第85話:悪意の所在
「GHIOOOOO!」
「……あー」
独富島のメガフロート。その端っこから釣竿を垂らしていた俺とマスラオ。
「美味い魚を釣って食おうぜ!」
と言われると俺としても肯定するしかなく。そうして釣りの場所を北方に向けていたのだが。東京からこっちに入国してくる船にメターマンが襲い掛かっていた。およそ海水魚をタイプとして魚型メターマンだ。独富島の総人口の半分ほどのメターマンが島には存在しており、その一体一体が大都市を火の海に変えられる戦力。つまり戦略兵器に該当するのだが。
「アホってどこにでも湧くんだなー」
完全に独富島……というか無雲帝国の防衛戦力に数えられて、メターマンは島の名物になっている。ただし帝国に悪意を持ち、その悪意を発露するとメターマンは容赦なく人間を襲う。今回もそのケース。俺は釣竿を握って魚がキャッチできるのを待っていたが、マスラオはどうにも微妙な表情をしていた。とは言ってもだ。船に乗っている何人かが無雲帝国に悪意を持って上陸しようとしている事実は変わらず、その殺戮のためにメターマンが動いていることも承知しているのだろう。
「行く気か?」
「ダメか?」
「俺に止める権利はないが……罠娘少女ダーンディアナが独富島の出身だってバレるぞ」
「うぐ……」
今のところ顔バレしているのは堕星少女スタッブスターだけなのだが、罠娘少女ダーンディアナまで独富島に住んでいると割れれば、まぁメターマンとバーゴストライクのマッチポンプは社会を騒然とさせるだろう。
「ダメかぁ」
「ダメとは言ってない」
「じゃあ行ってくる。来い。ブローギア」
言われて現れるブローギア。そのステッキを掴んで。
「ドレスティック・コンバータ」
一時的に裸になって、それから魔法少女に変身するマスラオ。人目がないことは確認した上での変身だが、一応俺の目もあるんだが。そうしてステッキを掴んで飛行して、メターマンが襲っている船まで飛んでいく。こういう小競り合いは珍しくも無いので、さすがにスリークイーンも動かないし、スリークイーンが動かないということはドローンカメラのライブ動画配信もないというわけだ。そうしてメターマンが襲い掛かっていた男一人を救出して、そのまま独富島の警察へ送り込む。話はゆっくり聞いておくらしい。
…………と、さっくり戻ってきたマスラオに聞かされた。どうやらメターマンが襲い掛かっていたのは一人の男性だったらしく。彼を排除したのちはメターマンも取りついた船から海へと戻っていき、一種の恐怖体験でもあったのだろうが、イベントとしては盛り上がったと言っても過言ではない。
「どうせ核融合技術についてだろうけど」
既にエンドレース株式会社の産業スパイについても把握はしている。今はまだ泳がせて、実行に踏み切ったら全部ゲロさせて派遣した国や企業を糾弾する心づもりだ。そもそもメアリーシステムを掻い潜ることもできないわけだし。メターマンに殺されるか。あるいはスリークイーンに首から上を取り除かれるか。相手の背景も全部調べ上げているので、特に急いで対処すべき事案でもない。
「オワルはどう思う?」
改めて釣竿を握って、難しい顔をしながら海を睨むマスラオ。
「何が?」
「無雲帝国がエネルギー産業を世界に公表しないこと」
単純に考えればありえない。世界に普及した方が人類のためになる。だから世界に核融合技術を提供すべきだ、という意見は地球のどこででも聞くことができる。ただそんな子供でも分かる常識を無視して技術独占を続ける無雲帝国にヘイトが向けられているのも国際的な事実で。
「さてね。まだ技術に汎用性が無いとかそんな理由じゃないか? 独富島以外では実現できないとかなんとか」
