを見なかった。少女のところへ走ってくる。


「俺も……何かできますか」


空手家パパは周囲を見た。


ナギ、三浦、老人、リュミ。そして腕の中で消えかけている少女。


何をすれば正解なのかは分からない。


それでも、今やることは一つだった。


「みんな力を貸してくれ!」


叫んだ。


「この子が死にそうなんだ!」


三浦が少女の肩を支え、優しく声をかける。


「大丈夫。帰ろう」


老人は新聞を見て、出口を見て、最後に少女を見た。


しばらく黙っていたが、やがて新聞を置く。


「……子どもが先だ」


ゆっくりと立ち上がった。


「俺はもう十分待ったよ」


老人が出口へ向かって一歩踏み出す。


カチ。


時計が動いた。


三浦もレジからさらに離れる。


カチ。


また動く。


空手家パパは魂カードを握り締めた。


「カードよ! 光れ!」


ナギが扉を支え、リュミが光へ手を伸ばす。


三浦が少女を支え、老人は出口へ歩いていく。


空手家パパは魂カードを高く掲げた。


「道を示してくれー!」


《光》が伸びた。


少女から闇の向こうへ、細く頼りない一本の道が伸びていく。


もう少し。


あと少し。


届く――。


その瞬間。


光が砕けた。


「くそっ!」


無数の光の欠片が闇の中へ散っていく。


だが、消えなかった。


散った光は一つ、また一つと輝きを取り戻し、もう一度集まり始める。


老人が言った。


「もう十分だ」


そして出口へ、もう一歩。


三浦はレジを振り返らない。


「帰ろう」


少女へ声をかける。


その瞬間、散らばっていた光が一気に集まり、一本につながった。


カチ。


カチ。


カチ。


時計の針が進む。


空手家パパが顔を上げた。


午前二時十八分。


「動いた……」


そして。


少女が消えた。


空手家パパの腕から突然、その重さがなくなった。


温もりも消えた。


「……え?」


腕の中には何もない。


「おい……」


空手家パパは闇を見る。


その向こうから、誰かの声が聞こえた。


『戻った!』


顔を上げる。


『脈あります!』


「……!」


次の瞬間、闇が消えた。


自動ドアの向こうには、街灯に照らされたアスファルトと夜道が広がっていた。


いつもの夜だった。


「どこいった!!」


空手家パパは外へ飛び出した。


「おーい!」


右を見る。


左を見る。


いない。


少女はいない。


買ってあげた靴下も、溶けたアイスも消えていた。


ただ、入口のマットには小さな濡れた裸足の足跡が二つだけ残っている。


その先には、何もない。


空手家パパはしばらく足跡を見つめていた。


「雨宮さん……」


ナギを見る。


「これ、どういうことですか?」


ナギも足跡を見つめている。


「……分かりません」


「分からない?」


「はい。でも、最後に聞こえた声が本物なら……」


ナギは顔を上げ、少しだけ表情を緩めた。


「あの子は“向こう”で、誰かに助けられているのかもしれない」


空手家パパはもう一度、小さな足跡を見る。


「……そっか」


背後では、三浦がレジを見つめていた。


画面にはまだ《勤務終了》の文字が表示されている。


「勤務終了……」


三浦は呟き、自分の名札を握った。


「俺……いつからここで働いてたんだ?」


老人は、開いた出口を静かに見ている。


空手家パパは二人へ向き直り、頭を下げた。


「二人とも、ありがとうございました」


そして顔を上げる。


「無事に女の子は助けれたみたいです」


少し考えてから付け加えた。


「……たぶん」


老人は穏やかに笑った。


「そうか」


新聞を丁寧に畳み、レジ横へ置く。


「なら、よかった」


老人は出口へ向かって歩き出した。


今度は止まらない。


三浦はその背中を見つめ、やがて自分の名札を外した。


「……俺も、今日は上がります」


二人が自動ドアへ向かう。


老人が先に、三浦がその後を歩く。


ピロリロリン。


二人が外へ出た瞬間、店内BGMが止まった。


長い静寂が訪れる。


カチ。


カチ。


カチ。


壁時計だけが、普通に時を刻んでいた。


空手家パパはナギを見る。


「私たちも出ましょうか?」


「ええ。今なら」


ナギが頷いた。


空手家パパとリュミ、そして雨宮ナギも自動ドアを抜ける。


夜風が頬に当たった。


足元にはアスファルトがあり、街灯がいつもの夜道を照らしている。


普通の世界だった。


空手家パパは振り返った。


そこには、ごく普通のコンビニがある。


マート24 北ヶ丘店。


白い蛍光灯に照らされた商品棚とレジ。


何も変わっていない。


まるで、さっきまでの出来事など最初からなかったかのようだった。


空手家パパは胸元へ手をやり、魂カードを取り出した。


《光》。


その表面には、今までなかった細い金色の筋が一本だけ残っていた。


指でなぞる。


「……なんだったんだろうな」


結局、老人が何者だったのかも、三浦が何者だったのかも分からない。


あのコンビニが何だったのか。


消えた高校生はどこへ行ったのか。


少女は本当に助かったのか。


少女の母親はどうなったのか。


何一つ、確かな答えはない。


それでも、耳には残っている。


――戻った!


――脈あります!


空手家パパは魂カードをしまった。


「……まあ」


頭を掻く。


「助かったなら、いいか」


遠くから救急車のサイレンが聞こえた。


ピーポー。


ピーポー。


今度は少しずつ遠ざかっていく。


空手家パパは宿へ向かって歩き出した。


その肩のそばを、リュミが小さな翅を鳴らしながら飛んでいく。


背後でコンビニの自動ドアが開いた。


ピロリロリン。


空手家パパは振り返らなかった。


壁時計はもう、


午前二時十七分ではなかった。

押忍!空手家パパです。


「午前2時17分のコンビニ」これにて完結!


止まっていた時計は、ようやく午前2時18分へ。


少女もきっと、向こうで助かったはず。


そしてこの物語、実は自作TRPGアプリで遊んだ物語を小説にしています!


秘密のアプリはこちら

https://note.com/gentle_curlew322/n/n4e46d54e3fb2


次はどんな事件が起きるのか。


作者にも分かりません。


押忍!

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