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天界の破壊神、転生する〜少年の姿で降臨した破壊神が自分の平穏(破壊)の為に世界やら孤児院やらを守護る?〜  作者: 十目 イチ


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第23話 空虚なる洗礼と「百万那由多」の真実

 大聖教会の最奥に位置する「至聖所」。

 そこは、選ばれた高位聖職者以外、足を踏み入れることすら許されない禁域である。天井は遥か高く、ステンドグラスから差し込む陽光が微細なちりさえも黄金の粒子に変えていた。


 ラオは不愉快極まりない思いで、純白の儀礼服に身を包んでいた。

 隣には、普段の「食えない神父」の面影を完全に消し、王国最高位の威厳を纏ったサミエル大司教。そして背後には緊張で膝を震わせているリオラがいる。


「……ぬ。……これほどまでに、あのクソジジイ(ゴルドアン)の自己顕示欲が凝縮された空間があるとはな。吐き気がするぞ」

「ラ、ラオ君! 声が大きいよ! あ……静かにしててね、お願いだから!」


 リオラの必死の制止をよそに、ラオは正面を見据えた。

 そこには、白金の玉座に座る老人がいた。アステミア王国の全信徒を束ねる頂点、教皇イノケンティウス。その周囲には深紅の法衣を纏った数名の枢機卿たちが、値踏みするような鋭い視線をラオに投げかけている。


「サミエル大司教。……その少年が、貴卿が辺境で見出したという『奇跡の子』か」


 教皇の声は、枯れ木の擦れるような音でありながら、不思議な残響を伴って響いた。


「左様でございます、猊下。このラオという少年に、主ゴルドアンの清浄なる洗礼を。……彼の魂が、より正しき導きを得られるよう、慈悲を賜りたく」


 サミエルが深々と頭を下げる。ラオはそれを見上げ、内心で舌を打った。

(……フン。老いぼれめ、我をこのような茶番に引きずり込みおって。……おい、ドジっ子。聞こえるか)


 ラオは意識の深層で、天界の管理人――通称「ドジっ子天使」へと回線を繋いだ。


『ひゃあああ! ラオ様!? 大教会のど真ん中じゃないですか! どうしてそんな所にいるんですかぁ!?』


(……騒ぐな。この老人が今から行う『洗礼』とやら、我に何らかの影響を及ぼすか? もし我の魔力回路に不純物が混ざるようなら、この大聖堂ごと更地にするぞ)


『えっ、あ、確認します! えーっと……管理目録、管理目録……。教皇による洗礼ですね……あったあった。えっと……大丈夫です! その洗礼はただ『ちょっと質の良い聖水』を浴びるだけのパフォーマンスです! 魔力行使も干渉も無いので、ラオ様の破壊権能には何の影響もありませんっ!』

(……だろうな。やはりただの茶番か……小ヌルい。実に小ヌルい)


 ラオは冷めた瞳で、教皇が掲げた黄金の杯を見つめた。

 教皇がラオの額に指を触れ、なにやら詠唱を唱え始める。周囲の枢機卿たちが一斉に祈りの言葉を唱和し、空間の荘厳な雰囲気が上昇していく。

 だがラオの思考は、この矮小な儀式を通り越し、宇宙の真理へと飛んでいた。


(……創造神(ゴルドアン)よ。貴様が作ったこの世界も、ここ以外に存在する百万那由多(なゆた)とある貴様の「実験場」の一つに過ぎん。……貴様には世界を『創る』ことしかできぬ。その世界が汚れ、澱み、腐敗しても、自らの手で浄化する力など最初から持ち合わせてはいないのだ)


 そう……創造神ゴルドアンは、常に生み出すことしかできない。

 百万、一千万、一億……無限に近い世界を創造し続けてきた。しかしそこに住まう生命が争い、大地が汚れ、理が崩壊した時、彼はそれを正す術を知らない。

 だからこそ、そんな世界を『掃除』する破壊神ラオが存在するのだ。


(……汚れた世界を「掃除」し、無に帰す。それが我の役割。貴様が百万那由多の世界を創れば、我はその百万那由多を破壊する。……これまでも、これからも、我ら二人の共依存ごっこあそびは続いていく……。この世界もまたその『掃除』の順番待ちの一つに過ぎぬというのに……)


 教皇の指がラオの頭に向けられる。

 本来ならば、信徒が受ければ至福の悦びに包まれるはずの教皇の洗礼。しかしラオの魂は微塵も揺るがない。


「…………っ」


 洗礼を終えた教皇の手が微かに震えた。

 彼は驚愕の色を隠せず、まじまじとラオの顔を見つめる。


「……どうなさいました、猊下?」

 枢機卿の一人が怪訝そうに尋ねる。

「……いや。……不可解な。私の洗礼を受けながら、この少年の魂からは、悦びも、畏怖も、ましてや『信仰』の欠片すら感じられぬ。……それどころか……」


 教皇は言葉を飲み込んだ。

 彼が感じたのは、底知れぬ『空虚』だった。

 それは邪悪ではない。闇でもない。ただ、『そこにあるべきはずの人間的な理が一切存在しない』という、宇宙の深淵を覗き込んだ時のような根源的な恐怖。


 枢機卿たちもまた、ざわめき始めた。

 洗礼の儀式を受けて、少年の黒髪はより一層冷たく深みを増し、その瞳には王国の最高権力者たちを「路傍の石」としてすら認識していない、圧倒的なまでの超越性が宿っていた。

 幾万との信徒に触れて研ぎ澄まされた教皇の指先は、破壊神(ラオ)の根源的な『何か』の一端に触れてしまったのだ。


「……サミエル大司教。……この少年は、一体何者だ? 何と形容してよいものか……」

「ホッホッホ。申し上げた通り、類まれなる『個性』の持ち主でございます。……ラオ君、終わりましたよ。教皇猊下にお礼を」

「……フン。……小ヌルい水だった。……喉が渇いていたなら飲み干してやったものを」

「ひゃあああ! 不敬ですわ、ラオ君! 猊下、申し訳ありません! この子、緊張で頭が混乱してるんですっ!」


 リオラが慌ててラオの頭を強引に下げさせ、その場を収めようとする。

 教皇イノケンティウスは去りゆくラオの背中を、いつまでも呆然と見送っていた。


「……枢機卿たちよ。……記録せよ。今日、我らは何かに触れた。……それが神の使いか、あるいは……その対極にあるものかは、未だ分からぬが……」


 至聖所に流れる冷ややかな沈黙。

 サミエル大司教だけが、退室の間際、いたずらが成功した子供のような笑みを一瞬だけ浮かべて、その場を後にした。


 教皇による破壊神(ラオ)への洗礼。

 それはこの王国の頂点に立つ者たちに、『この世界の終わり』の予感を植え付けるに十分な、静かなる衝撃であった。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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