第51話:アトランティスはかく語りき【三人称視点】
「米国でも駄目であったか」
「仕方あるまい。世論は既に無雲帝国を認めている」
「しかし産業スパイが隙を突いてデータを盗み出したのであろう?」
「結果、そのスパイと上司が首の上下が泣き別れだ」
「中華もコレを持って尻込みしている……らしい」
とある場所。とある空間。とある時間。とある会議。
円卓を囲んだ十二人が、無雲帝国について語らっていた。彼らにとっては無雲帝国の膨大なエネルギー産業の技術は無視できず。無雲帝国はその膨大な電気エネルギーで合成燃料を作り格安で輸出している。世界的には助かっている側面が大きくあるのだが、彼らの経済支配が少しずつ瓦解していることも事実で。世界のトップに立つ十二人が、無雲帝国に権益を脅かされているというのは、彼らにとり無視できるものではない。
「スパイが参謀部に送ったデータはどうだったのだ? 回収できたのであろう?」
「原子力発電の設計図だったそうだ。核分裂のな」
「スパイは踊らされていた……というわけか」
「そもそも無雲帝国の技術の中心にいる技術者たちの情報がどうしても調べきれない。エンドレース株式会社は既に国家レベルの企業だ。秘匿性の維持にも限界があるはずだろう」
「何か、こちらも知らない技術を持っている。そう受け取るべきか」
「バーゴストライクの件もある。あながち却下できる意見でもないな」
一応のところ、バーゴストライクとレコンキスタドーンのマッチポンプについては彼らには想像の埒外だ。というか知っているのはごく少数。
「先に魔法少女の魔法について解明すべきでは? 核融合技術は魅力的だが、扱うエネルギーについてはバーゴストライクの方がはるかに上だろう」
ブラックホールやらホワイトホールやら。やっていることが恒星系破壊レベルだ。
「国際魔法少女基金に入金して技術提供を?」
「それで技術を開示されれば御の字だが……」
「そちらについては話しを進めるとして、だが無雲帝国も無視は出来まい」
「最悪、島民を虐殺して独富島を占領するというのは?」
「バーゴストライクが救護に回ったらどうする? そうでなくとも第四勢力がここにおいてさらに追加されたのだ」
「地球秩序維持思想団体オーダーメイド……か」
「スクール水着仮面はこの前バーゴストライクと共闘していたな。バーゴストライクは金で動いているが、スクール水着仮面の方はスポンサーはいるのか?」
「調べてはいる。朗報としてスクール水着仮面二号の正体についてはわかっている。須久留ミズキ。無雲帝国独富学園の生徒の一人だ。というか、最近転校してきたばかりだが」
「地球秩序維持思想団体オーダーメイドにとっては無雲帝国も秩序を乱す敵らしい。その意味で須久留嬢がレコンキスタドーンと敵対するのは追い風ではあるが……」
「今のところ大統領にもメターマンは襲ってこない。正面から堂々と……であればメターマンは襲ってこない?」
「決めつけるのは早計だが、あながち間違っているとも言い難く」
だがどういう情報網を持っているのか。無雲帝国に対して敵対行動をとると、どこからともなくメターマンが襲ってくる。
「我々は無事だぞ」
「さすがにここまでは監視の目も届かない、と見ていいだろう。だがそれにしても無雲帝国に対して打つ手がないというのは歯がゆくもあるな」
「一つ。劇薬を処方してみるのはどうだ?」
「劇薬?」
「我々と同じでありながら、我々とは別の原理で動いている。統治者である私たちとは相反する破壊者。彼の者もある意味で無雲帝国とて把握していないだろう」
「…………」
一人がそう言うと、他の十一人が沈黙した。唖然としたわけではない。むしろ思案している表情だ。一人が劇薬と称したのも、それを処方と言ったのも、ある意味では全く持って正しい。長期的視野を持って無雲帝国からいい条件を引き出す。それが真っ当な方法であるのなら、彼を使うのは確かに劇薬だろう。効果は折り紙付きだが、場合によっては莫大な副作用が起こる可能性もある。それが無雲帝国の島民を皆殺しにする程度なら受け入れられるが核融合技術の資料まで灰燼になってしまえば、エネルギー革命の火が消えることになる。アトランティスが欲しているのは無雲帝国の技術であって滅亡ではないのだ。
