第5話:学校でのこと
「一組か」
春休みが終わり。俺は無雲帝国が運営する学園……独富学園に登校していた。元々東京諸島の一つだった独富島を悪の組織レコンキスタドーンが支配して独立宣言をしたのだ。俺としては「そうですか」程度だが日本国政府には迷惑な話だろう。だが実際にメターマンという戦力をもって一国と相争えるレコンキスタドーンに日本国の警察も海上保安庁も敗北。自衛隊は内紛には関与せず、第七艦隊も自国内の事に干渉するのは越権行為。結果、日本政府は書類上では独富島の独立を承認。無雲帝国という国名の小さな島国を認めることになった。
「よ。オワル」
で、俺が学校のクラスわけを見ていると、マスラオが気さくに声をかけてきた。バーゴストライクの一人。魔法少女である罠娘少女ダーンディアナの正体だ。まぁそれは特秘事項なんだろうけど。
「何組だった?」
「一組」
「じゃあ俺と同じだな。よろしくしようぜ。オワル」
そうして独富島を出て別れることになった幼馴染の男子……斑鳩マスラオと同じ学校になったことを喜んだ。さて、そうすると、だが。まさかここで魔法少女の話をするわけにもいかず。
「っていうか結構当たりだよな。このクラス」
ニヤニヤと微笑んで、マスラオはそう言う。自分が男の娘であることを自覚しているのかしていないのか。
「当たり?」
「星崎と二江がいるし。担当教諭も壱岐尾先生だし」
「誰?」
「あーそっか。オワルは知らないんだな。ウチの学校の美少女だよ」
「美少女……ね」
「マジ可愛いから。オワルも惚れると思うな」
「マスラオより可愛い?」
「ばっか、お前……ナチュラルに口説くんじゃねーよ」
顔を真っ赤にしてマスラオは照れる。こういう初々しい反応を見ると、俺としてもちょっとだけマスラオを可愛いと思える。実際に男の娘だし。罠娘少女ダーンディアナでもあるしな。
「男から告られたりしないのか?」
「ないではないけど……」
マジであるのか。でもまぁ確かにマスラオくらい可愛ければ普通の男は道を踏み外すよな。男の娘ってそれだけで性癖を破壊する麻薬だ。
「ま、とりあえず教室だな」
そうして俺は教室へ向かう。独富学園に通うには相当の学力が必要になる。特に偏差値の高い学校でもないのだが、それはそれとして独富学園に通いたい生徒が大量にいるのが問題だ。俺的にはどうでもいいのだが、無雲帝国に住居を移したい人間は多数おり、それらの全てが叶わないことを俺は知っている。俺が独富学園に通えることになったのも、まぁそれはそれでいくらかの事情があり。
「にしても、電気代と通信費が安いのは魅力的だよなー」
マスラオはスマホを弄りながら、そんなことを言う。マスラオが魔法少女ということは相当稼いでいるのは事実だ。国際魔法少女基金に膨大な振り込みがあるだろうし、配信動画のスーチャも膨大な金額であるだろうし。その上ここは無雲帝国なので日本の法律は機能せず、確定申告もない。
「ほら、行くぞ。オワル」
「ん? ああ、そうだな。マスラオ」
そうして二人で歩き出す。教室までは然程でもなく。そうして着いた教室にはザワザワと男子どもの喧騒。
「何かあったのか?」
「何か……はあったな」
苦笑するマスラオ。そうして適当な席に座って、俺はそのままホケーッとする。しばらくするとクラスがざわついた。それが何かと思っていると。
「やっほろーい! みんな! これから一年よろしくね! 横ピース!」
今時流行らない横ピースをしながら、一人の女子が現れた。明るい口調で滲み出る陽キャのオーラ。髪は茶色に染めて、胸元が少し空いている。ブラチラを期待して一部男子の視線を集めるが、ソレを気にする彼女ではない。超美人だった。顔で言えば一級。しかも御胸も育っており、どう考えてもB以下ではない。巨乳というか美乳。そこそこ育って健康そうな胸をしている。っていうかどこかで見たことあるんだけど……どこだったかね?
「よよよよろしく!」
「おほほほよろしく」
「あ、はははは」
男子は全員タジタジだ。俺も結構美少女は見てきたが、ここまでというのは初めてだ。それこそマスラオが女装した場合とほぼ同じレベルの美少女。マスラオも顔が可愛いから女装すると童貞を殺す程度には可愛いんだが。
「よろしくよろしく~。あ、そこの君! よろしく!」
後ろの席に座って、俺が彼女の存在感に圧倒されていると、こっちに近寄った美少女に握手を要求される。もちろん困惑すること多々だが、まぁそれはそれとして。
「私! 星崎キラーンっていうんだ。さすがにキラーンって呼ばれるのは恥ずかしいからキラって呼んでね?」
「ヤガミ? ヤマト? ヨシカゲ?」
「あははー。知ってるよー。オタクだね? えーと……」
「遠藤オワルだ」
「遠藤くん! 仲よくしよう!」
距離の詰め方がヤバくないか?
「じゃね! また話そうねー」
気さくに俺に手を振って、席に座る星崎さん。俺は夢い体験をしたかのようにフワフワしていた。いや、今の何? 美少女が美少女の顔をして俺に握手してくれたんだけど。凍狂デスニートランドのネズ公と握手するより至福なひと時だった。
「やられたな」
マスラオがニヤニヤしながらそう言う。つまりクラスの雰囲気がザワついていたのはこういうわけか。そりゃテンション上がるよ。星崎キラーンさんと一緒のクラスとか。ヒソカじゃなくてもズキューンですよ。
「っていうかマスラオは良かったのか? 挨拶しなくて」
「ま、別に狙ってねーし。告白されたら考えるけど」
「そっかー」
とか言いつつ、駄弁っていると教室のざわめきナンバーツー。
「?」
「もう一人の美少女登場だぜ?」
ニヤニヤと笑ってそう言うマスラオ。お前も十分美少女だろ、とは思っても言わないことにしている。だが確かに現れた少女の頭に美がついた。黒髪眼鏡の清楚系。さっきの派手な星崎さんとは対極をなす静謐な雰囲気。眼鏡をかけて静かなオーラを出しつつ、手にした本を読んで「話かけるな」オーラを出している美少女。しかもその胸があり得ない。多分でDじゃきかない。EとかFレベル。男子ならむしゃぶりつきたくなる豊満なボディを何とか苦しそうにブレザーに収めて、パッツンパッツンの制服着用をしている。もはやそのボディラインを見るだけで男子は股間を押さえるだろう。俺も発情こそしなかったが、それでも気圧された。静かで穏やかで文学少女なのにエロイというこの落差。星崎キラーンさんと双璧を為す美少女と言えるだろう。
「どうだ? 当たりだろ? このクラス」
マスラオがまるで自分の功績だとばかりに自慢してくる。その言葉にうなずくと負けた気がするが……まぁこの際負けでいいだろう。
「まぁ。そうだな」
あんな美少女二人と一緒にいると、頭がどうにかなってしまう。
「ちなみに名前は二江キワミ。ウチの学校の三美姫って呼ばれてる」
「あと一人は?」
「俺」
あっさりとマスラオは言ったが、俺は俺で謎の納得をしていた。




