第86話:脳と信号とアルゴリズムと
「で、こっちのリンゴがあっちに。こっちのミカンがそっちに」
脳に電極を刺して、という開頭手術をするわけにもいかず。脳波だけを検出する機会を頭からかぶって、朝路辺イイトの前でWARPドライバを行使する。そもそも脳波って情報としてはあまりに曖昧過ぎて、検出したところで脳のどの部位がどれだけ働いているか……程度しかわからないらしいが。
「ふんふんふん」
その俺の脳の動きを脳波でどう見ているのかは知らないが、サーモグラフィーから人物画を描くよりさらに難しいということは聞いたことがある。だが、最高位のハッカーでありアルゴリズムの天才でもある朝路辺イイト……元アサルトヘイトは俺たちとは違うものが見えているのかもしれない。データを見つつ、手元の無線キーボードを叩く指も止めない。本人曰く。
「コンビニのレジ店員は色んな商品を生産できるから便利だけど、自販機はジュースしか生産できない。でもレジ店員にジュースを清算するのとはアルゴリズムが違っても結果は同じだろう」
ということらしく。
「~♪」
軽やかにプログラミングをしているイイトに俺は興味深く聞いてみる。
「何かわかるのか?」
「何にもわかんないでありまーす♪」
何にもわかんないのに何でそんなに上機嫌?
「やっぱり未知は人間の娯楽だからであります」
そんなもんかね。とはいえイイトにはすごく期待している。俺の脳の代わりにコネクトーン・ネクサスを擬似的に量産して、世界中に汎用的な核融合技術を届けてくれることを。
「まぁ今のままだったらシングルモルト様の脳の奪い合いになるでありますからねー」
そうなのよ。世界中が金を積んで俺の脳を解析しようとするだろう。そんなマゾヒスティックな性癖は持ち合わせていないので、信頼できるプロジェクトチームだけでコネクトーン・ネクサスを研究させているのだ。もちろん裏切り者はメターマンに殺されているので、相手方も戦々恐々とはしているだろうが。裏切りさえなければ研究に対して十分な報酬も用意しているので、飴と鞭でどうにか調整はしているのよ? そのプロジェクトチームにはイイトは加わらないらしい。彼女自身は俺のWARPドライバに興味津々で、「自分一人で解析することに意味がある!」と高らかに宣言していた。まぁ御本人がそう言うならこっちから意見するのも違うだろうということで好きにさせているのだが。
「じゃあ、もう機械は取っていいでありますよー」
言われて脳波検出の機械を脱ぐ。頭に被っていたんだが重いんだこれが。
「そもそも何も分からないならなんで検出したんだ?」
「パズルのピースだって絵が描かれていないと埋めようがないでありますでしょ?」
ソレは御尤も。
「で、その部分的な絵を脳波という形で見ていたわけ。もちろん一つのピースの絵だけ見て全体像を把握しろと言われても、そんなもん人間の脳の理解力を超えているから、全然分かんないと、自白したんでありますけど」
その部分的な情報から空白を補完して、あくまでトンネル効果だけを再現するコネクトーン・ネクサスを再現しようとしているわけか。たしかに俺の脳を全部再現するわけじゃない……という意味では合理的だが。
「それよりこの恥ずかしい格好どうにかなんないでありますか?」
シタギについてだろう。シンギュラリティ・タイミング・ギア。略してシタギ。肩アーマーと長いマント。後は五分の四ラというほぼ裸のビキニ姿。というかおっぱいを隠しているのは羊の角を思わせる螺旋状の突起だ。エッチな格好ではあるが、俺のWARPドライバを間接的に応用するにはそれぞれギアが必要だ。魔法少女のブローギア。スクール水着仮面のシュクールミジュギ。女幹部のシタギ。全部俺ありきで出来ている。これを工学的に独立させて誰にでも使用できるようにしてほしい、と俺はつまりイイトに頼んでいるのだ。
「それにしたってコレは」
「エッチでいい感じだろ?」
「もうシングルモルト様の頭を疑うくらいしかできないであります」
「えー、エッチ衣装って萌えない?」
「される身にもなって欲しいであります」
「ハーレクイーンは?」
「シングルモルト様の興奮を誘えるなら何よりです」
「シークイーンは?」
「もっとおっぱいが欲しいっす!」
というわけで二対一でランクイーンことイイトの意見は却下。そもそもエンドレース株式会社の最上階にミサイルを撃ち込まれる可能性もないではないのだ。俺は普通にWARPドライバを使えるが、そうじゃない限りシタギを付けていた方がここでは安全であると言って過言はない。
「だからってこんなエッチ衣装……」
「シングルモルト様♡ この後用事がないならわたくしを可愛がってくれませんか?」
「あたしもお願いするっす!」
さすが香鳴さん家の母娘はわかっているらしい。
「いいけどさ。ランクイーンはどうする?」
「今はちょっと指が乗っているからまた今度」
じゃあ俺とハーレクイーンとシークイーンだけでするか。
「もちろんご主人様の前で脱げるよな?」
「もちろんですとも♡」
「全部見てください♡ シングルモルト様♡」
そうしてイチャイチャして、ハーレクイーン曰く俺のブツは元夫より凄いらしい。何と申したものか悩むのだが。
「あ♡ あ♡ あ♡」
「シングルモルト様♡」
そうして三人で楽しんで。今日はもうバーゴストライクが訪問してきても相手できねーな。いいんだけど。
「シングルモルト様は糸色倫であります?」
「かもしれない」
「そっかー」
さすがに目の前で致すのは彼女の不快を買ったか。
「そう言えばNGOの不買運動はどうなっている?」
「一応侵攻はしていますよ。おかげで不買運動を実行している地域ではガソリンの値段が上がって市民に反感を持たれていますけど」
まぁそうなるよな。
「とにかく朝路辺イイトがトンネル効果に汎用性を開発するまでの我慢だ」
「そんなすぐには出来ないからね」
「何十年かくらいはかかっても大丈夫だぞ」
最悪没年にはそのことを公表してもいいくらいだし。
「テロリストが心配でありますけど」
「まぁ死ぬ気は無いな」
真空崩壊でも起こらない限り、俺が寿命以外で死ぬことはあり得ない。
「シングルモルト様ぁ♡」
「もっと♡ もっとぉ♡」
ハーレクイーンとシークイーンは俺のブツを求めて甘やかな声を出す。
「はいはい。恵んでやるから感謝しろよ」
「もちろんですわ♡ シングルモルト様♡」
「あたしをメスにしてくれた御珍宝っすから♡」
まぁ運動をしているだけであることは、この際明言しておくが。
「ランクイーンも加わるか?」
「もうちょっと目途がついたら」
アルゴリズムに関して言えば朝路辺イイト以上は存在しないので、この場合はもう彼女に脳機能の解析は任せるしかないのだ。もちろん年俸一兆円でもむしろ安いくらいだ。そうと分かって、しかし彼女を突き動かしているのが金じゃないという事実よ。南無。




