第28話:ツインクイーン【三人称視点】
「生き……返ったの……か」
エジプトのとある大都市。日本と七時間差のあるエジプトは、今は昼前と言ったところ。そして、その大都市の企業ビルが丸ごとなぎ倒されて、死者も出たはずだが……それすらも儚い夢であったかのような。メターマンの暴虐を受けて、尚生きている。そのことに不思議な感じを覚えるのもしょうがなくはあって。魔法少女の使うピスタキオン・サルベーションはメターマンによって破壊された都市も、頃冴えた人間も因果を逆転させて蘇生、再生してしまう。そうして自分たちが生きていることを実感している一部の人間。
発端は、そのエジプトの企業で秘密裏に行われている会議が原因だった。無雲帝国の世界中に売りさばいてもまだ余るほどの電気エネルギー。その根幹が何か? これは無雲帝国……ひいてはソレを支配するレコンキスタドーンが完全に秘密にしており、一部の関係者以外は知ってはならないパンドラの箱。その関係者も一部攫われようとしたりもするが、上手くいった試しは世界中を探しても成功例が無い。とにかく無雲帝国のエネルギー産業について探ることは地球におけるアンタッチャブルになっており、これを解明、捜査、開示しようとするものはすべからくメターマンに殺される。
だがそれでも世界中の科学者もうすうす予想は付いている。
常温核融合技術。
質量の欠損をエネルギーに変える。太陽を太陽たらしめている最高位のエネルギー生産。それを無雲帝国……ひいてはレコンキスタドーンは可能としているのではないか?
それなら独富島のあまりある電気エネルギーによる電気料金や通信費の安さにも納得がいくし、各国に輸出している合成燃料の安さにも納得がいく。これらは電気の清算が豊富であれば自然と値下がりするもので、だからこそ世界中が欲するのだ。今回エジプトの企業が行った会議は、無雲帝国の核融合技術を盗み出す計画で、それを誰に任せるか本気で議論していたところにいきなりメターマンが現れて、全てを虐殺。会議をしていた連中さえ殺せば話はそれで終わるのだが、メターマンが暴れ出すと都市丸ごと機能を失ってしまうのが悩みどころ。そのフォローをしているのがバーゴストライク……つまり魔法少女なのだが、ソレを知っているのは一部の人間に過ぎない。ピスタキオン・サルベーションは……人工的に作られたタキオン……つまり超光速粒子による因果の逆転で、それによって過去を変えるという膨大と言って言いすぎることのないエネルギー規模なのだが、一応それには理由もあった。
「チッ! ズラかるぞ! まさか無雲帝国のアンテナがここまで伸びているとは!」
「いいじゃねえか! 核融合技術くらい世界に公開しても!」
「そもそも無雲帝国が独占しているってのが国際事情的に見て悪手だよな!」
そうしてエジプトの大都市。そこで暴れたメターマンは滅ぼされ、殺されたはずの自分たちも生き返った。なら後は逃亡しかない……はずだったが。
「あらあら……うふふ……どこに行こうというのかしら?」
「事後処理をするこっちの身にもなって欲しいっすよねー」
会議室から逃げ出そうとした無雲帝国への敵対者。既にピスタキオン・サルベーションによって蘇生されたとはいえ、明確に無雲帝国に敵としてみなされた。国外逃亡は必至。のはずだったが。
「な……ん……」
「誰だ!?」
唾を飛ばすようにエジプトのサラリーマンが誰何する。
「あらあら。誰……と仰いますか。そうですわね。レコンキスタドーンの幹部をさせてもらっているハーレクイーンと申しますわ」
「あたしはシークイーンっす」
「偉大なりしレコンキスタドーンの陛下の手足として働く者……と思ってもらえれば幸いですわ。二人そろってツインクイーンと申します」
