第32話: 星崎キラーンとのデート
「オワル♡」
で、放課後。当たり前と言えば当たり前。当然の帰結と言えばその通り。今日はキラとデートをすることになった。
「……旦那様」
キワミが憂い顔で俺を見送ったが、まぁそこは涙を呑んでもらうとして。
「どこ行く?」
「カフェでおっぱいチャレンジでもする?」
「出禁になるぞ」
「ジョークジョーク!」
ケラケラと笑ってキラは俺を引っ張った。おそらくだがどこかで壱岐尾先生も見ているんだろうなぁ。恨みがましい視線が気になるこの頃。
「まぁおっぱいチャレンジは冗談だけどさ。別にオワルとカフェに行くくらいはいいんでしょ?」
「無雲帝国は物価が安いからな」
国策事業……とは違うが、エンドレース株式会社が膨大な利益を上げているから、国に入ってくる金があまりに多い。大人は社会奉仕のために働いているが、それだって独富島に住まうためのポージングで、ニートでも生活できる夢のような環境だ。
「ところでエンドレース株式会社って社長誰なんだろうね?」
ケラケラ笑いながら、メガフロート方面に向かって歩き、そんな世界の疑問に手を突っ込むキラ。
「さてな」
まさか俺ですとか言えるわけもなく。ついでにレコンキスタドーンの首魁が俺とも言えない。立場がバレるとキラにも危害が及びかねない。まぁそれで黙ってやられる堕星少女スタッブスターでもないだろうが。俺が一番危惧しているのは両親だ。最悪の場合、両親にはエンドレース株式会社の最上階で死ぬまで閉じ込める必要が出てくる。まだ俺がエンドレース株式会社の社長でレコンキスタドーンの首魁だとバレていないから海外出張に精を出せるのだ。
「オワルはさ」
何か?
「私がドブカスみたいな精神性の持ち主でも、引かないでくれる?」
「むしろドン引きしてやるよ」
「えへへ」
ポンポンと俺の肩を叩いて、嬉しそうに彼女が微笑む。
「何かしたか? 俺……」
「ううん。嬉しいだけ」
そう言って、キラは俺の両頬を掴んで、というか手を添えて、俺を見る。
「これから何するか想像できる?」
「ブルドッグか?」
すっ呆ける俺に、
「ん……♡」
その頬を自分の側に引き寄せ、キラは情熱的なキスをした。チュパ……と音がして、キラの甘い唾液が俺の唇に付着する。
「お前……そういうことは……」
「好きな人としろ?」
「だろう。まぁどうせ初めてじゃないんだろうけど……」
「初めてだよ?」
「…………」
脱色した髪。ブラチラしているエッチな制服。太ももは眩しく、彼女のラ体がどれほど美しいかを俺は知っている。それこそ適当に歩いている男を捕まえて、「以前から好きでした。付き合ってください」と言われて断れる男はいないだろう。ただし既婚者を除く。あるいは既婚者でも断れないかもしれない。その三美姫の中でも社交性があって、学校の皆に好かれ、週に一度は告白されるキラが……………………俺を好き?
「それもジョークか?」
「オワルはヘタレだね」
「生憎と、モテモテの人生を歩んできたわけでもないしな」
「童貞だ」
「ソレは否定する」
「強がりじゃなくて?」
「信じるも八卦。信じぬも八卦」
「私のキスどうだった?」
「甘かった」
「レモンの味した?」
「そこまで味わう余裕がなかったというべきか」
勿体ない事をした。
「…………レモン味のリップ塗ったのに」
違いの判らない男で悪かったな。
「と、言うように、俺は空気が読めんぞ」
「そこは気にしないかな」
「キラーンはそれでいいのか?」
「オワルが好きなのは事実だし」
「それについてはプレゼンしてくれ」
「私の裏の顔を知っても引かなかった。QED」
「だから引いたと……」
「あんまり私を舐めないでよね。好きな男の子の露悪的な態度くらいわかるんだから」
じゃあせめてその直感を世界平和に使え。
「フレンチの予約時間までまだあるし。適当にカフェに入ろっか」
「おっぱいチャレンジは無しだぞ」
「さすがにしないって。オワル以外には見せません」
「俺には見せるのか」
「好きな人には裸って見てもらいたいものなんだね」
ドレスティック・インバータ……か。
「私が裸になったらいっぱい写真撮って脅してね?」
「気が向いたらな」
そうして一軒のカフェに入って、俺はダージリンを頼んだ。キラはデザインカプチーノ。そうしてパシャパシャ写真を撮って、ついでにデザインカプチーノを背景に自撮りもする。
「アウトスタグラムに上げるのか?」
「結構フォロワーいるよ?」
「学校の連中だけじゃなくてか?」
「世界中の男ってバカだよねー。ちょっと可愛くて媚び売ったら、いいねとフォローの嵐だよ。やっぱ私持ってるわー。世界に祝福されてるわー」
金も持ってるしな。
「東京でホストクラブにでも行けば?」
「お酒飲めないし」
たしかに。ちなみに無雲帝国の法整備は日本を丸パクリしているので、日本でダメなことは無雲帝国でも駄目である。警察はそんなにいないが、全くいないわけでもない。留置所もちゃんとあるぞ。
「オワルはフォアグラ食べたことある?」
「まぁ何度か」
金持ってるし。フランスの三ツ星レストランで食事したこともある。
「なーんだ。貧乏くさい顔してるから無いかと思ったんだけど」
貧乏くさい顔と来たか。あながち否定できないのも俺の悲しいサガだな。
「これから行くフレンチで初めて体験! みたいなことをしたかったんだけど」
「残念だったな」
「じゃあトリュフは? キャビアは?」
「一通り食った」
「つまんないのー」
面白がって食うもんでもないだろ。そもそも珍味であって美味いとは別次元だぞ?