「首輪をつけて飼いならすのが不可能なのは承知している。だが、ある意味であの場所にいるアサルトヘイトは、私たちとは別の意味で無雲帝国の皇帝でも把握していない可能性はある」
説得力はある。だが金を渡した結果、独富島が地図から消えたら、それはそれで損をするのは地球人類に他ならない。
「致し方なし……か?」
一人がポツリと呟く。可不可を問うなら可ではある。手綱を握れない以上、最低限のリスクは付き纏うが、無雲帝国が日本から独立して二年弱。あらゆる手を尽くしてアトランティスがかの国に干渉しようとして、その悉くが失敗している。今更手段を選んでいられるか、と言われると反論できるほど彼らに余裕はない。
高々二年弱で一国として繁栄し、全世界の富の五パーセントを集約する。米国に対しても軍事的、世論的な勝利を勝ち取り、あらゆる国は無雲帝国が低価格で輸出する合成燃料によるインフラが既に構築されている。国際的イニシアチブを考えると空恐ろしいほどだ。あらゆる国は無雲帝国の機嫌を取って、出来るだけ穏便に合成燃料を輸出してもらわなければ立ち行かないところまで来ている。化石燃料ではないエネルギーを持っているというだけで、かの国はあらゆる国際的なアドバンテージが最高位であるのだ。
「決を取ろう」
一人が言った。そうして十二人の多数決が行われた。民主的な方法と言ってもいいが、地球文明を左右する決議を十二人だけで取り決めるのは、ある意味で独裁に他ならない。
「では、アサルトヘイトを運用する。その方向で行こう」
何人が賛成し、反対したか。ソレはわかっていても言及はしない。アトランティスは世界のトップであるが故に、その意見は地球人類に反対する権利が無いのだ。
「では、解散とする」
そうして十二人は席を立った。これから経済的にも仕事をしなければならない。保険会社。銀行。石油産業。穀物メジャー。あらゆる世界の情勢を統率するが故に、彼らは世界のトップであるのだから。そういう意味では無雲帝国が目障りであるのは論理的必然でもあった。
「アサルトヘイト……か」
まさに劇薬だ。世界有数のテロリスト。なお、テロリストと違うのは、何かしらの政治的意思を持っていないこと。あえて言うなら暴力機関に近いだろう。軍隊と違うのは銃も戦車も爆薬も持っていないところ。それでも各国が恐れる、反秩序の具現でもある。
「オーダーメイドが黙っているかどうか」
地球秩序維持思想団体オーダーメイド。彼女らにしてみればアサルトヘイトも粛清の対象だろう。それでもアサルトヘイトにいるところまで出向くということが不可能なのは、アトランティスも十分に察している。だが本当にアサルトヘイトが手段を択ばなければ、独富島は焼け野原になってもおかしくないのだ。合成燃料を格安で輸出している。その無雲帝国が機能不全に陥れば世界は大恐慌を迎えてもおかしくない。分かっていながら、それでも持病を治すには薬を飲むしかない。その事実が彼らにとって何より悔しく、また無念でもある。
「しかし金で買える戦力という意味では、米国より強力であるのも事実……か」
それこそアメリカを滅亡させられるとは思っていないが、ペンタゴンを機能不全に陥れることくらいは平然とするのだろう。
裏社会のトップオブトップ。世界各国のマフィアでさえも、その名を聞いたら怖気震えるという。
「そもそもレコンキスタドーンの首魁とは……」
この二年弱で無雲帝国は雷鳴のように世界にその名を轟かせた。だというのに、いまだに無雲帝国の皇帝の顔も名前も、世界の誰も知らないのだ。エンドレース株式会社の社長はまだ情報があって、何某という元日本人がその座についていると把握しているが、それでも社長が実権を握っても経営方針に口を出す以外はしないらしい。あらゆる企業が増資を提案しているが、そのどれをも突っぱねている。未だに大企業であるエンドレース株式会社の株式はおっさんと見なされている社長が百パーセント握って放すことをしていない。




