第87話:二号の疑問
『今日はカメレオン型メターマンか』
『光学迷彩?』
『それよりも伸びる舌で美少女を』
というわけで、今日も今日とてメターマン。夜遅くに通知が鳴ったと思ったら、暴虐の限りを尽くすメターマンがライブ配信されていた。スリークイーンも日本時間での夜中の出勤は不満があるだろうが、まぁそれはそれとして。暴れているのが米国というのが問題で。国際魔法少女基金はへそを曲げて米国へは魔法少女を派遣しない。結果として米国は一種のメターマン特異点と化しており、この米国を救うのは。
「闇あるところ水着あり。悪あるところ仮面あり。秩序維持よりの使者! スクール水着仮面二号、見参!」
ドローンカメラに二号の姿が映っていた。仕方ない。俺も行くか。
「ビキニに会うてはビキニを着る。スク水に会うてはスク水を着る。水着の理ここにあり」
そうしてWARPドライバを駆使して米国のとある都市を訪れていた。都市、と言っていいものか。既に三割五分くらい焦土になっているけれども。カメレオン型メターマンはブレスを吐いて街を焼き払いながら、襲い来るスクール水着仮面二号と戦っている。
「闇あるところ水着あり。悪あるところ仮面あり。秩序維持よりの使者! スクール水着仮面一号、見参!」
そうして見得を切る。
『一号キター!』
『一号ペロペロ』
『可愛いよー』
『ぜひともメターマンに舐められろ』
もちろんこれらの配信コメントを戦いながら見るわけにもいかず。
「リープリッパー」
斬撃を飛ばしてメターマンを切り刻む。そうして負けの気配を感じたメターマンは巨大化。およそ重量にして数百トンはありそうな大怪人へと変態する。なまじメターマンは人型であるので自重をどうやって支えているのかは、この際ツッコんだら負けなのだろう。大きくなった口から大火力のブレスを吐き、それを一号と二号にもぶつけるが。
「…………」
「チィ!」
こっちの斬撃魔法はメターマンのブレスさえも切り分ける。もちろん分断されたブレスは余剰威力で街を襲ったが、俺にはあんまり関係ないね。問題は巨大すぎるメターマンを切り分ける出力が二号のシュクールミジュギでは少し限界を超えていることで。仕方ない。
「リープギロチン」
スクール水着仮面一号にだけ許された魔法。巨大化したメターマンを一撃のもとに両断する。
『えぐっ』
『すごっ』
『出力が』
『違いすぎる』
『さすが二号の先輩だぜ』
『一号推し』
そうして都市は五割が焼き尽くされ、さらに倒壊したビルは十数棟。死者に至っては百を超えているだろう。問題なのはスクール水着仮面にピスタキオン・サルベーションが使えないってことで。
「一号お姉様」
そうして空中に足場があるように立っている俺に、同じ様子の二号が聞く。
「お姉様が無雲帝国の皇帝と繋がっていたりはしますか?」
「繋がっている……という言い方は語弊があるけど」
そもそも本人だし。
「私は地球秩序維持を目的としてオーダーメイドに加入したのです。そのオーダーメイドが秩序を無視する無雲帝国の手先だと……一号お姉様はそう言うのですか?」
「一種の自浄作用だ」
俺としては、そのつもり。
「組織内に反勢力を作って暴走を差し止める。秩序維持に適うでしょ?」
つまりオーダーメイドのスポンサーは無雲帝国……あるいはレコンキスタドーン。
「一号お姉様はそれに納得しているのですか?」
「まぁさすがに無雲帝国は強大すぎるから放置するわけにもいかないし」
「私は両親を無雲帝国に殺されました」
「うん。知ってる」
その復讐心を買ってスクール水着仮面に勧誘したんだから。
「私は……ッ……無雲帝国の皇帝を弑するために!」
「いいんじゃない? 応援はするぞ」
不可能だろうし。
「一号お姉様は私をもてあそんでいたのですか!」
