第58話:釣竿とオーバーサンと
「潮風が心地いいなー」
斑鳩のおじさんに頼み込んで船を出してもらい、俺とマスラオ、キラとキワミは海に出た。そうしておじさんにレクチャーしてもらいながら、釣り糸を海に放り投げる。そのまま待つこと十分。
「お」
そこはさすがに漁師の息子か。マスラオの釣り針にヒットした。そうして幾たびかの攻防をして、釣り上げる。美味しい魚の一種だった。その一匹だけで美味しい気持ちにさせられる。そんな感じ。そのまま数十分過ぎて。
「うーん」
「難しい」
「……難儀」
というわけでマスラオ以外は苦戦していた。そもそも釣りがそんなに得意ではないのだろう。俺もキラもキワミも。ヒットはするのだが、そこから船まで持っていくことができない。釣り針も一回持っていかれた。斑鳩のおじさんに謝ったのだが、おおらかな人柄で簡単に許してくれた。こういうところは漁師って豪快だよなー。
そうして潮風の中で学生釣り活動をしていると。
「――――」
「――――」
「――――」
「――――」
「――――」
俺たちのスマホに通知が届く。しかも通知が届いたのは斑鳩のおじさんも一緒だった。もちろんバーゴストライクチャンネルだ。今日も今日とて、世界のどこかで無雲帝国の核融合技術を盗もうと暗い部屋で作戦を練っているバカどもがいるのだろう。そういう輩をメアリーシステムで認知して、WARPドライバでメターマンを送り込み、都市ごと粉砕するのがレコンキスタドーンのやり方だ。
「いくのか? マスラオ」
心配そうにおじさんが聞く。
「いや、確率は四分の一だしな」
一応キラとキワミが魔法少女であることは秘密だ。斑鳩のおじさんもむやみやたらに息子の正体を吹聴する愚はおかしくたくないだろうし。とすると、だ。
「そこまでですよ! メターマン!」
キラでもキワミでもマスラオでもないバーゴストライクが動画に映った。ツインクイーンが配信しているバーゴストライクチャンネル。そのドローンカメラに映ったのは太陽少女オーバーサンだった。
「ああ」
「そう」
「……ですか」
「だな」
ちょうどいいと言えばその通りではあるのだが。
「フレイムバースト!」
動画の中、炎でメターマンを炙るオーバーサン。今日のメターマンはサボテンだ。もちろん当たり前のスキルとしてプラズマブレスは持っているが。
「アイシクルソード!」
今度は冷気で剣を作って、ブローギアの先端に構成する。そのまま振り抜いてサボテン型メターマンを斬るのだが、それでもうまく行かないのが世の常で。だが着実にダメージを与えて行って、そのまま終わるかと思った矢先、当たり前のように巨大化するメターマン。まぁ作っているのがレコンキスタドーンとはいえ、傍迷惑には違いない。すみません。襲われている都市の皆さま。
「IOOOOO!」
巨大化した人型のサボテンが針がびっしりついた腕を振るってビルを壊し、ブレスで街を破壊し、道行く人を踏み潰さんと暴れまわる。だがそれもそこまでだ。
『だがそこまでだ!』
『いけー!』
『オーバーサン!』
『俺たちの希望!』
「ファイナリティマジック……」
そうして決着魔法を行使するオーバーサン。
「マイナスヒートランチャー」
絶対零度を下回るマイナス温度の砲撃。それは、温度によって物質は体積が小さくなるという自然法則を逆手に取った完全なる虚無への回帰。受けるだけで世界からいなくなってしまい、体積がマイナスに反転する。結果、サボテン型メターマンはこの世から消え失せた。
『ふおー!』
『さすが!』
『オーバーサン!』
『おっぱい!』
『寄せて上げて!』
「こ、こうですか?」
ドローンカメラに映っている太陽少女オーバーサン。そのHカップのおっぱいをサービスで寄せて上げて見せるオーバーサン。
『エロい!』
『シコい!』
『今日のおかずは決まりだな!』
『ありがとうございます!』
そうしてオーバーサンの活躍によってメターマンは倒されたのだが。街の被害は甚大なもので。
「ピスタキオン・サルベーション」
因果逆転魔法を使って、その壊れたまま都市を修復する。これにて一件落着。そうしてバーゴストライクチャンネルの視聴を終えて、また船釣りに戻る。
「しかし太陽少女オーバーサン……かぁ」
斑鳩のおじさんは多分エッチなことを考えている。あの爆乳を寄せて上げる仕草は男には特攻攻撃だろう。気持ちはわかる。俺もエッチだなって思った。しかしそれをここで言うわけにもいかないし。どうせ今頃俺の部屋で全裸になっているのだろう。惜しい事をしている気分だ。
「わ、釣れた! 釣れたよ……」
で、釣り糸を垂らしてホケーッとしていると、キラの釣り針に魚が食いついたらしく。今度こそ釣って見せると意気込んでいたキラに、斑鳩のおじさんが釣りを指導して。そのまま指導通りにリールを巻き、魚と攻防しながら釣り上げた。これもまた食べて美味しい魚だ。
「超嬉しいんですけど。写真撮ろ♪」
釣竿と魚を見せびらかしながら斑鳩のおじさんが記念写真を撮って、それをキラのスマホに送る。つまり普通にキラとIDを交換したわけだが、それでいいのかおっさん。そうして全員が最低一匹釣った段階で、船釣りは終了。独富島まで戻って、釣った魚を斑鳩のおば……お姉様に提供。刺身にしてもらい、甘辛い醤油ダレで食べる。
「うーん♪ 美味しい♪」
「……取れたての魚って……ヤバいですね」
自分で釣った魚を刺身で食べる。その初体験にキラもキワミも喜んでいた。
「がはは! だろう! だから漁業は止められねえ!」
おじさんは酒を飲んで、刺身を味わい。釣った魚を憶えているのか。一切れ食べるごとに釣った俺たち一人一人に感謝の言葉を投げかける。こういう繊細なところがお嫁さんをゲットしたコツなのか?
「…………ボソボソ(ようよう。オワル。それでお前の本命はどっちなんだ?)」
酒で酔っているのだろう。ニヤニヤした顔面にストレートをぶち込みたくなる笑顔で斑鳩のおじさんが俺に問う。
「なんのことですか?」
「…………ボソボソ(だからぁ。星崎ちゃんと二江さんのことだよ。狙っているんだろう?)」
狙っているというか……すでにしているというか。
「…………ボソボソ(どっちが本命だ? おじさんにだけ教えてくれ)」
「どちらも本命です」
あー、刺身が美味い。
「このぅ。くそぅ。いい思いしやがって」
グリグリと俺のこめかみに拳を押し付けてくる。一応バーゴストライクの皆さんとは……その……ねえ?
「…………ボソボソ(ちなみにウチのマスラオも可愛さでは負けていないと思うんだが?)」
「知ってますよ」
アレで結構可愛く鳴くんだよな。マスラオって。正確には罠娘少女ダーンディアナ。
「俺も青春時代を思い出すなー」
学校の三美姫が今ここに集っているのだ。おっさんであっても若いころを思い出すのだろう。実際にキラもキワミもマスラオも、全員可愛さで言えばトップオブトップだ。
「可愛いことは認めますよ」
「くーっ! 酒が進むぜ」
飲み過ぎないようにな。おっさん。肝臓は大切に。
「オワル。オワル。はい。あーん♡」
「……旦那様……あーん♡」
で、自分が釣った魚は美味しいだろうと可愛く自慢して食べさせてくる乙女たちだった。




