第7話:お隣さんも大事に
「っていうかよく独富島に来れたよなー。ここの税関ヤバいらしいぞ?」
クレープを食べ終わった後。ネットで悲鳴が聞こえるような気がしたが、それはあえて無視するとして。独富学園の三美姫の一柱とクレープデートをしたのだ。男どもの怨嗟はまぁ予想できるのだが。
「ま、そもそも遠藤家はここの出身だし」
苗字的には地方が違うのだが、それは別にいいだろう。祖母ちゃんの代から独富島で遠藤を名乗っているのだから、つまり俺は独富島の出身だ。ちゃんと祖母ちゃんの家も固定資産税を払って維持していたし。俺がここにいていい理由はある。
「ま、実際助かってるんだけどな。電気代も通信費も格安で定額。累進課税もないから稼ぎ放題。世界中の富豪が移住したいらしいけど、許可がとれずに右往左往って話だ」
「まぁそりゃあんな政策していればな」
独富島。今でいう無雲帝国はレコンキスタドーンによって日本から独立している。悪の政治結社レコンキスタドーンは怪人メターマンを使って警察と海上保安庁を駆逐。日本政府に二の足を踏ませ、独富島の日本からの独立に調印を押させた。後にそれが日本国にとて致命的な誤りであったことがわかるのだが、それがわかったときは後の祭り。超超高度文明を築いた独富島はその利権を独占。世界に対して圧倒的なアドバンテージを得るに至る。
「ま、ここが異常なのは俺も否定しないがな」
面積拡張のためにメガフロートを使って海上都市を建設している独富島。とはいえそれはあくまでここ二年の話。まだ独富島が日本だった頃は単なる東京諸島で。俺の家が島の内部にあるのもある意味で必然。というかレコンキスタドーンが独立宣言した後も、最初から島にいた島民は安全を保障され、特に何不自由なく穏やかに暮らしていた。今と昔で違いがあるとすれば……。
「GUU」
「あ、すんません」
これだ。メターマン。出自不明のレコンキスタドーンに従う怪人の存在。基本的に人権はなく、ついでに法にも保護されていない。ただレコンキスタドーンに敵対姿勢を示せば襲い掛かってきて、対象を駆逐する。そう言う危ない怪人が島を練り歩いていることくらいか。税関が厳しいとマスラオは言ったが、正確には無雲帝国に悪意を持つ相手にメターマンがところかまわず襲い掛かるのでスパイとか軍事力とかが侵入しようとすると、それに鋭敏に反応するだけだ。
「じゃ、ここだな」
俺はマスラオを送っていた。コイツはまぁ魔法少女なので万が一など億分の一もないが、それはそれとして送るなら俺だろう。
「ありがとな」
元々の島民であるので斑鳩家も本島に家を持っている。幼いころは行き来していたし、朧気にはマスラオの家も憶えている。
「じゃな」
で、まぁ送った後は俺も家に帰るだけだが、元々が幼馴染。そんなに離れた場所に家があるわけでもない。
「なぁ。オワル」
「んぁ?」
「俺が魔法少女だってバラされないために何でもするって言ったらどうする?」
「バーゴストライカーズTCGのコモンカードにサイン貰ってネットショップで売る」
「ふは! そりゃ傑作だ!」
ゲラゲラとマスラオは笑う。
「わかったよ。今度サインしてやるから」
「お、言ったな。じゃあその時は頼むな」
「…………ボソボソ(そういうことじゃ、ないんだがな)」
ふとマスラオに影が差した。
「?」
「何でもない。お前の口が固そうで良かったよって話」
「ああ、それは信用してくれ」
いまさら罠娘少女ダーンディアナが斑鳩マスラオだとバラすわけも無いし。そこら辺の情報の扱いは結構たけているぞ。そうして家に帰ると。
「うっす! 先輩! お久しぶりっす!」
我が家の前にカレンがいた。灰色の髪をした美少女だ。先輩、と呼ばれたように、独富学園の後輩。経緯は知っているが、まぁソレは別にいいとして。
「どうかしたか?」
「これ。お母さんから差し入れと言うか」
タッパーを袋ごと渡された。
「ありゃ。またか。いや、気にしなくていいんだが」
後輩のカレンは母親と二人暮らし。それも島内……というか我が家の隣。元々別の人間の家だったが、今は香鳴の母娘が住んでいる。そのお母さんの香鳴キレイさんはお隣である俺の世話を焼くのに終始している節があり、こうやってご飯を娘を挟んで渡してくる。俺としては放っておいてくれてもいいのだが、気にするなという言葉が耳を素通りする特別仕様らしい。
「あ、じゃあいただきます」
「煮物と煮込みハンバーグっす。二日以内に食っていただければ、とお母さんが」
「ああ、助かるよ」
香鳴さん家には頭が上がらない。
「うっす。じゃあ美味しく食べてほしいっす。ではこれで」
ペコペコと頭を下げて、カレンが帰ろうとする。
「ちなみにカレンは手伝ったのか?」
「ハンバーグをこねるのは手伝ったっす」
了解。タッパーを返す時はハンバーグが美味しかったと強調しよう。
「それじゃ先輩! また明日!」
「じゃなー」
とはいえ別れるも何も島内のお隣さんだ。お隣の玄関に消えていくだけだったが。
「煮物とハンバーグね」
キレイさんの飯は美味しいので、楽しみではある。家庭的な料理に関して言えば香鳴さん家の料理はハズレが無い。今までの飯も美味しかったし。俺が最近こっちに引っ越してきたことを思案しているのか。ちょくちょくこういうことがある。
「今度飯奢るかー」
こっちから何も返さないのはそれはそれで気まずい。とはいえ手作りの飯を、家事を十全にやってのけるキレイさんの舌に合格を貰えるほどの精度で作れるはずもなく。であればホテルのレストランでコース料理とか奢った方がいいのか。
「とりあえずは帰って飯にするか」
ご飯は頂いたわけだし。これでメニューに困ることもない。出前か外食か冷凍食品か。俺のレパートリーなんてそんなもんだ。
「煮物は日持ちしそうだし、先にハンバーグだな」
レンジにタッパーを入れながら、そうして飯が出来上がるのを待つ。
と。
「お、メターマンか」
持ち歩いていたスマホ。そこにお知らせが届いた。ネットではすでにニュースになっている。利権もあるし、メターマン襲撃の生配信は俺にとっても他人事ではない。スマホを起動して生配信動画を見る。
「今度は赤べこか」
メターマンについては結構認識しているが、別に俺が管理しているわけでもない。とにかく彼ら……彼らと言っていいのかはともあれ……メターマンは何かをモチーフにして、それを人型に……つまり擬人化する形で生まれる。レコンキスタドーンが何を考えているかはあえて語らないが、それによってメターマンを派遣するということは、つまり無雲帝国に敵対姿勢を示した国家、組織、企業、その他がそこに存在するということで。
「バカは死んでも治らないか」
ちょっと前に罠娘少女ダーンディアナ。つまりマスラオが魔法少女になって派遣され、地方に甚大に被害を出したというのに、それでも無雲帝国に反抗的な集団という奴は滅びない。とあるメタルヒーローのOPの歌詞を流用すれば「呆れちまうぜ」とも言える。




