第88話:虚ろ気なミズキ
「おはよ。キワミ」
俺が隣にあいさつすると、
「……おはようございます……旦那様」
エロコメを読みながらキワミが挨拶を返してくる。そうして俺はミズキをちらりと見る。後ろの席の窓側。ベッタベタな転校生専用の席に座って、ホケーッとミズキは窓から風景を眺めていた。
「おはようございます。須久留さん」
「うん。おはよー」
「今日はご機嫌いかがですか。須久留さん」
「うん。おはよー」
「スクール水着仮面二号のレアカードを引きましたぞ?」
「うん。おはよー」
「今日は物憂げですね。どうかしましたか?」
「うん。おはよー」
と、この通り。誰が何を言っても反応しない。先日の一号との確執が影響しているのだろう。というか他にないだろうし。このまま無雲帝国をスポンサーに活動していいものか。とはいえだ。両親も普通に俺に殺されているので、何かしらの資金源は必要ではないかと思う次第。バーゴストライクほど破格ではないが、一応最低限暮らせる程度にはミズキにも報酬は用意している。
本人は「無雲帝国の皇帝の御首が取れるなら金は要らないけどね」とか言っていたな。確か。別に殺されてやる気は微塵もないが。
誰とも会話の成立しないミズキに、「今日は女の子の日なのかな?」と誰もが疑いをかけ、だが確信を得るために本人に聞く勇気はなく。そのままホームルームが始まる。今日も担当教諭のパイオツが大きいことに感心しながら、俺は出席を肯定する。
「オワル。今日さ。デートしない?」
「……旦那様……図書館デートしましょう」
「それより俺と船釣りに……」
教卓前の席を陣取っている俺の三方向から美少女(一部語弊)からのアプローチが攻め入ってくる。もちろんクラスの男子の反応は嫉妬だ。嫉妬の心は父心。押せば命の泉湧く。まぁクラスの男子というか独富学園全般に言えることでもあるんだが。その三人と俺がそういうことをしているという情報が洩れれば、酷いことにはなるだろう。無雲帝国の皇帝は重婚が有りなので全員幸せにするつもりだが。
「ねぇ♡ オワル♡ ステーキ食べたくない?」
「……旦那様……それより地鶏を」
「オワル。親父と懇意にしている魚料理屋とかどうだ?」
「よし。じゃあマスラオ」
「お、俺を選んでくれるのか?」
「魚料理はいいとして、この際キラもキワミも呼んでだな」
「いいの?」
「……いいんですか?」
「で、キラはミズキを誘え。なんか今日は悩みがあるらしい」
「まぁ確かに変だよね。今日のミズキさん。何か……はあったね」
一号と対立した。そのことで悩んでいるのは一目瞭然だ。
「こういう時は同じ立場の人間が話を聞く方がいい」
一応堕星少女スタッブスターの正体が星崎キラーンなのはすでに周知の事実。スクール水着仮面二号であることをあっさりバラしているミズキの話を聞くなら彼女が一番だろう。
「別に私は教師でもカウンセラーでも武田鉄矢でもないんだけど」
「そこをこう……な? 美味しい料理でも食べながら胸襟を開いてお話を」
「胸襟を開いたら揉んでくれる?」
「気分が乗れば」
今はそれが精一杯。
「というわけで~」
何が、というわけ、なのかを説明せず。キラはミズキを食事に誘っていた。金はこっちで持つので一緒にご飯を食べに行かないか、と。あまり稼いでいない苦学生にしてみればありがたい話ではある。
「ほら、私もバーゴストライクだからさ。そういう立場って言うの? ちょっとミズキさんとお話ししたいなーって」
「……………………いいけど」
よし、とガッツポーズをしてそれから連絡先を交換して、もともと表の顔は愛嬌の良いギャルだ。明るいテンションで他人の胸襟を開くのは得意中の得意なギャルがキラである。
「じゃあ放課後は一緒に帰ろうね。みんなで美味しいご飯を食べよう」
はい、決まりー、とそう言って、すると今度はクラスがざわつく。
「堕星少女スタッブスターとスクール水着仮面二号の会食だと!?」
「国際議論より白熱するんじゃないか?」
「聞きたいような聞きたくないような」
そうして様々な憶測が他者の口から湧いて出て。放課後。俺は一人で魚介料理店に向かった。さすがに独富学園の四美姫と一緒に下校するのは……別にやってもいいが面倒は嫌いだ。
「斑鳩で予約したものですけど」
「あ、はい。いらっしゃいませ。席を準備しております」
そうして個室に通され、四人と合流。
「あれ? えーと」
「遠藤だ」
「遠藤くん。あなたも参加するの?」
「まぁ仲がいいのは事実だな」
そうして寿司と煮つけと味噌汁を頼んで、それからミズキの愚痴が始まる。
「だからこっちが悪いことは分かっているけど裁判も無しに殺すとかありえなくない!?」
アルコールは頼んでいないはずだが、美味しい魚を食ってお茶を飲みながらバーゴストライクであるキラの相槌に気分を良くしたのか。ミズキの無雲帝国批判は止まらない。
「おかげでこっちは施設送りになりそうになるし。親戚も全員距離取るし」
「やってられないよねー」
とか言っているキラ本人は両親も息災で一兆数千億稼いでいるバーゴストライクだが。
「キラはどうしてバーゴストライクになったの?」
「魔法少女が好きだから」
まさに他に理由がない……の典型。
「いきなりブローギアに選ばれてさ。色々と説明されて面白そうだなって」
「スポンサーは分かってるの?」
「さあ。そもそも誰がブローギアを作ったのかも知らないしね」
とか言いつつ俺の方をチラリと見る。俺は魚介の味噌汁を飲んで知らないふりだ。ああ、島寿司が美味しい。さすがマスラオの親父さん。今日の漁業も最高だ。
「絶対殺してやる~! 市中引き回しの刑の後にね!」
無雲帝国の皇帝に向かって暴言を吐きながら、魚をヒョイヒョイと食べていく。奢りなので遠慮は無しだ。
「ここでそんなこと言っていいの?」
キラが冷や汗をかいている。無雲帝国の批判がメターマンを呼び寄せるのでは、との懸念だがそれについては大丈夫。そもそも皇帝の俺がここにいるし。ミズキの愚痴程度ならいくらでも聞き流せる。
「キラ~! 一緒に無雲帝国滅ぼそ~?」
「ダメよ。ここには私の大切な人がいるから」
「遠藤くんとか?」
「まぁそれも含まれるけど……」
究極少女アルテミスト。罠娘少女ダーンディアナ。双方も席についているのだが、あくまでバラすことはしない。ミズキを信用していないとかではなく、逆に面倒に巻き込まないように……だ。地球秩序維持思想団体オーダーメイドとバーゴストライクはやりようによっては簡単に対立してしまう。
「一号お姉様は私の事嫌いになったかな?」
そこも引きずっているのか。たしかに俺と殺し合いもしたけど。
「大丈夫なんじゃねーの?」
俺は刺身を食いつつ無責任に言う。
「遠藤くんに何が分かるのさ?」
据わった目で見られてもな。
「勘」
っていうか一号お姉様は俺なので、ミズキは知らないだろうが正鵠を射ているのだ。




