第96話:三号炉の実験
そういうわけで学生らしく夏休みを楽しんでいた俺であったのだが、いやいや仕事もキッカリやっていたりする。というわけで。
「シングルモルト様。炉心の改造とプログラムの適合……なんとか終わらせました」
こっちが高給で雇っている技術者がそう言って、俺は「ご苦労様」と労った。実際にいい仕事はしてくれたし。これで俺のコネクトーン・ネクサスを介入しなくても核融合炉が正常に動けば、後はこの文明を世界に開示するだけだ。
「よくやってくれた」
「は。技術者を代表して光栄の至りと存じます。しかし本当に核融合が?」
ま、難しいことは俺も理解しているが。
「それをこれから実験するんだよ」
ニッと笑って、それからプログラムを書きながらブツブツと呟いているイイトに声をかける。
「大丈夫そうか?」
銀色の髪が潮風に揺れる。コネクトーンをAIプログラムで動かす。そのことに責任を持とうとするのはいいのだが。彼女が先に壊れてもうまくない。
「てい」
ブツブツ呟いて集中しているイイトにチョップをかます。思ったより銀髪がサラサラしていて驚いた。
「ったぁ……何するんであります?」
「一回深呼吸しろ。周りが見えていないぞ」
「深呼吸って……」
「とにかく何でもいいから落ち着け。お前が思っているほど俺は焦っていないから」
「でもこれに失敗すると……」
それも含めて落ち着けって言ってるんだよ。
「なんなら釣りでもして来い。ここらの海はいい魚が釣れるぞ」
「そんなことしてる場合じゃ……」
「してる場合なんだよ。今のお前は明らかに集中しすぎている。俺にはそれが心配だ」
「シングルモルト様が?」
「シングルモルト様が、だ」
というわけで、俺とイイトは釣竿を持って海に向かい合った。技術者の仕事は終わったし、後はプログラムにコネクトーンが反応するかを見るだけ。というか既に核融合のためのトンネル効果については成果を得ているのだ。既に小規模の実験についても成功はしている。なので本当に「勝った! 風呂に入ってくる」の段階でしかない。
「釣りしていていいんでありますか?」
「大丈夫だ。言ったが急いでないし」
そうしてエサを海に放り投げて、海釣りを楽しむ。
「シングルモルト様はどうやってコネクトーン・ネクサスを?」
「知らん。思った時には出来ていた」
実際にその通り。俺自身何をした覚えもない。ただ単純に、やってみたら出来ました……と言うしかない。これがいわゆる超能力なのか何なのか。そこからわからないのだが。それでも核融合を可能とすると分かったときは流石に俺も驚いた。結果として無雲帝国を建国してしまったわけだが。
「凄いんでありますね。シングルモルト様」
はっはっは。褒められても何も出んぞ。というわけで海釣りを続ける。
「たまに思うんでありますけど、メターマンって何を食料にしているんであります?」
「何も食ってないはずだが」
たしか生存に必要なエネルギーは自前で完結していたはず。
「じゃあエサでも釣れない?」
「多分だが」
そもそもウヨウヨといるメターマンの集団が海の景観を破壊している側面は認めざるを得ない。襲ってきたら島民にも対処のしようがないので恐れられているが、実際のところ島民が犠牲になったことは一度もない。
外国では「毎日のようにメターマンは島民を虐殺している」とか政治的に危機感を煽っているが。自分のところの国民殺してどうしようってんだ。そういう暗君が歴史上いないとは言わないが。
「お、釣れたであります。ちっちゃいけど」
「大物じゃなかったら海に帰してやれ」
「もっと大きくなってから釣られるんでありますよ」
ある意味で残酷なことを言いながら、イイトは魚を海に帰す。
「どうだ? 視界は開けて来たか?」
「えーと、まぁ。前のめりにはなっておりませんであります」
「よし、じゃあ三号炉に戻るか」
何とか察しえたのだろう。イイトが百パーセント力を発揮するなら、それが一番効率がいい。
「さて、というわけで」
技術者が改造した三号炉。そこにイイトの構築したAIプログラムを注入。
「重水素……入れます」
言われて、炉心に重水素が入る。ただしあくまで実験だ。一定量以下。まだ本気で稼働させるわけでもない。
「えーと」
そうしてAIが重水素を核融合させて熱を出す。取り出されたエネルギーは俺の運用している炉心とは比べ物にならないが、それでも確実に増えていった。
「「「「「――――」」」」」
喝采が上がった。WARPドライバを介しない核融合。その実験の成功に。
「よかったであります……」
別に失敗しても磔刑にしたりしないんだが。それでも責任をもって臨んでくれたのだろう。ホッと一息つくイイト。
「よし。では今日は俺の奢りで宴会とする。いつもの魚料理屋でいいか?」
「あざっす!」
「ゴチになります!」
「さすが皇帝陛下」
「っていうかこの技術はもう」
そういうわけでエンドレース株式会社の社員にはおなじみの料理屋を貸し切って宴会をすることになった。まぁ俺は出席しないんだけどな。正体がバレてもアレだし。
「うっすうっす。朝路辺さん。今日は飲むっすよー」
「えーと。はいであります」
「よっしゃ! 飲み比べっす!」
「お手柔らかに……であります」
実験の成功が嬉しいのか。ハイテンションの社員一同に、イイトは気おされている。
「ちゃんと帰って来いよ」
「あ、はいであります。キレイさんにはお世話になりっぱなしで……」
「あの人の煎茶は飲み過ぎに効くから。有難いらしいぞ?」
俺は酒飲んだことないので知らないが。
「じゃな」
とりあえず魚料理屋に連絡を入れて、今日は貸し切り。請求は後日、俺の口座からお願いしますとだけ言っておいた。今日もマスラオの親父さんが美味しい魚を仕入れているだろうから、マジで美味い魚を堪能できるだろう。
そうして空間転移で社長室までワープ。スリークイーンが待っていた。今日もビキニも等しい格好に肩アーマーと長いマント。我ながらエッチな女幹部を持ったと自負している。褒められるべき事かは、この際考慮しないとして。
「技術的な核融合実験の成功。おめでとうございます」
「どうも。だが、それはランクイーンに言ってやってくれ。頑張ったのはアイツだ」
「それもシングルモルト様のWARPドライバ在りきで、でございましょう」
「そうっす。まずは何よりシングルモルト様が偉大っす」
「ありがとな」
俺はハーレクイーンとシークイーンの頭を撫でて、そうして書類仕事に戻った。
「ハーレクイーンとシークイーンは宴会に行かなくていいのか?」
「シングルモルト様が出席されないなら、行っても意味はありません」
「っす。ハーレクイーンもあたしもシングルモルト様に可愛がってもらうのが第一っすから」
「そうか。じゃあここで可愛がってやってもいいぞ?」
「「あはぁ♡」」
そうして二人は全ラになって俺の寵愛を欲するのだった。