あっさりと無責任な立場からそう言ったが、実は嘘をついていない。俺がいて、コネクトーン・ネクサスが作用していないとトンネル効果が再現できないのだ。俺の意識がリンクして初めて常温核融合は実現出来る。んなことを世界に公表すると、俺の平穏が完全に消え失せてしまう。なのでアサルトヘイトもそうだが、信頼できるアルゴリズムの専門家や脳科学者を雇って俺の脳内で起きていることを把握させ、コネクトーン・ネクサスを工学的に再現するように務めているのだから。
「汎用性……ね」
釣竿を垂らしたまま、マスラオは考えるようにそう言った。
すまん。まだ言えんのよ。
『独富島のメターマン。無辜の民を虐殺。帝国における人の命とは!?』
次の日。朝起きて、スマホでニュースを確認。朝飯にレンチンの白米とインスタントの味噌汁。それからキレイさんから貰ったゴボウサラダを用意して食べていると、そんなセンセーショナルな見出しの記事が目に入った。なんでも昨日、独富島に向かった船をメターマンが襲撃。人を殺して去って行ったとある。いや、誰も殺していないんだが。
『グローバル社会における独裁国家の弊害が』
『圧政を強いられる帝国国民は、しかし皇帝に逆らえず』
『日本に亡命しようとしてメターマンに殺された国民の数は一万人にも及び』
色々とまぁ好き勝手書いてくれちゃって。そもそも人間だけで十万人程度しかいないのに、その一割も殺したら国際問題どころか国内破滅だろ。島民に不信感を与えるのが目的だろう。こうして悪いイメージを吹聴すれば、無雲帝国の国民が不安に思い、日本に亡命するのでは。そうして張りぼてになった独富島を政治的に支配して穏やかに核融合技術を盗み去る、と。
「せんぱーい! おはようっす!」
「はよ。オワル」
飯食ってシャワー浴びて着替えて。そうして登校するために玄関を開けて外に出る。毎度は毎度で毎度の如く。カレンとマスラオが待っていた。俺は施錠して二人と合流する。
「ニュース見たか?」
「見たっす! 酷いですよね! 帝国は健全に政治を運営しているのに!」
「まぁこういうネガティブキャンペーンが相手の目的だろうがな」
三人でニュースについてあれやこれや論議し。しかし国内と国外では温度差が激しかった。国内……つまり帝国民はニュースがガセであることを知っているので、「あーはいはいネガキャン乙」で終わるのだが、外国……特に日本国民は無雲帝国からの亡命者をメターマンが虐殺しているというニュースを頭から信じて怒り心頭らしい。まぁ確かに実際に虐殺していたら国際問題ではあるんだが。
「皇帝はどうすると思う?」
マスラオが聞く。
「どうするっすかね?」
香鳴カレンは俺の顔を窺っていた。シークイーンという裏の顔を持つ香鳴カレンは、つまりレコンキスタドーンの女幹部であるので、俺が無雲帝国の皇帝であることも知っている。ここで皇帝の動きを気安く話すわけにもいかないのだろう。
「知らないけど。どうせ放置だろ。そもそも国民でさえ顔を知らないんだから」
「それもそうだな」
とは言ったものの、スリークイーンには後で記事を書いた三流記者を殺しに行ってもらうが。WARPドライバを使えば容易い事だ。誰が書いたのかはわかっているし、それら安易に帝国を貶めた記者の首が出版社に送り届けられたら、自分たちが誰に喧嘩を売っているのか理解するだろう。
「やっほー! オワル!」
で、三人でニュースについてあーだこーだ語って、なんとかかんとかしていると、登校途中でキラとも合流した。もちろんキラが日本のニュースに目を通すはずも無いので、俺とイチャイチャするだけだ。堕星少女スタッブスターとして顔の売れた彼女が俺とイチャイチャするのが本当に正解なのかはわからないとしても。
「オワル。今日は私が晩御飯作ってあげるからね♡」
「そういうわけだから。キレイさんにはカレンから連絡してくれ」
「うっす! 了解したっす! あと昼飯奢ってくださいっす!」
構わんぞ。可愛い後輩に飯を奢るのも先輩の務めだ。




