第70話:朝路辺イイト
「ど、どうもであります」
なるほどね、と俺はこれまでのアサルトヘイトの隠密性について納得していた。一応暗号というかサインワードは決めており、地球に戻ったら「シングルモルト万歳」とエンドレース株式会社の公式アドレスに送るように言っておいてわけだが。その上でキーワードを発した存在をWARPドライバで召喚。今ここにいるのは俺とハーレクイーンとシークイーン。あとはアサルトヘイトだけだ。ちなみにエンドレース株式会社の社長室な。エレベーターも階段も無いので空間転移か何処ぞのロシア人よろしく絶壁を登る能力でもなければここにはたどり着けない。で、アサルトヘイトは苦しそうだった。
「久しぶりの重力なので」
というのも、宇宙ステーションに極秘に住んでいたらしく、無重力空間から衛星のネットワークを使って世界中をハッキング。無雲帝国を攻撃していたわけで。さすがのメアリーシステムも宇宙はフォロー外だったので、発見できなかった……とそういうわけ。
「1Gって重いですね」
地球人にはこれが普通なんだがな。遠心力で重力を作ることもできるらしいが、普通に無重力空間で暮らしていたアサルトヘイトには1Gは辛いらしい。まぁ宇宙にいると骨とか筋肉とか劣化するとは聞くが。ちなみにアサルトヘイトは成人した女性だった。例えるなら女子大学生を卒業した直後の女性新入社員みたいな印象。酒を飲むのは合法だが、大人の女性かと言われると首をかしげる程度の年齢の外見。
「ハーレクイーン。アレを渡してやれ」
「仰せのままに」
そうしてハーレクイーンがカードをアサルトヘイトに渡す。
「これは何であります?」
クネリ、と首をかしげるアサルトヘイト。
「お前の新しい戸籍。無雲帝国では朝路辺イイトと名乗れ」
「あ、本当に国民として迎え入れてくれるんでありますね」
「嘘はつかん……わけじゃないが、今回に関しては嘘じゃない」
「最悪そのまま処分も覚悟していたんでありますけど」
「人類史レベル最高のハッカーなんだろ? アルゴリズムにも詳しいんじゃないか?」
「まぁそりゃ平均より上ではありますであります」
「な、わけで、お前には俺の脳のアルゴリズムをAIという形で再現してもらう。それがここでのお前の仕事だ」
「社長の脳を?」
「そ」
「ソレは哲学的ゾンビでもおk?」
「クオリアの有無は問わん。ただ俺の脳の機能を実用レベルまで再現してもらえればそれでいい」
「ところでそっちハーレクイーンさんとシークイーンさんの五分の四ラの衣装は社長の趣味であります?」
「やっぱり悪の組織の女幹部はエッチな衣装を身に纏っていないとな。というわけで変身解いていいぞ」
俺がそう言うと、二人はドレスティック・インバータを起動させた。全ラになって、GカップとAカップの胸を露出させ、ポカンとしているアサルトヘイト……朝路辺イイトの前で元の姿に戻った。
「こちら巨乳の方が香鳴キレイさん。その娘が香鳴カレンさん。俺の部下だ」
「社長は何者であります?」
「表の顔は無雲帝国の国民の遠藤オワル。で、レコンキスタドーンの首魁にして無雲帝国の皇帝でもあるシングルモルトの別名を持っている。ついでにエンドレース株式会社の社長でもあるな」
「つまりこの島の支配者であります?」
「一応そういうことになるな」
後は魔法少女バーゴストライクと地球秩序維持思想団体オーダーメイドのスポンサーも務めているがソレは今は言わなくていい。
「で、私に核融合技術の開示をしてくれるんでありますよね?」
「もう既にしている」
「???」
「空間転移を使っているだろう? お前をここに呼んだのもそうだし」
「まぁ確かにワープはしましたでありますが」
「これを原子レベルでやるとトンネル効果でクーロン反発を無視して常温核融合を実現できるんだよ」
「…………」
信じられないのも無理はないが、信じる他無いのも事実で。
「つまり空間転移で核融合を制御している……と?」
「そ。コネクトーンっていうエキゾチック粒子を運用して、空間同士を繋げる作用を発生させる。後はそれさえ成功させれば常温核融合は成ったも同然だ」
「コネクトーン……」
「あくまでエンドレース株式会社の造語だがな。まだ俺たちしか確認していないエキゾチック粒子だ」
「と、するとさっきの発言と統合すると、社長が超能力でコネクトーンを操作していると?」
「ああ、俺たちはWARPドライバと呼んでいるが、正確にはコネクトーン・ネクサス。コネクトーンを集中させて管理する機能が俺の脳にはあるわけで」
「そもそも技術を開示したところで再現性が無いから、意味は無いけど特秘事項にしていた……と」
「意味はある。俺がそう言う存在だとバレれば俺の親が危ない」
「まぁソレは確かにであります」
納得はしてくれたらしい。
「なわけでだ。このコネクトーン・ネクサスを技術的に汎用性を得るように、俺の脳を調べて技術再現性を求めているんだが、さすがに脳工学に関してはまだまだ人類の文明はな。だからお前を雇おうと思ったわけ。年俸は一兆円でいいか?」
「お金にはあんまり興味ないでありますけど、まぁ貰えるなら。つまり社長……というか遠藤オワルの脳のアルゴリズムを技術的に再現しろと」
そゆこと。
「っていうかイイトは何で無雲帝国に敵対したんだ?」
「依頼があったから」
「相手はわかっているか?」
「さあ? 興味もなかったし。調べろと言われるならそうするでありますが?」
「別にいい。じゃあイイトのシタギも作るか」
「下着?」
「シンギュラリティ・タイミング・ギア。頭文字をとってシタギだ。さっきまでキレイさんとカレンが来ていた女幹部の制服」
「自分にも着ろと?」
「便利だぞ? 装着中は空間転移し放題だし。ついでに地球で核戦争が起きても無事息災でいられる」
「ソレは確かにすごいでありますけど。それもWARPドライバ……いわゆるコネクトーン・ネクサスの能力の内であります?」
「ああ、空間同士をコネクトする結果だな。物質、距離、空間、情報、様々なモノをリンクさせるのがコネクトーンっていうエキゾチック粒子だから」
「なるほどね……であります」
「ちなみに住居は香鳴さん家に居候しろ。キレイさんの料理はマジで美味いから」
「あらあら。シングルモルト様。照れてしまいますわ」
「じゃあコードネームを与えるか。ハーレクイーン。シークイーン。と来たら……そうだな。これからイイトはランクイーンと名乗れ。レコンキスタドーンの女幹部は、これからツインクイーンではなくスリークイーンに改める」
「あらあら。賑やかになるわね」
「うっす。承ったっす。オワル先輩」
キレイさんもカレンも異論はないらしい。二人とも俺を恩人に思っているので反論する余地も無いのだろうが。
「まぁいいでありますけど……シングルモルト様の脳のアルゴリズム……でありますか」




