第9話:サインカード
「うっうっうっ」
無事ドレスティック・インバータも終わって。元の学生服になった星崎さんは座敷の隅で体育座りで泣いていた。気持ちはわかる。俺もスマホの中のデータを見られたら同じリアクションをするだろう。まぁセキュリティはしっかりしているが。
「そろそろお帰りになられては?」
「そうしたらネットで拡散するでしょ? 私の本音が世界中にバレて、大炎上するんでしょ?」
「いや、そもそも、そんなことをする理由が俺には無いわけで」
「本当?」
希望に縋るように星崎さんは俺を見た。
「いいじゃないですか。世界を救って五億円貰えるなら。まさに勝ち組ですよ」
「そ、そうよね? 私悪くないわよね?」
「まぁ全地球人類がバカとか言ったのはちょっとどうかと思うけど」
「それはぁぁぁ」
またさめざめと泣く星崎さん。俺は食事を終えて、皿洗いをして、それから風呂掃除。そうしてまた座敷に戻ると、まだ星崎さんはそこにいた。
「そろそろ帰らないとマズいのでは?」
っていうか魔法少女の帰還場所を俺の家に設定したのが何とも言えない感覚を呼び起こさせる。
「お願い遠藤くん。このことは黙っていて……」
「元から誰にも言うつもりありませんよ」
「裸で土下座しろって言われるならするから」
「それは魅力的だが是非止めて」
とにかく俺は別に星崎さんを責める気は無いのだ。
「私を脅して好き勝手にして性奴隷に堕とすとか……」
「そこまで鬼畜に見えますか?」
「見える」
何という風評被害。
「じゃあお互い様ということにしませんか?」
「お互い様……」
「えーと。あったあった」
俺は家に置いているバーゴストライカーズTCGのデッキを取った。そのコモンカードの堕星少女スタッブスターを取り出す。
「?」
「サインください」
そうして俺はレアでも何でもないカードにサインをねだる。堕星少女スタッブスター……星崎キラーンさんに。
「そんなことでいいの?」
「俺にとってはそんなことじゃ済みませんけどね。堕星少女スタッブスターからサイン貰えるなら至福です」
「えー。じゃあ。もう。しょうがないなー」
そうして最初から考えてあったのだろう。サラサラと慣れた手つきでカードにサインする星崎さん。スタッブスターを英語の綴りにしてスタイリッシュに書き加える。
「自分で考えたんですか?」
「ううん。デザイナーに頼んだ。匿名で」
サインを貰う想定をしていた星崎さんがちょっとだけ可愛く見えた。
「ありがとうございます。一生大事にします」
「ネットで売らないの?」
「金には困っていませんので」
「まぁ無雲帝国に住んでるとね」
実際に、無雲帝国にいる限り金に困ることはそう無い。ただしレコンキスタドーンに反逆の意志があればメターマンに襲われるという危機が有るのだが。
「じゃ、もう帰ってください。そろそろ乙女にはいい時間ですよ」
「お願いだからネットに呟くのはぁぁぁぁぁ」
「しませんから安心めされ」
「よし、わかったわ」
何がわかったんだろう?
「遠藤くん……いえ、オワル!」
「はあ」
「あなたは私が監視します!」
「……ええと、ワイ?」
何故と聞くと、彼女は言う。
「それはもちろんオワルが余計なことを言わないように、よ」
「それは信じて貰えていたと信じていたんだが」
「信じるわけないでしょ。そもそもオワルがどういう人間かも知らないのに」
全くそれは御尤もだが。
「で、結局俺が信用できないから監視すると」
「そういうわけね」
そういうわけ、じゃないんだが。
「ま、いいか。美少女の秘密を握ったと思えば」
「お願いですからこのことはどうか……」
「了解しました。骨の髄までしゃぶらせていただきます」
「私にアレをしゃぶれとか?」
「まぁそのうちな」
今は別に脅すつもりもないんだけど。
「エロ同人みたいなことしないの?」
「むしろしてほしいのか?」
「べ、別にそんなわけじゃないけど。普通星崎キラの秘密を握ったらメス奴隷にするのが男子だと思うけど?」
「残念だったな」
俺にそんな性癖無いんだわ。
「とにかくコモンカードにサインしてくださってありがとうございます」
「別にこれくらいはいいけど。本当に何とも思ってないの?」
「家宝にします」
俺にとっては堕星少女スタッブスターの直筆サインと言うだけでかなりのてぇてぇ。
「じゃあ本当に帰るわよ? マジで。マジで帰るわよ? ここで一晩オワルに好き勝手されることもなく帰るわよ?」
「ええ、どうぞ。お帰りはあちらです」
俺は玄関の方向を指差す。
「本当に? マジで? 私を好き勝手出来るのよ?」
そこまで鬼畜じゃないんで。
「むー。ゲイ?」
「多様性の時代だから否定する気は無いが。俺は該当しないな」
「じゃあ何で……」
「特に理由はない」
本当に無い。別段星崎さんを支配して悦に入るとかそんなことを考えていないだけだ。
「なわけでどうぞお帰りください」
出口はあちらです。と俺は彼女に指し示す。
「ネットで呟いたらブラックホールの塵にするからね?」
「その時は覚悟しておこう」
どちらにせよ、俺を信用できるか否かの問題だ。
「じゃ、ね」
「さようなら~」
ヒラヒラと俺は手を振った。はぁ。星崎さんが堕星少女スタッブスターか。重力魔法を使う最強の魔法少女。まぁバーゴストライクは全員最強なんだけど。それはそれとして。
「堕星少女スタッブスターが星崎さん……ね」
パーソナルジャマーが働いているから、魔法少女は誰が誰か公になってないんだよな。




