第65話:四人の力を一つに
「あーあ」
ネットが悲鳴を上げていた。地球における未曽有の大混乱。俺が夜中に叩き起こされて、WARPドライバでエンドレース株式会社の社長室に空間転移したのが午前三時のこと。何か夢を見ていたような気もするが、大慌てで俺を叩き起こしたシークイーンの暴挙に、仕方なく起きて、それから状況を説明された。常任理事国という集団が存在する。いわゆる核の保有を認められた国の総称なのだが、その常任理事国の軍事施設がハッキングを受けて、核ミサイルが発射されるのされないの、という状況らしい。俺にしてみれば「そうですか」程度でしかないのだが。
「既に五か国は国際魔法少女基金に入金して、核ミサイルの無力化を依頼しております。しかしもし独富島に核が落ちたら……」
「まぁ国は終わりだな」
それより眠い。まぁあと一時間程度で無雲帝国が放射能汚染を侵されると思えばのんびりもしていられんのだが。メアリーシステムで状況は把握している。既に常任理事国の軍事施設は完全に乗っ取られており、ソレを為しているのが誰なのかも把握は難しくない。
「アサルトヘイト……ね」
かのスーパーハッカーであれば常任理事国の核ミサイルをクラックして発射させることも不可能じゃないのだろう。ますます手に入れたい人材だ。ネクサスの開発に役に立つかもしれない。
「で、常任理事国が合計で入金した額は?」
「合計で二百億です」
五か国が四人の魔法少女に十億ずつ払えば四十億の五倍で二百億か。うち半分が国際魔法少女基金に入るわけだから、つまりレコンキスタドーンの懐に百億入るわけだ。とは言っても外国の金だし相場もあるし、純粋に日本円で二百億ではないだろうが。
「発射された核ミサイルは?」
「計七発。これはむしろシングルモルト様がよく分かっているのでは?」
ハーレクイーンが真面目くさって、そう言った。確かに知ってるけどさ。
「アサルトヘイトも暇なのかねー」
「依頼された、と見るのが妥当かと」
「だったら依頼された金以上の金を払って止めさせるって手段もとれるんじゃないか?」
「っすね。そっち方向で試してみるっす」
「とりあえずは弾道ミサイルの方だよな。バーゴストライクは動いているか?」
「夜中に叩き起こされて、渋々出動しています」
気持ちはわかる。寝ていいなら俺も寝たい。
「ドローンだけ飛ばしたのか?」
「まぁツインクイーンのシタギは核兵器では通用しないのはわかっていますが、それはそれとして世に顔を出すわけにもいきませんし」
レコンキスタドーンは、その正体を悟られるわけにはいかない。そのためのカバー会社がエンドレース株式会社なのだから。そうして通知が来ているスマホから動画を眺めて、夜の日本の、その上空に集まっているバーゴストライクを見る。
堕星少女スタッブスターが反重力で落下してくるミサイルを受け止める。
究極少女アルテミストが爆発の衝撃を緩和するために斥力場を形成する。
太陽少女オーバーサンが核爆発の高熱を冷却するためフィールドを張る。
罠娘少女ダーンディアナは膨れがる放射線を磁場で防ぐため力場を作る。
この前の共和国の一件と対処が同じだ。ただ今度のミサイルは七発。単純に比較は出来なくても七倍の威力だ。とは言ってもせいぜい七倍。そもそも核爆発がどうとか、バーゴストライクの運用するエネルギーはそんなレベルじゃない。本気を出せば太陽系を蒸発させるエネルギー運用だ。ある意味で核兵器より恐ろしいクリーンエネルギー。それと知ってバーゴストライクに喧嘩を売ることを避けるが故に、国家も腐心しているのだから。
「ま、ミサイルが着くまで三十分ってところか」
「シングルモルト様。アサルトヘイトから犯行声明が」
「暇なのか?」
一応ネットに目を通す。
『頑張れ無雲帝国。核の雨から国土を守り切れるか?』
「挑発にしてもお粗末だな」
「それはそうっすけど。シングルモルト様は淡白すぎませんか」
「バーゴストライクがその気になれば地球は滅ぶからな。核兵器くらいなら可愛いものだろ」
ピスタキオン・サルベーションもあるし。まぁアレはファイナリティマジックの使用が前提だが。そうして三十分後。
「来る……」
「ッ」
「ッッ」
俺が呟き、ツインクイーンが絶句する。核弾頭が爆発して、独富島の空を白く染める。キノコ雲は発生したが。放射線は罠娘少女ダーンディアナが完全に防いでいるし、爆風は究極少女アルテミストが、高熱は太陽少女オーバーサンが、それぞれ相殺している。ついでにその爆発そのものが反重力で地上ではなく宇宙の方に流れている。これは堕星少女スタッブスターの反重力のおかげだ。残った光……フォトンだけが独富島を照らした。そうして世界中が震撼して、核ミサイルの発射と、それに起因する核保有の杜撰さを常任理事国が世界中から非難され、そもそもハッキングされて核を撃つ可能性がある以上、常任理事国がどうのこうのではなく核兵器は世界中から撤廃するべきだという思想が広まった。しかも立て続けに独富島……というか無雲帝国が狙われ、俺たちを同情する声も決して少なくない。愉快犯として犯行声明を残したアサルトヘイトの態度についてもヘイトが集まり、そうして国際犯罪の一種に認定されている。まぁこれは元から。
常任理事国は国のトップが正式に無雲帝国に謝罪し、非を認め、以降の対策を詰めるために各国で会議をすると言ってきた。とは言ってもアサルトヘイトがその気になれば第三、第四の核ミサイル発射も視野に入るので、どれだけ会議に意味があるかは俺にも何とも言えないのだが。
「昨夜は大変だったな」
で、次の日の昼休み。隅っこの四人席で、俺とキラとキワミとマスラオ。さすがに太陽少女オーバーサンこと壱岐尾先生は同行していないが、あっちには今度労おう。
「まぁ二十五億の仕事じゃないよね」
「……核兵器がこれからも降ってくるんでしょうか?」
「嫌だな。そんな国」
まさにお疲れ様としか言えないわけで。もちろん声は低くしている。この三人がバーゴストライクであることは、俺たちだけの秘密だ。
「にしても核ミサイルねぇ」
「まぁ何度来ても対処するがな」
マスラオが担々麵を食べながらそう言う。
「私もだよー」
「……ボクもです」
「っていうか、なんでアサルトヘイトがウチの国を狙うんだ?」
もちろん理由なんてわかりきっているが。
「無雲帝国のエネルギーインフラだろうね」
「……っていうかそれしかないし」
「そもそも独占していい技術か?」
よかーないが、現時点では無雲帝国以外ではあんまり進めたくないんだよな。これは俺というかエンドレース株式会社の社長と無雲帝国の皇帝とレコンキスタドーンの首魁としての意見だが。その三者が全員俺という。
「まぁこれで無雲帝国に核兵器は通用しないとアサルトヘイトが諦めてくれればいいが」
「第三の矢があると思うなぁ」
ボソッとそう言うキラ。ソレには俺も同意見。無人飛行偵察機のハッキング。核施設のハッキング。とすると第三の矢は……。考えるのも疲れる事案ってのはあるもんだな。
「壱岐尾先生にも労っとくか」
「オワルのおっぱい星人」
「……ボクもおっぱい大きいよ?」
「二人とも……俺に対する皮肉か」
別に罠娘少女ダーンディアナが貧乳でも俺は気にしないのだが。
「っていうかメターマンはアサルトヘイトを狙わないのか?」
その疑問も御尤もだが、そもそもメアリーシステムで把握できていないんだよ。




