第95話:花火大会
「じゃあ行ってきまーす」
そういうわけで隅田川花火大会に行くことになったわけだが。時間ぴったりに行くと混雑するとされており、仕方ないので早朝から船に乗って東京へ。無雲帝国からの国民ということで色んな顔をされたが、まぁソレは別によく。電車に乗って、それすらも混んでいたのだが。どうせ見るなら第一会場がいいだろ、ということで人が多い第一会場にあえて。
まさか朝から人間が集まるわけも、と思っていたが甘かった。ガチ勢は既にシートを敷いて場所取りをしている。こういう時の熱意ってどこから来るんだろうな?
とは言っても甘さを痛感したのは、それから午後に至ってから。どこから湧いて出たのか。恐ろしいほどの人の波がぞろぞろと。俺たちもその一員なので下手なことは言えないが、それにしても会場にこれだけの人が集まるとは。出店とか言っている暇もない。一応ベストポジションとは言えないが、サブベストポジションとでもいうべき場所を確保して。天気にも恵まれていて。今日は予定通り花火大会が行われるみたいだ。
「よかったですね。ご主人様」
ニコッと微笑んで、壱岐尾先生が俺を後ろから抱きしめる。キラとキワミも左右を取って、最後にマスラオが俺に背中を預ける。そのまま花火大会の時間を待ち、そうして花火大会は始まった。朝から出動して夜に始まると言うのもそれはそれで時間を無駄にしているような気もしないではないが、これも日本人の務めだ。日本人じゃないけど。
ヒュ~……ドーン、とでも表現すればいいのか。ネットで検索するに一万発ほど放たれるらしい。恐ろしい数だが、それでも見に来ただけの価値はあった。
「綺麗ですね。ご主人様」
花火の音と人の賑わい。それでも耳元で囁かれた壱岐尾先生の言葉はちゃんと聞こえた。
「だな」
俺も苦笑する。出店にでも寄って、お祭りの雰囲気を楽しみたい気持ちも無いではなかったが、さすがにこの人混みの中を遊泳する気にはなれず。単純に花火を見に来ただけで終わるわけで。約一万発の花火を見て、そうして終わると、心の中に今日の出来事を全部ファイルする。
「ああ、いいものを見た」
「だね」
「……ですね」
「ええ」
「だな」
四人がナンパされる可能性まで考えたが、そういう猛者も存在せず。気付けば花火大会が終わって、帰路に着くことになったわけだが。まぁさすがに帰りの電車に乗る気は無い。あんなすし詰め状態の電車の中に入れるかッ。
「じゃあ港まで空間転移しますか」
キラがそう言って、人目に付かないところを探す。ブローギアの一本もあれば、空間転移は難しくない。ただあんまり人目のつくところでは、という遠慮が俺たちにはあって。
仕方ないので解散して花火大会の会場から去っていく人並みに流されて、そのまま落ち着いた場所まで流される。
「いやー。しかし綺麗だったな」
隅田川の花火大会についての感想だろう。マスラオが目をキラキラさせながらそう言った。キラのブローギアで港まで跳んで、そこから独富島まで。で、第一声がマスラオのそんな言葉。
「大迫力だったね」
「……とっても素敵でした」
「ええ、見に行って良かったです」
他の三人にもご満足いただけだようで。
「じゃあ行って良かったか?」
俺が最終確認に聞くと、
「うん」
「……です」
「ええ」
「おう」
四人とも晴れやかにそう言ってくれた。
「にしてもご主人様には夏休みがあって羨ましいです」
今日は有給とって休んだが、壱岐尾先生は公務員。学校の教師だ。明日からまた労働がある。とは言ってもだ。俺もエンドレース株式会社の数字をチェックすることに腐心しなければならないのだが。レコンキスタドーンの首魁にして無雲帝国の皇帝。ある意味で教師よりも忙しい。全部秘匿事項ではあるんだが。
「まぁ頑張ってくれ」
「ご主人様との花火大会の思い出に……ね」
「壱岐尾先生はまた」
「……ズルい」
「だなー」
そうしてカルテットが俺に抱き着く。まぁ花火大会が楽しめたのなら俺から言うことはそんなにないが。
「っていうか、お前ら、俺のこと好きすぎるだろ」
「オワルのせい」
「……旦那様以外考えられません」
「先生のご主人様……」
「夢中にさせたのはお前だぞ」
えー。俺のせい? とか思っていると。
「GHIOOOOO!」
俺たちの乗っている船にメターマンが襲い掛かってきた。何故?
ワラワラと水生型のメターマンが船に取りつき、船上まで上がってきて、一人の男に襲い掛かる。
「えーと」
つまりこんな花火大会の後でも独富島に悪意を持って入島しようとするバカ者がいたということで。
「このままってのもなぁ」
さすがに心地よく花火大会を終えた後に流血沙汰を起こされてもしょうがない。俺は欠伸をしながら、さりげなくコネクトーンを操作。襲われていた男を、無雲帝国の独房に放り込む。
「GHI?」
そうしていきなり目標を見失ったメターマンたちは、まさか目的もないまま暴れるわけにもいかなかったのだろう。恐れをなして青ざめている船の搭乗員に、特に謝罪をすることもなく海へと戻っていった。
「さっきの男は……」
空間転移を使った。ただし本人ではなく俺がだが。
「誰か空間転移を使いましたか?」
壱岐尾先生がそう聞くが、バーゴストライクはソレを否定。とすると問題はややこしくなり。
「じゃあ誰がって話になるよね」
自白する気は無いのだが。
「……スクール水着仮面?」
その可能性も無きにしも非ず。
「あとは無雲帝国の誰かかな?」
まぁ該当はしているのだが。
「まぁでも血が流れなかっただけマシじゃないか?」
俺の最大限日和った発言に、四人とも納得はしていないがそれ以上追及することもなく。
「否定はしないよ」
「……せっかく花火でいい気分だったしね」
「最悪ブローギアも覚悟しましたけど」
「その時はキラが第一候補だろ」
まったくだ。一人、顔バレしている魔法少女だしな。
「それでぇ♡ ご主人様ぁ♡ 今夜はいかがいたしますか?」
「抱かれたいなら迂遠な言い回し間じゃなく率直に言え」
「先生を抱いて欲しいです♡ いっぱい恥をかかせてください♡」
「あ、ズルい! 先生! オワル。私も」
「……旦那様」
「オーワールー?」
まぁいいけどさ。実際に俺も小気味いい。花火を見て満足したのだろうか。そういうことをするのに遠慮というかストッパーが働いていない。今日は四人を抱いて満足するか。独富島の最高級ホテルにでも泊まって。
「「「「ッ~♡」」」」
俺を見て発情しているバーゴストライクを見て、俺も発情してしまう。




