第94話:それじゃあ夏休み
「というわけで……くれぐれも先生の手を煩わせないこと。以上。解散」
そうしてクラスの一学期最後のホームルームも終わり。学校の全員が夏休みに入った。さて、何をしようか。まずはバーゴストライカーズのブースターパックを買うところか。
「オワル」
「……旦那様」
「オワル」
三人が俺を呼ぶ。四美姫の中の三美姫が俺に恋をしているのだ。一人、男だけど。
「どうかしたか?」
「どうかも何も。夏休みだよ? 海! プール! 花火大会!」
「ソレは色々と楽しみだなぁ」
「……隅田川花火大会……行きましょうね」
「俺と釣りにも行こうぜ。アユとか食いたくねえ?」
花火大会にアユ釣りかぁ。たしかに楽しみだな。
「じゃあ約束ね!」
「……約束」
「約束だぞ!」
「ああ、約束だ。水着も買ったしな」
夏休み、か。とりあえずは核融合炉の三号機でイイトのプログラムを実験することだな。核融合のトンネル効果は既に確認しているし、後はそれを連鎖的に……。
「オワル?」
「…………ん? なんだ?」
「いや、何か考え事をしていたみたいだから」
「まぁ次のバーゴストライカーズこそトップシークレットをだな」
「既に私の直筆サインカード持ってるでしょ?」
それとこれとは話が違うんだよ。
「さて、じゃあ夏休みを満喫するか」
「最初からクライマックスだよ。どこ行こうか?」
まぁまぁ、そんないきなりかっ飛ばしても疲労するだけだ。
「マスラオ。魚でも釣りに行かないか?」
「おう。いいぞ。アユ釣りにも連れて行くが、今日のところは独富島で……ってことだろ?」
「さすがマスラオ。よくわかってる」
「オワルの幼馴染だからな」
そんなわけで四人で釣りに向かうことになった。キラとキワミも今日は予定がなかったようで。釣竿は持っていないが一緒に居たいと連れ添うことに。
「まったりしていていいねー」
何のことかと言えば独富島での釣りのことだ。メガフロートで拡張された無雲帝国の国土。その端っこで釣竿を握る。これだよこれ。こういうのでいいんだよ。
「お、釣れた」
そこは流石に漁師の息子であるためか。マスラオの釣りにおける勘所は結構鋭い。
「ところで隅田川の花火大会だけど……」
「七月の終わりだろ。さすがに予定立てないと問題は頻出するだろうな」
「……パスポートは持ってますよ?」
「私も」
「俺も」
ついでに壱岐尾先生もな。
「じゃあ五人で隅田川花火大会に行くか」
「花火大会の最中にメターマンが暴れないかが最大の危惧要因だな」
「そこはさすがにメターマンを優先してもらうぞ」
というか人が死ぬ。
「わかっているけどさー」
せっかくの花火大会なのに、という理論らしい。
「パスポートねぇ」
一応俺も持ってるけどさ。無雲帝国から日本に行くのにももちろんパスポートは必要になる。というか無雲帝国に入国するためにパスポートを必要としたのが始まりだ。流石にそこは徹底せざるを得ず。仕方ないので無雲帝国は日本から独立させるが故の苦肉の策だった。俺が狙っていることを日本政府の責任にするわけにもいかなかったので、軍事独立はどうしても必要だったのだ。
「うへへぇ。オワルと花火大会」
「……楽しみだ」
「だな。俺も大いに楽しみだ」
ついでに壱岐尾先生も楽しみにしてくれていればいいが。
キレイさんとカレンとも行きたい気はあるが彼女らは核融合炉について腐心してもらおう。本当に俺のコネクトーン・ネクサスを介さなくても核融合炉を実現できるようになれば、それは地球人類にとっての記念日になる。
「お、二匹目」
そうして花火大会について会話しながら、釣りが終わる。というか時間制限。そのままマスラオが釣った魚を斑鳩さんのおばさんが刺身にして俺たちに提供してくれた。漁師の嫁が魚を捌くのが上手いのはもはや必然。俺は坊主だったが、まぁ別にね。そんな大量に釣ってもしょうがないし。
「あら、じゃあ遠藤ちゃんと花火大会に?」
刺身を食べつつ斑鳩のおばさんが息子の話に耳を傾ける。俺とキラとキワミは美味い美味いと刺身を食っていた。
「ああ、行くつもりだ」
「いいじゃない。行ってらっしゃい。楽しんでくるのよ」
「……ッ! ああ!」
そういうわけで五人で隅田川花火大会に行くことになったわけだが。さて、シングルモルトとしてはどうすべきか。
「遠藤ちゃん」
「なんでしょうか?」
アジの刺身を食いながら、俺は聞く。
「マスラオをよろしくね」
「監督役は他の方が務め申すので」
「そういう意味じゃないの。わかってるわよね?」
「まぁ。責任くらいは持ちますよ」
虚偽にも等しい言葉だったけど。ソレを知っているのは世界で俺だけでいい。
「はー。美味……」
「……美味しいです……ウマウマ」
キラとキワミは美味しそうに刺身を食べている。
「がっはっはっは! さすが俺の息子!」
で、酒を飲みつつ刺身をかっくらっているマスラオの親父さん。今日も無事漁業を終えたらしく、魚も全部売れたらしい。おじさんの捕ってくる魚も極上に美味いからな。
「じゃ、俺はこの辺で」
そうして斑鳩家を退散しようとする。
「なんだ。飯でも食っていけよ」
斑鳩のおじさんがそう言ってくれるけど。
「いえ、今日は飯が待ってるんで」
「そうか。残念だ。じゃあ次はよろしくな」
「ええ、機会があれば是非」
ニコリと微笑んで、俺は酒を飲むおじさんに頭を下げた。
「ほら、帰るぞキラ、キワミ」
「美味しゅうございました」
「……とても貴重な体験を」
「ああ、いいのいいの。魚を捌くのは慣れてるから。星崎さんも二江さんも魚を獲ったら私のところに持ってきてね?」
おばさんが朗らかにそう言って。
「じゃあ今度釣ってきます!」
と二人が意気込んで答える。それほど今日の刺身が美味かったのだろう。そうして三人揃って斑鳩さん家を後にする。ちなみにタクシーは無人で、ついでに合成燃料で動いているので恐ろしいほど格安だ。