あくまでにこやかに。ハーレクイーンとシークイーンは笑った。同時に会議室の男たちが拳銃を抜く。
「貴様らがレコンキスタドーン……だと?」
まぁ勝機は疑うだろう。彼女らは、その見た目の印象がはっきり言ってケバい。肩にアーマーがついており、そこから長いマントが背中に広がっている。胸は乳首こそ隠れているものの、羊の角でも加工したのかというような螺旋を描く鋭利な物質でなんとかレーティングギリギリで隠されているレベル。パンツに至っては紐ビキニもかくやの面積の狭さで。要するに乳首と股はギリギリ隠しているが、それ以外はほぼ半ラどころか五分の四ラで、しかも肩アーマーとマント付きという白蛇の二つ名を自称するとある女性魔導士を彷彿とさせるエロスがある。あえていうなら昭和特撮の女幹部の衣装をセクロスのコスチュームプレイ用に魔改造したらこうなりました……とでもいうかのような。
「ジョークだろう?」
「あらあら。うふふ。冗談に思えるなら中々平和的な思想ですわね」
「こっちだって最初は恥ずかしかったけど着てみたら慣れるものっすよね」
穏やかに話す巨乳のハーレクイーン。やれやれ気味に話す貧乳のシークイーン。二人合わせてツインクイーン。謎に包まれた悪の組織……レコンキスタドーンの幹部がここにいるということは、どう考えても穏やかな話ではない。
「用件は何だ?」
拳銃を構えてサラリーマンが聞く。
「いえね。あなた方の逃亡を手助けしようかと」
「何ぃ……?」
胡散臭い。真っ先に企業側が思ったのはそんな感想。間違っては全くいないのだが。
「逃げ出したいのでしょう? ちょうどいい場所がありますわ」
ニコリと微笑んでハーレクイーンが言う。
「ふふっ」
その隣でハーレクイーンと同じくらいドスケベな衣装を着たシークイーンが皮肉気に笑う。
「どこに連れて行ってくれるんだ?」
「別宇宙よ」
「別宇宙っす」
ハーレクイーンとシークイーンは意味不明なことを言った。
「別……宇宙だと?」
いったい何を言っているのか。そこからサラリーマンたちは困惑した。凡そ正気を疑うような発言。そもそも別宇宙に行けるなら、人間の文明はもっと進歩している。
「別宇宙に放逐して差し上げますわ。この地球から逃げたいのでしょう?」
「ふざ……ふざけるな! そんなことに頷いてたまるか!」
「あらあら。あなた方の意見は聞いていませんわよ?」
「っすよねー。結局結論は変わらないんすから諦めてほしいっす」
ドスケベ衣装でニコニコと微笑むレコンキスタドーンの女幹部二人。だがそれも企業人にとっては悪魔の微笑みだろう。
「死に晒せ!」
既に抜いていた拳銃のトリガーを引く。その銃弾はツインクイーンへと迫り、だが何も起こらなかった。
「な……ん……?」
「あらあら。うふふ。拳銃程度で殺せると思っている浅はかさを笑いたいところですけど、それはまぁいいでしょう。では別宇宙への旅路を楽しんでください」
「ちょ! 待っ!」
せめて慈悲を。そう言おうとした企業人たちが消えて失せる。文字通り別宇宙に放逐されたのだ。
「まったく。シングルモルト様のお手を煩わせるなんて」
「どこもかしこも無雲帝国に反抗的で困るっすよねー」
「それでは帰りましょうか。無雲帝国へ」
「っすね。にしてもやっぱりハーレクイーンはドスケベっすね」
おっぱいの先端を羊の角っぽい螺旋状の突起物で隠しているだけの半ラだ。エロいエロくないで言えば、間違いなくエロい。
「それはシークイーンも同じでしょう?」
「おっぱいは大きくないっすけどね」
「いずれ大きくなるわ。私の娘ですもの」
ニコリと微笑んで、そうして二人はその場から消えた。WARPドライバ。空間やドメインウォールを超える超常技術。ソレは一種のワープだった。




