第35話 天界の退屈
時はラオとミアスな南の大森林の激闘の時へ遡る……。
百万那由多の世界を管理する、天界の観測ルーム。
全てを見通せるその場所で、破壊を司る神との通信担当天使ニルル(ラオ曰く:ドジっ子)は、半泣きになりながら手元の操作盤を叩いていた。
「で、でも……でも……っ!」
(……黙れ……ほんの僅かでいい。一滴の雫を落とすように、我の器の核へ注ぎ込め。……貴様もたまには役に立つところを見せてみろ)
モニターに映し出されているのは、南の大森林で不浄の化身――ミアスと死闘を繰り広げ、その死闘を制したラオだった。
ラオは神の権能を強引に引き出し、脆弱な肉体を限界まで消耗していた。
ラオに命じられて、天界ストレージに保存されているラオデレティオの魔力にアクセスするニルル。
ほんの一粒の魔力をつまみ取り、慎重に転送先をラオの肉体に設定する。
ラオの肉体に彼本来の魔力を送り込る。
数秒後、モニターの向こうからラオの絶叫が聞こえ、ニルルは思わず目を閉じた。
その時だった。
「……なーにやってんのさ? ニルルちゃん。そんなにテンパっちゃって、何かあった? 話聞こか?」
背後から緊張感の欠片もない、弾むように快活な女性の声が響いた。
この天界において、これほどまでに世俗的で軽い響きを持つ声の主は、ただ一人しかいない。
振り返らずともニルルには声の主が誰だかすぐに分かっていたが、神である相手に背中を向けて応えるわけにはいかない。
目を開け、眼前のモニターから無理やり目を離し、背後を振り返る。
「め、メロウディア様……。お戻りになられていたんですか?」
そこに立っていたのはラオと同じ「破壊神」の権能を持ちながら、髪色、メイク、ネイル……全てがド派手に盛られたメロウディアだった。
彼女はつい先ほど、別の世界の破壊(掃除)を終えてこの天界に帰還したばかりだった。
「お疲れ〜。いやー、あっちの世界、マジで湿気強すぎて髪巻いてもすぐ取れちゃうし、超最悪だったわ〜」
「あはは……そうなんですね……」
ラオの事が気になるニルルは、メロウディアへテキトーな相槌を打って、すぐに目の前のモニターに視線を戻す。
すると部屋へドカドカと入ってきたメロウディアが、そのままニルルのすぐ隣にドカッと腰を下ろす。
メロウディアは手鏡で自分の前髪をチェックしながら、ニルルが見ているモニターを覗き込んだ。
そこには腐敗の真ん中で苦痛に顔を歪めているラオがいた。
「ん〜? ニルル、これ誰? あ〜、ニルルってショタ好きなん? でもこのガキんちょの周りにあるのって『汚れ』だよね? てか……このガキんちょの銀ピカのオーラ、どっかで見たことあるような……」
メロウディアがモニターに顔を近付ける。ドギマギした声音でニルルが応える。
「メ、メロウディア様……。そ、その『ガキんちょ』、ラオデレティオ様ですぅ……」
ニルルの言葉にメロウディアの動きがピタリと止まった。
「……は? これがあのクソ真面目で潔癖症のラオデレティオ? 嘘でしょ、あいつ何でこんなショタっ子になってんの!? マジオモロいんだけどw」
モニターの向こうではラオが体中から血を吐きながらも立ち上がり、不敵な笑みを浮かべている破壊神がいた。
メロウディアがニルルに視線を向けて、無言で説明を催促する。
簡単に説明を聞き終えたメロウディアが、つまらなさそうに自分の派手な爪で毛先を弄りながら呟く。
「……な〜んか楽しそうでズルくない? アタシがさっき掃除した世界もいつも通り、すぐ終わっちゃったし。最近、張り合いなさすぎ。マジ虚無」
「そ、そんなバイト感覚で言われましても……。あ、ラオデレティオ様が帰るみたい……。良かった」
ニルルが大きなため息をついて、モニターの向こうで白銀の流星を残すラオを見送った。
ラオの姿がモニターから完全に消えると、ニルルは魂が口から出そうな顔で操作盤の上に突っ伏した。
「……終わった……。もう私の寿命が縮まりましたよぉ……」
そんな燃え尽きているニルルの横で、メロウディアは「よしっ」と気合を入れるように立ち上がった。
「決めた。アタシもあのクソジジイ……じゃなかった、創造神にお願いして、ラオデレティオんとこ、送ってもらおっと」
「……えっ?」
ニルルが呆然と顔を上げる。
「だって、アイツのあんな姿、生で見ないとか一生の不覚っしょ! あのプライド高いラオぴが、子供の体で『小ヌルい』とか言ってるの、絶対お腹よじれるもんw マジ楽しそーだし!」
「ま、待ってくださいメロウディア様! ラオデレティオ様は今、本当に余裕がないんです! メロウディア様が降臨したら世界が壊れる前にラオデレティオ様が精神的に壊れちゃいますよ!」
「いーのいーの。アイツ、そんなヤワじゃないでしょっ! じゃ、アタシ準備してくるから!ニルルちゃん、またあとでね〜!」
メロウディアは止めるニルルの声を鼻歌でかき消しながら、軽快な足取りで観測ルームを後にした。
残されたのは、静まり返った部屋とさらに深い絶望に沈むドジっ子天使一人。
天界でも正反対……対照とも言える二柱の破壊神が、今一つの世界に同時に降臨しようとしていた。
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