第33話:とある場所のとある会議【三人称視点】
とある場所のとある席。とある人間たちがとある話題を出していた。
「やはりレコンキスタドーンの正体は皆目……か」
議会。会議。何とでも言えるだろうが円卓に座った十二人が揃って失望していた。
「あの無雲帝国の索敵能力は異常だ。ここだっていつバレるか分からない」
「だが我々がこうして無雲帝国に不利益な討論をしていても、ここにメターマンは来ない。つまりここは無雲帝国でも掴めない特異点だ。それはここにいる全員が共有するところだろう?」
「う……む……」
「そうだな。場合によっては鏖殺されても仕方がない。今時点でそれが無いということは、ここまでは無雲帝国の監視も届いていないと見るべきだろう」
「だからこそ問いたい。どうすればアレを墜とせる?」
とある議会のとある話題。その場所はレコンキスタドーンの首魁シングルモルトこと遠藤オワルでも知覚できない場所。そこに集まった十二人は、あえて言うならば、この消費社会のトップであり、銀行、証券会社、株式、保険会社、石油事業、穀物メジャーなど、あらゆる人類を間接的に支配している。彼らが世界そのものを支配しないのは、あくまで面倒くさいというその一点に尽きる。愚かな民衆に幾ら道理を聞かせたところで、彼らはソレを理解しない。であれば馬の耳に念仏。彼らが低賃金で働いているのを横目に美食を追求し、いい女を抱き、最高級のワインを飲んでいる方がまだしも生産的だ。そう人類の指導を諦めた人類のトップ。彼らがその気になれば第三次世界大戦さえ起こせるが、ここに揃う十二人の意見は一致していた。
「死ぬなら勝手に死ね」
「我々が円卓を囲むのに十二人である必然性は無いわけだが」
「我らが頂くアーサー王も存在しないしな」
「無雲帝国のエンドレース株式会社。その社長。誰か情報を持っているものはいるか?」
「「「「「…………」」」」」
いない。もちろん彼らも手をこまねいているわけではない。エンドレース株式会社の社長にアポを取るように部下に命じたり、場合によっては産業スパイも送り込んでいる。だがアポイントメントは許可されず、産業スパイはメターマンに殺される。社長室は本社ビルの最上階にあるらしいが、そこに至る階段もエレベーターも無く。物理的に登る。ヘリを飛ばして社長室を確認する。これらの行為にもメターマンの逆鱗に触れてしまう。
「さて、どうしたものだろうか。既に世界中の金の五分が無雲帝国の元に集まっている」
五パーセントと言えば少ないように思えるかもしれないが、既に経済規模がインフレーションしている自由経済市場において、その五パーセントが十万人しか住んでいない元東京のとある島にあるというだけで異常事態だ。関連子会社まで含めると円卓を囲む十二人の人間が手にしている金の総量は八十パーセントを超えているが、あくまでそれは社会運営に使うための金であって、純利益として十万人規模の国とも言えぬ自称帝国が世界の富の五パーセントを占有しているのは彼らにとって悪夢に等しい。
「いっそエンドレース株式会社の社長を我らの同志に迎えるというのは?」
「笑えぬ話だな。肯定された場合はいいが、断られた場合、この場所も割れる。メターマンが襲撃してきたら、いくら魔法少女とはいえ助けには来れないだろう」
一言で切り捨てた男の言葉に、他の十一人も同意する。この場でこういう話をしてメターマンが襲ってこないことが、つまりこの場の安全性を証明してはいるのだが、逆に言えばレコンキスタドーンに察知されてしまえば、対抗する手段が無い。メタマテリアルディフェンサー。あの異常なまでの防御力は並みの重火器を平然と無力化し、ミサイルですらも傷をつけられない。ABC兵器に至っては、都市部で暴れるメターマンに使えるはずもなく、現状魔法少女以外にメターマンの駆逐は叶わないと見て間違いはない。
「たしかに無雲帝国のエネルギー産業は驚異的だ。だがそれよりも手中に収めるべきは魔法少女の杖ではないかな。ブラックホール。ホワイトホール。あんなものを生み出す熱エンジンを私たちは過分にして知らない」
