第31話:キラのお弁当
「くあ……」
朝起きて、今日も学校かとちょっと憂鬱。シングルモルトとしての活動はあるが、ほぼ自動的にエンドレース株式会社は動いているし、自浄作用も働いている。であれば、あとは社員に任せていいだろう。特に常温核融合技術と電気エネルギーの生産に関しては膨大な報酬を渡しているし、口止め料としては十分だろう。裏切った場合。情報を流出させようとした場合。これらにおいてはメターマンが自動的に間引きするし、実際にそうしたこともあるので、脅しとしては機能しているはず。メターマンは独富島をうろついているが、もはやこれがいつもの光景すぎて島民は何とも思っていない。むしろ国外でメターマンが暴れているという事実に疑問符を持っているくらいだ。
「飯、飯……」
そうして昨日キレイさんからもらったオカズを用意し、米をレンチンで温め、お湯を沸かせてインスタントの味噌汁。エンドレース株式会社の取締役社長なのにもっと贅沢しなくていいのかと言われるとぐうの音も出ないが。一応、カバーとして一人の平民を気取らないといけないという言い訳はある。口座には金が浴びるように眠っているけれども。もちろんWARPドライバのことを話すわけにはいかないので、表向きの俺は海外出張中のサラリーマンの家庭の平凡な一人暮らし高校生だ。
「いただきまーす」
そうしてキレイさんの用意してくれた飯を食って。制服に着替え、身だしなみをチェック。後に登校するわけだが。
「オワル。オワル。約束憶えてる?」
登校途中。捕まった俺はソイツと一緒に登校していた。
「憶えてない」
「今度は私が昼ご飯作ってくるって言ったっしょ?」
茶髪の似合う満点の笑顔でニヒッと笑うキラは、それはそれは可愛くて。
「ありがとな」
「だから放課後デート♡ 約束ね?」
「なぁ。前から疑問だったんだが」
「何?」
「キラって俺に惚れてんの?」
あんまり好かれるようなことをやっている自覚も無いのだが。
「どっちだと思う?」
「惚れてる」
「やだー。自意識過剰~。これだから男子ってさー」
これこれ。こういうのが星崎キラーンだよ。
「でもお弁当は手作りだからね?」
おい、前提が崩壊してないか?
「嬉しい? オワル?」
そりゃキラの手作り弁当を嬉しくないとか言う奴がいたら、そいつは男子として成立しないが。
「嬉しいよ。ありがとな」
俺が頭を撫でると、にへへーとキラは笑った。そうして学校まで歩いていると、まぁ睨まれる睨まれる。俺の腕に抱き着いて、マタタビ嗅がされた猫のように甘えるキラを見て、悪夢に苛まれているらしい。総論を言えば『あんな奴のどこがいい!?』に帰結するのだろう。まさしくどうでもいいのだが。
そうして学校。朝のホームルーム。壱岐尾先生の嫉妬。そうして昼休み。
「…………」
独富島……というか無雲帝国は通信費用もほぼタダ同然に低額なので、俺はスマホでネットに繋げる。今日のネット市場を見るためだ。キラに作ってきたお弁当は焼肉弁当で、「男の子ってこういうのが好きでしょ?」のロマンあふれる作りをしていた。いや、美味しいんだけども。
「何? 株でもしているの?」
「いや。見ているだけ。暇つぶしだ」
「トレーダーになりたいなら資金援助しようか? 別に負けても気にしないよ?」
そりゃ数百億稼いでいる堕星少女スタッブスターであればそうだろうよ。
「その金は結婚資金にとっておけ。俺は要らねえ」
「でも株式市場を見てるってことは株が気になるんでしょ?」
暇つぶしっつっとろーが。ちなみにエンドレース株式会社は上場していない。当たり前だ。信用できない他人なんかに株式を渡せるか。
「何々? オワル株取引するのか?」
後ろの席のマスラオが食いついてきた。
「しねーって。金には困ってないし」
「おじさん、稼いでいるのか?」
「海外出張中のサラリーマンだ」
毎月定額。サラリーマンの辛いところだ。俺からシングルモルトのことをバラすわけにもいかんし。定年まで働いてお母さんを養ってもらおう。ちなみにだが、一応手続きさえすれば父親と母親も独富島には住まえる。そもそもレコンキスタドーンの首魁が俺なので、手続きというか鶴の一声。色々と忙しいサラリーマンではあるのだが、メターマンに襲われはしないかとハラハラでもある。各国の企業が無雲帝国の常温核融合技術を求めて策謀している。その波に飲み込まれると、父親であってもメターマンは襲うだろう。温情をくれてやりたいところだが、あんまりツインクイーンを知っている人間を生き残らせたくないんだよなー。
「…………」
とか考えつつ、焼肉弁当をハグリ。肉も美味しいんだがタレも美味しい。玉ねぎとピーマンと人参か。細切りにされていて焼肉のタレと絡んで、とても美味。
「美味しい? オワル?」
「超美味い」
「やた。やっぱり男子は肉っしょ」
そう決めつけたモノでも無かろうが。まぁたしかに肉は美味いよな。ちなみに俺は海鮮も好きだ。
「じゃあ今日は私とデートね?」
「あー。はいはい」
ギリギリと俺の足を踏んでニコリと微笑んでくれる星崎キラーン。
「嬉しいでしょ?」
「トテツモナクウレシイデス」
「よろしい。夜ご飯はフレンチを予約してるから。もちろんオワルは一銭も払わなくていいからね? 私、脅迫されてるもんね?」
いや、消していいなら写真や動画消すぞ? 何というか勿体ないから消してないだけで。そりゃ星崎キラーンを脅して言うことを聞かせる材料ではあるが。なんかむしろキラの側から「写真をネタにゆすれ」と言われているような?
「遠藤オワル!」
そして三美姫と仲よく談笑しつつ、昼休みを過ごしていると。ビシィッとあの何とか裁判のゲームみたいに指をさすとある男子。
「貴様に決闘を申し込む!」
「一回につき五十万円な。前払いで」
「貴様! 神聖な儀式に金を取ろうというのか?」
「聖書を配布しようって話じゃないんだ。無償でやっていられるか」
「貴様が三美姫の皆様を篭絡しているのは知っている! 即刻取りやめろ!」
「で、決闘……と」
「男として受けるよな? 敵前逃亡は男の沽券に関わるぞ?」
「別にいいっす。沽券とか興味ないんで」
「見たまえ三美姫の諸氏。彼はこういう人間だよ?」
嘲笑うように男子は俺を指して笑う。
「そだねー」
「だよなー」
「……ですね」
だがあまり三美姫の関心は引けなかったらしい。
「こんな玉無しに関わることはない! 某が愛してあげよう!」
「お断りー」
「余計なお世話だな」
「……興味ないです」
「何故だ!?」
言われんと分からんのか?




