第76話:あれ?
今日も今日とてどこかで馬鹿が湧く。メターマンが米国で暴れ、正義の警察官が魔法少女到来までメターマンを牽制する。そのことにどれほどの意味があるのかはこの際どうでもよくて。俺はメターマンが都市を破壊している映像をドローンカメラでリアルタイムに見る。ビルが崩れ、インフラは破壊され、引き千切られるようにブレスで人が死んでいく。地獄絵図というものが現実に存在するのならこういうものだろうという光景。国際魔法少女基金に入金があったのだろう。堕星少女スタッブスターの出動が決まり、キラが派遣された。
「おー。今日はスタッブスターかー」
朝飯を食いつつ、スリークイーンが飛ばしているドローンカメラの映像でスタッブスターを見て、ついでにそのご尊顔がキラと重なることに「あれ?」となる。魔法少女は顔は可愛いけど存在の解像度が低いので個人を特定できないようになっている。俺がそういう風にブローギアを設計したわけだが。パーソナルジャマーと呼ばれる効果だ。だがそのパーソナルジャマーが働いていない。つまりスタッブスターがイコールで星崎キラーンと繋がってしまっている。
「パーソナルジャマーが機能していない?」
結論を語ればそういうことになる。
『なんか今日の魔法少女』
『可愛いけど』
『特定できね?』
『日本人だよな?』
世界中のバーゴストライクチャンネルの視聴者が個人を特定できそうな今日のスタッブスターに困惑し、それからスタッブスターを特定しようという動きが急速にネットで高まる。そうして星崎キラーンのアウトスタグラムがあっさりと見つかって、堕星少女スタッブスターは星崎キラーンではないかとチャンネルのコメントが荒れた。
『星崎さん!?』
『マジか!』
『でもこの顔は』
『だよな』
『マジでかー……』
無雲帝国のチャンネル視聴者にとってはキラは有名人だ。それもスマホを駆使する学生あたりでキラを知らない人間はいない。なにせ独富学園の高等部の三美姫なら四美姫の一角。茶髪でギャルギャルしくて、誰にでも笑顔を振りまく陽キャの女の子。
「っていうか。なんでパーソナルジャマーが効いていない?」
『速報。堕星少女スタッブスターの正体は無雲帝国の学生だった?』
そんなニュースがネット界隈にとどろいた。
「グラビティレールガン」
崩れたビルの残骸であるコンクリートを弾丸にして放つスタッブスター。そうしてメターマンを追い詰めて、巨大化までもっていく。今回のメターマンは錦鯉型だ。えらで呼吸するのかと疑問はあるだろうが、普通に肺呼吸です。よしなに。
「堕星少女スタッブスター。協力はいるか?」
そこに現れたのはスクール水着仮面二号。こっちは普通に自分の正体バラしているので問題ないとして。
「じゃあブレスを切って」
「了解した」
そうして都市部を破壊しているメターマン。そのブレスがスタッブスターに向くと、空間ごとスクール水着仮面二号は切り裂いた。だがそれすらも問題にならないのか。いたるところにブレスを吐いて立派な都市部を廃墟に変えていく。人が死に、インフラは止まり、建物は崩壊していく。さて、どうしたものか、と悩む暇もなくスタッブスターが呟く。
「ファイナリティマジック」
『キター!』
『これぞ必殺』
『スタッブスターの』
『リーサルマジック』
『行け。魔法少女』
「ストナァァァァ! ブラァァァァック! ホォォォォォォォル!」
ブローギア……つまり魔法少女のステッキの先にブラックホールが生成され、それを石を投げるように錦鯉型メターマンに投げつけ圧殺。そうして全てが終わった後。
「ピスタキオン・サルベーション」
因果逆転のエキゾチック粒子が、メターマンの破壊を無かったことにする。
「それじゃあ視聴者諸氏! チャンネル登録と高評価をよろしくぅ!」
『必ずします!』
『星崎キラーンか』
『写真で見ても可愛いな』
『俺ちょっと独富島に……』
ネットに顔バレしたスタッブスターだが、本人はまだコメントを見ていないので事情の把握は難しいだろう。そうして俺の座敷部屋に転移してきてドレスティック・インバータを起動。元の服装に戻る。
「やー、チョロい。メターマン倒すだけで五億円だよ? 笑いが止まらないったらないわね」
およそ最低なことを言っているようだがボロい商売であることは認める。それより問題は……だ。
「お前、特定されてるぞ」
スマホからニュースを見ろ、と俺が言って、そうしてキラがスマホを見ると既にニュース界隈はスタッブスターと星崎キラーンについての記事ばかりだった。アウトスタグラムの自撮り写真もばっちりアップされていて(一応違法なのだが)堕星少女スタッブスターがイコールで星崎キラーンだと世界中にバレていた。
「なんで?」
「俺も知らん。パーソナルジャマーが働いていないよな」
「え、じゃあスタッブスターが私だってバレてる感じ?」
「そう相成るか」
別に悪いことをしているわけでもないので堂々としていればいいのだが、五億だの二十五億打の二百億だの一兆八千億だの稼いでいる女子高生が、これからどういう目で見られるのかは、まぁ。
「パーソナルジャマーが……ね」
というか全ラで俺の前に立つな。
「ほらほら、エッチな写真取っていいよ?」
「じゃあM字になれ」
「もう♡ オワルのドスケベ♡」
言いつつもリクエストに応えてくれるキラ。さて、こうなるとパーソナルジャマーが働いていない仕組みを調べないといけないわけだが。
「とりあえず飯にするか。キラも食っていくか?」
俺は座敷部屋のちゃぶ台で飯を食っているし、炊飯器には米が炊かれている。味噌汁はインスタント。おかずはキレイさんの手作りだ。
「じゃあいただこっかな」
そういうわけで朝飯を準備してやる。
「うーん。美味しい。さすが香鳴さん家の手料理ね」
「そうだな。さすがキレイさん」
俺もそこに異論はない。
「オワル的には私の身バレってどうなの?」
「さあ? 好きにしてくれって感じ」
「淡白質だ~」
まぁ本音を言えば、パーソナルジャマーを無効化する技術を使って魔法少女を身バレさせた米国のあざとい戦略に怒りを覚えているわけだが。これはちょっとお仕置きしないといけないかもな。朝飯をもぐもぐと食べて、キラはニッコリ破顔した。
「じゃ、またあとで学校でね!」
そうして握ったブローギアでWARPドライバを実行。自分の家に帰る。学校制服に着替えないといけないし、ギャルの陽キャとしては化粧も必要だろう。
「はぁ、まったく」
そうして身バレした堕星少女スタッブスターの今後について少し考えながら、俺も制服に着替える。学校には行かないといけない。
「よう。オワル」
「おはようっす! 先輩!」
で、俺の玄関先で出待ちしていたマスラオとカレンが、俺と一緒に登校したいと申し出てくる。
「朝のバーゴストライクチャンネルは見たか?」
「もちろん。堕星少女スタッブスターの身バレしてたな」
「大丈夫っすかね? 星崎先輩……」
大丈夫ではあるだろう。身バレしたところで悪いことをしているわけでもないんだし。世界を救っているという意味では謎のヒーローを演出した方が良かったが、それはそれとしてキラの今後についても考える必要が。
「っていうかどうやってパーソナルジャマーを?」
「それだよなー」
俺の懸念点もそこなのだ。




