第34話:マスラオのお弁当
「オラァ! オワル! 起きろ!」
布団で寝ていた俺に、マスラオの怒鳴が響く。最悪の目覚めに俺が頭を搔いていると、既に座敷のちゃぶ台に朝飯が置いてあった。
「食え」
「お茶をくれ」
「緑茶でいいか?」
既に俺の家のキッチン事情には通じているらしい。まぁ何回か家には上げているし、把握しているのは当然か。急須で緑茶を淹れて、湯呑に注いで渡してくる。俺はそれをゴクリと飲んで、「ありがとな」と感謝する。
「で、俺を叩き起こして何がしたいんだ?」
「今日のお弁当は俺の番だろ?」
男友達に弁当作ってもらうってソレナンテ罰ゲーム?
「一応言っておくがメシマズじゃないぞ」
そこは疑っていないのだが。
「朝飯は冷蔵庫に香鳴さん家のオカズがあったから温めた。御飯と味噌汁はインスタントだが別に気にしないだろ?」
まぁなぁ。一人暮らしだと一合炊いても困ってしまうのだ。必然玄関を開けて二分でご飯が必須消費物に当たる。
「ちゃんとお弁当は作ったから有難く食えよ」
だから男に昼飯作ってもらって男の俺がどうやって喜べと。
「あとお弁当作ったから俺とデートする義務があるだろ」
「そんなことも言っていたな。確かに」
デートするのは別にいいのだが。
「それで今日は女子制服か?」
「可愛い方がいいだろ?」
チラリとスカートの裾を持ち上げて、性的にアピールするマスラオでした。俺はモソモソと起き上がって、布団を畳み、緑茶を飲んで、朝飯にとりかかる。今日はレンチンの御飯とインスタントの味噌汁。あとはベーコンの入ったジャーマンポテトサラダ。うーん。美味い。さすが香鳴キレイさん。元人妻は伊達じゃないぜ。
「こういうのが好きなのか?」
「男の一人暮らしだからな。手作りの料理には憧れがある」
ソレを毎日のように届けてくれるキレイさんには頭が上がらない。
「じゃあ俺の弁当も期待していろ」
「あーはいはい」
そうして飯を食い終えて、食器の洗いはマスラオに任せ、俺は歯磨きと身だしなみと制服の着用。登校の準備が終わると、マスラオの方も仕事を終えたらしい。
「じゃ、行くか」
「キラと出会わなければいいな」
「まぁ出会うんだろうけど」
そういうわけで。
「オーワルッ!」
あっさりと俺とマスラオの登校経路を把握しているキラが俺に抱き着いた。もちろん回避する術はあったが、ここで合流しないと遅刻ギリギリまでキラは待つだろう。それはそれで忍びない。
「ちょ! 星崎! オワルから離れろ!」
「なんでマスラオの言うこと聞かないといけないの~?」
「今日は俺の番だろうが!」
「お弁当はねー。でも登校の権利まで放棄したつもりないし」
「オワルも跳ね除けろよ!」
「別にキラのことは嫌いじゃないしなー」
「そこは好きでいいんじゃない?」
「嫌いじゃないしなー」
「オ・ワ・ル? そういうところだよ?」
グリッとキラが俺の頬をつねった。そうしてマスラオとキラに主張権をシーソーされながら学内のヘイトを集めて登校する。相も変わらずキワミは俺の机に自分の机を隣接させているし、それはキラも同じ。後ろの席のマスラオが悔しそうにしているが、お前の弁当を食うことでチャラにしてくれ。虚ろな目をしている壱岐尾先生が心配にもなったが、彼女も聖職者だ。まさか教室で俺との関係を暴露するような馬鹿な真似はしないだろう。多分な。たまに命中率一パーセントの攻撃を喰らってしまうウルトラロボット廻戦のプレイヤーである俺には絶対という言葉など信じてはいないのだが。
そうしてホームルーム。午前の授業が終わって、それから昼休み。
「これが俺の弁当だぜ!」
と自信満々に出してきたのは金目鯛の煮つけだった。
「俺の両親は無雲帝国が建国される前から独富島で漁師をしているからな。魚に関しては信用してくれていいぞ?」
いや、しかし金目鯛て。大盤振る舞い過ぎないか?
「オワルが美味しいって言ってくれるなら労は惜しまないぜ」
言われて一口食べる。濃厚な旨味が魚肉に凝縮されており、贅沢という言葉さえ超越した何かだ。キワミの重箱もキラの焼肉弁当も美味しかったが、取れたての金目鯛の煮つけはそんなレベルではなかった。
「うんま……」
「だろう? 俺と仲良くすると美味い魚がいつでも食えるぜ?」
「ちょっとー。それズルじゃない?」
「……抗議します」
不満げなキラとキワミ。まぁたしかにレギュレーション的にはどうなのかという話ではあるのだが。あえて言うなら、独富島の原住民のアドバンテージだろう。
「じゃあ今日のオワルのデートは俺とな」
「っていうかマスラオは俺のことどう思ってるんだ?」
「好きだぞ?」
それは恋愛的に? それとも友情的に?
とはいえだ。マスラオも三美姫の一角に数えられる男の娘。可憐さで言えばキラにもキワミにも劣っていない。問題は性別が男でおっぱいが無いことくらいか。別に同性愛に偏見は持ってないが、俺が適応されるかはまた別の問題。
「オワル。弁当美味かったか?」
「超絶美味かった」
取れたての金目鯛の煮つけをマズいとか言う奴は日本人の資格がない。
「ニハ。俺の勝ちだな?」
ザマァ見ろとマスラオがキラとキワミにニヤリと笑う。
「オワル! 今日は懐石料理を食べに行こう!? 奢るから!」
「……旦那様……和食専門店を予約します。……二人きりで楽しみましょう?」
「残念ながら、今日のところはマスラオとデートだ」
「可愛い俺とデート出来て幸せだろ?」
クラスメイトのヘイトを買っていなければな。
「殺すか?」
「さすがに首を斬れば」
「アイアンメイデンを」
「市中引き回しだろ」
などなど。学校の三美姫を独占している俺へのヘイトが学校中て高まっているばかりだ。
「ところでお前ら。俺の何がいいの?」
「顔」
「……イベント」
「昔の約束」
全部意味不明だが。
「ま、じゃあ放課後はマスラオとデートな」
「いっそ滅殺する方向で」
「……隠された力を解放すべきか」
そりゃ堕星少女スタッブスターと究極少女アルテミストが殺しにかかったらおおよその恋敵は死滅できるだろう。問題なのは、罠娘少女ダーンディアナも同じだけのスペックを持っているということで。一応ブローギアの扱う魔法の質は違うが、相転移エンジンの出力そのものに違いはない。その気になればバーゴストライクは太陽系を消滅させられる。それは太陽少女オーバーサンこと壱岐尾クレナイ先生も同じだ。
「まぁまぁ。ちょっとデートするだけだから」
それで納得しろというのもキラにもキワミにも無理筋だろうが。




