第44話:バーゴストライクの憂鬱【三人称視点】
名も顔も知らぬ無雲帝国の皇帝は、アメリカのエネルギー産業技術の開示にノーを突きつけた。しかも終音クミのボイスで。ただ、一言。
「断る」
それだけ。その事実を大統領は世界中に公表し、人類を救済する技術を小国が独占し、富を一極集中させることは自由経済を冒涜し、またインフラによって救われる貧困層を見捨てるが如き暴挙だと演説した。
「「「「「イエス! アメリカ!」」」」」
アメリカの議員たちは、大統領の言葉に勇気を見出し、敬意を表して拍手した。ちなみに無雲帝国は発展途上国には格安で合成燃料を輸出しているので、経済的に見るとむしろ救済すらしているのだが、こういうのは先にレッテルを張った者が勝つのだ。
「と、言うわけでだ」
場所はアメリカが日本の基地に停泊させている空母の中。四人の魔法少女を前にして、敬意というか畏怖を持って接しているのは海軍の少将。国際魔法少女基金に一千億ドルを入金して雇った四人の魔法少女。彼女らがその気になれば、そもそも人類史が一瞬で終わる。その威力を知っているが故か。あるいは、それらの膨大なエネルギーを個人が好きに行使できるという悪夢への眩暈か。
「究極少女アルテミスト氏」
「……あ、……はい」
「貴君は空母の護衛に回ってくれ。斥力場による防御。それは空母全体をフォローできるだろうか?」
「……可能ですよ」
実際に可能だ。その程度の防御範囲はむしろ欠伸が出るのがアルテミストの本音であった。
「堕星少女スタッブスター氏。太陽少女オーバーサン氏。罠娘少女ダーンディアナ氏。三人はメターマンの排除と、空母の護衛。防御はアルテミスト氏に徹底させるが、攻撃と防御をフレキシブルに行使してくれ」
「…………」
「…………」
「…………」
スタッブスター、オーバーサン、ダーンディアナは難しそうに押し黙った。
「既にアメリカは国際魔法少女基金に千億ドルを支払った。仕事はしてもらうぞ」
「それはいいですけど」
スタッブスターは、最後の確認をする。
「私たち魔法少女の仕事は米軍の兵士の命の救護。間違いありませんね?」
「ああ、戦争には加担しなくていい。というかそれは基金とも話し合って禁止されている。独富島の島民に攻撃するのは無しだ。あくまで君たちの敵はメターマンに他ならない」
「りょ」
「……はい」
「わかりました」
「だぜ」
四人が頷いて、そうして作戦の詳細を詰めて、それから解放される四人。空母に乗ったのは四人とも初めてで、こんなバカデカい金属の塊が海に浮いて、しかも前進し、ついでに戦闘機を内包していると思うと、科学技術の素晴らしさに敬意を覚える。とはいえ、ブローギアの取り扱うエネルギーに比べれば微々たるものではあるのだが。
「こうやって話すのは初めてだね」
スタッブスターがそう言った。第七艦隊。その空母が停泊している軍事基地。空母の滑走路はまだ戦闘機も待機しておらず。平な面が水平に空母の最上階に広がっていた。
「今までは単独行動だったからな。こうして二人以上で任務をこなすって言うのは初めてだろ。しかもそれが四人同時とくる」
ダーンディアナが肩をすくめる。
「一千億ドルってことは日本円で約十五兆円とすると。半分が基金に支払われるとして、もう半分が私たちに。つまり七兆五千億円を四分の一にすると……」
ひぃふうみいと指折り数えるオーバーサンに。
「……一兆八千七百五十億円」
最後にアルテミストが鮮やかに暗算する。
「約二兆円かー。ボロイ仕事だね」
クスクスとスタッブスターが笑う。
「あのさ。先に謝っておくけど」
スタッブスターは茶髪の髪を潮風に揺らして、覚悟を決めた顔で言う。
「私、あんたたちと敵対するから」
「敵対……と仰いますと?」