「何かしら裏がある……ととってもいいだろうな」
一人がそう呟くと、賛同の声が上がった。
「そもそもワープなどという意味不明な技術を使えるのだ。あの近未来ガジェットの本質を我々は把握できるのか?」
「だが現に地球上に存在している。ブローギアとか言ったか。アレの解析を不可能と決めつけるのは早計だ」
「言っている意味は尊重する。だが、それでも何か重要ごとを見落としている気がしてならんのだ」
一人が慎重論を唱える。十二人が別個の意志を持ちながら、互いに意見を尊重する。ブレーンストーミングではないが、ここでは積極性も消極性も等しく貴重な意見だとここにいる全員が納得している。
「一つ。提案がある」
一人がボソリと呟いた。
「聞こう」
先ほど説明したように、まずは聞く。否定するにしても、それは主張と同じだけの根拠をこの場では必要とする。
「――――――――」
そうして話題を出した男が、一つの悪魔的な提案をする。完全に無雲帝国を敵に回す発言。だがこの場にメターマンは現れない。つまりこの場の策略はバレていない。その上で、さっきの発言の有用性を十二人が吟味する。
「有り……か?」
「国際魔法少女基金がそれに納得するかが問題になると思うが……」
「あとは大統領の命だな。公然のカメラの前でメターマンに殺されれば、社会的なショックは計り知れない。ケネディどころの話ではないぞ?」
「その場合はレコンキスタドーンを国際的な戦犯として槍玉に挙げる。首魁に国際法廷に出頭するように圧力をかけるのはどうだ?」
「前者は考慮するが後者は却下だ。我々でも掴み切れない存在だ。下手に逆鱗に触れると、恐怖支配が始まる可能性さえある」
あくまで無雲帝国が国土を広げないのは征服の野心が無いからで、虎の尾を踏んだ場合、どういうリアクションが返ってくるかを人間の脳で予測するのはバカか臆病の二者択一。
「だが国際警察を動かすという提案には一理ある。なおかつ、魔法少女を利用すれば、メターマンに対するカウンターにもなる」
国際魔法少女基金に入金して魔法少女を買う。そしてメターマンに対する対応策として講じ、並行して無雲帝国を社会の舞台に引き上げる。
「動くのは第七艦隊か?」
「まさか本国の海兵隊にパシフィックオーシャンを渡らせるわけにもいくまい。海生生物型のメターマンに襲われては、海底のダイオウグソクムシのエサになるだけだ」
「台湾への牽制はどうする? 沖縄の艦隊に任せるのか?」
「それしかあるまい。本隊のみで進軍する。メターマンに関してはバーゴストライクを頼り、威力交渉で無雲帝国を話し合いの場に着かせる。ただでさえ独富島に富が集まり始めているのだ。このままでは属国が現れても不思議ではないぞ」
「時間をかけるほど不利。ソレはわかっているが、バーゴストライクの動画はチェックしている。苦戦した様子もないが、アレは一対一の場合だ。独富島には無数のメターマンがいる。あれらが全て第七艦隊に牙を向いたとして、どれだけの被害が出るか……」
「何にせよだ。今までが傍観しすぎているという意見もあるだろう。まさか日本独立から一年半でここまでの先進国になるとは我らが神でも予測していなかったろう」
「核融合技術か。本当ならば我らこそ手に入れるべき技術ではあるが……」
「魔法少女のブローギアについても探らせるだけ探らせよう。アレはアレで扱うエネルギー総量が規格外すぎる」
「大統領にはどうやって説得する?」
「家族への謝礼金。息子の議員入り。こんなところだろうな」
「命を賭けてくれるか?」
「忘れたのか。我らは世界に責任を持つ立場だぞ?」
「率先して虎の尾を踏む。それも厭わず……か」
「虎で済めばいいがな」
「まったくだ」
誰かが食い殺されるなら、まだここの十二人は容認できる。問題があるとすれば一つ。つまり自分たちに危害が向かないか。自己愛の究極が円卓を支配していた。