斬撃が走る。リープリッパー。同じ斬撃で相殺する。
「だとしたらどうする? スクール水着仮面を止めるか? 俺は別にどうでもいいぞ」
このままスクール水着仮面を続ければ無雲帝国の皇帝の手先。だがシュクールミジュギを脱げば無力な一市民でしかない。というか気まぐれな一号の代わりに世界の秩序を維持するのは二号の仕事だ。仮にここでスクール水着仮面を放り出したら米国をメターマンの暴虐から守れなくなる。既に米国はバーゴストライクから見放されているのだ。さらにオーダーメイドが活動しなければ防衛機構そのものが破綻する。メターマンはメタリアルディフェンサーによって一般的な物理攻撃は通用しないのだから。
「教えてくださいお姉様。皇帝の正体は誰なのですか?」
「黙秘」
ここで自己紹介するほどトチ狂っていない。
「吐いてもらいます」
空間を蹴って、こっちに距離を詰めるスクール水着仮面二号。そうして斬撃魔法が迸る。現れる空間の断裂。その全てをマニューバで避けて、俺は二号と対立する。俺が上から下に腕を振るうと、その残影の延長に斬撃が発生し、二号めがけて飛ぶ。かろうじてそれを回避した二号だったが、その後背で一つのビルが上から下まで垂直に、縦一文字に切り裂かれる。
『ちょ!』
『何してんの?』
『一号と二号が!』
『戦ってる?』
『喧嘩か?』
スリークイーンが飛ばしているドローンカメラは既にこっちの音声を拾っていない。っていうか拾わせてたまるかという話でもあり。一号と二号から斬撃が飛んで、それらの斬撃が救ったはずの都市を余波だけで切り刻んでいく。
「無雲帝国の皇帝は!?」
「残念ながら黙秘だな」
「リープスライダー!」
さらなる鋭利な斬撃が俺を襲うが、こっちも魔法で相殺する。シュクールミジュギ同士の戦いだ。千日手になるのも必然ではある。
「余波で街が切り裂かれるのはいいのか?」
「ぐ……」
真っ当なことを言ったつもりだったが、思ったより効いたらしい。このまま二人で戦い続ければ、この都市はズタズタになる。だが一号から情報は聞きたい。その葛藤の中でスクール水着仮面二号……須久留ミズキは揺れる。
「一号お姉様は納得しているのよね?」
「納得というか。誰かがやらないとバランス取れないし」
レコンキスタドーンの戦力。バーゴストライクの戦力。それらと同等で、かつ別の意思で動く存在。自浄作用としての無雲帝国が自国のために用意したカウンター。それこそがオーダーメイドであるのだから。
「じゃあ私の復讐はどうすればいいの?」
「無雲帝国に喧嘩でも売ればいいんでない?」
そのことを止める立場には俺はない。スリークイーンに殺人を命令しているのが俺だからだ。もちろんミズキの両親がどういう人で、どれだけ善良な市民であったかなど記憶しているわけでも熟知しているわけでもない。それでも無雲帝国の敵であれば殺すより対処が無くなってしまう。結果ミズキという復讐鬼が出来上がってしまったわけだが。
「辛いならやめていいぞ」
「…………考えさせてください」
今ここで出す答えでもない。だがいつかは必ず線引きが必要になる。そういう風に出来てる。とはいえシュクールミジュギを纏ってさえ、コネクトーン・ネクサスを搭載している俺を超えることは不可能な気はするが。本質的にコネクトーンの繋がる力で限定的にWARPドライバを共有しているのが、ブローギアやシュクールミジュギの本質であるのだから。
「言っておくけど、俺はミズキを肯定も否定もしないからな」
「一号お姉様は……そうでしょうね」
苦笑してミズキは空間を転移する。メターマンは倒したのだ。俺への用事も終わった以上、ここでウダウダしていてもしょうがない。
「ま、なかなか上手くいかないもんだよな」
俺の人生も。ミズキの人生も。