オーバーサンが尋ねる。パーソナルジャマーが働いているので個人を特定できないのだが、それでもオーバーサンが一番年上であるのは何となく悟れた。ネットでも伸ばし棒を消去してオバサンと揶揄されるのが彼女の推しの態度だ。
「私ね。海軍と敵対する。裏切るわけじゃ無いよ。むしろ仕事の内だと思っている。米軍とメターマンをぶつけたら絶対に被害者が出る。そして私たちバーゴストライクの仕事は人命救護。なら、このバカげた作戦を止めることが私たちの仕事だと思う」
「…………」
「…………」
「…………」
思うところを吐き出して、スタッブスターはニヤリと笑う。
「だから、もし私を脅威だと思うなら今のうちに排除して。もちろん簡単にやられたりはしないんだけど♪」
ソレは明確な宣戦布告。アルテミストとオーバーサンとダーンディアナが米軍に全面的に味方するなら、彼女の言い分は裏切りと言って差し支えない。
「……ええと……ええ?」
「まさかまさかですね」
「先に言われちまったな」
そうして、三人が他の人間に聞こえるように言葉を漏らし、その言葉で、四人はお互いの腹の内を知った。つまりここにいる四人の魔法少女は全員が全員、志を同じくしていると。
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
そうして四人で瞳をパチクリ。互いの想うところを知って、呆然として。それからスタッブスターが「プッ」と吹き出して、それから四人で笑い合う。
「なーんだ。みんなも同じこと思ってたんだ?」
「……だって米軍の人命救護が最優先なら」
「それが一番最適解ですものね」
「そもそも俺は給料が出なくても米軍を止めるつもりではあったがな」
あっはっは、と笑いあって、そうして四人は一つの心で百万パワー。
「どうする? 空母沈める?」
「……そこまでしなくても。……脅せば話は早いのでは?」
「ですね。ちょっと推進機関を動作不良にすればいいと思いますよ」
「後は少将に話を付けて、作戦の撤回をしてもらえば、俺たちの仕事は終わりだな」
そうしてさっきの軍事作戦とは別に、四人の心は定まって、米軍の兵士の命を最優先に救護するために米軍と敵対する道を選び。なおそれを魔法という圧倒的暴力で抑止するという道を選ぶ……はずだったのだが。
「あー。マイクテスマイクテス。マイクじゃないけど」
昼の横須賀海軍施設。その頭上から声が降ってきた。どこかで聞いたことのあるような声だったが、そのことに違和感を覚えない。先に言ってしまえば、その声にもパーソナルジャマーがかけられており、個人の特定が不可能となっているのだった。
「レーダーで捕捉! 上空に個体反応アリ!」
海軍施設から、基地全体……もちろん空母にも警戒態勢の声が聞こえた。これから米軍相手に威力交渉をしようとしていた四人の魔法少女バーゴストライクは、ある意味で誰より絶句していた。自分たちが常識からかけ離れた存在であることを誰より知っているのがバーゴストライクだ。だが、それを上回る奇怪さが現れるとは。まさに予想だにしていない。その典型とも言える。
「我々は地球秩序維持思想団体オーダーメイドと言う」
我々、と言ったが、人影は二人。まぁ二人も複数形なので我々も不自然ではないのだが。空を飛んでいる……というより空中に制止して、一人の少女が拡声器を持って演説しているのだ。もう一人は黙ったまま拡声器を持っている少女の隣で空中に制止している。
「貴君ら米軍が空母を動かし独富島に侵攻する行為は地球秩序に反する行いである。即刻作戦の取り止めを要求する。受け入れられなかった場合、実力を持ってコレを排する。空母、戦闘機、ならびに海軍兵士諸氏の命を大切と思う心あるならば、理性ある撤退を選択せよ」
何やら手慣れた様子で演説している一人の女子。そしてその隣に空中に制止している女子。二人はスクール水着を着ていた。春も盛りのこの季節。まだ風は冷たいだろうに。




