第2話:魔法少女はかくありき
「GISHAAAAA!」
トカゲ型のメターマンが都市部を蹂躙していた。まぁ言ってしまえば怪人だ。トカゲと人間を融合させたらこうなるだろうなという外見。リザードマンと言えばファンタジー好きには伝わるかもしれない。そのトカゲ型メターマンは強力な膂力でニューヨークの都市部で暴れまわり、既に一棟の高層ビルが瓦解して倒れていた。ビル内部には多くの人がいるだろう。地震でもないのに怪人の膂力だけで倒壊したビルは、まぁそりゃ死人など両手では数えきれない程度には出ていて。だが現代人類社会では、これは珍しい光景ではなくなっていた。
悪の秘密組織。というか秘密でも何でもなく組織名を世界中に公言している政治組織……と言った方が正しいか。
政治結社レコンキスタドーン。
今ちょっと国際的に物議を醸しているトレンドの組織……というか政府というか。政府と言っていいのかは怪しいが。暴れまわるトカゲ型怪人はメターマンと呼ばれるレコンキスタドーンの兵隊で、まぁ怪人というだけあって戦力は破格。特撮を見たことのある視聴者諸氏にはわかるだろうが少なくとも警察が相手になるような生易しい存在ではない。
「シット! バーゴストライクはまだ来ねえのか!」
「拳銃程度ではメターマンは相手できんぞ!」
「政府が基金に金を振り込まないと動かないんだ! 何が正義の味方だ!」
「っていうか! それでもバーゴストライクが来ないとニューヨークが!」
ニューヨーク警察が支給された拳銃でトカゲ人間に銃撃しているが、同時に現場にいる彼らはそれが無益であることを知識として知っている。
メターマン。レコンキスタドーンの生み出した怪人。その怪人にはメタリアルディフェンサーという防御能力があり、物理攻撃の一切を完封してしまう。仮にバーゴストライクが来なかったら、それこそニューヨークはそのまま廃墟に変わるだろう。
「GISHAAAAA!」
そのトカゲ型メターマンが警察に目を付ける。
「やべっ!」
「冗談だろ!」
ギシャアッッ、とトカゲ型メターマンが口を開くと、そこに火炎が零れて吐息のように漏れる。トカゲの口から放たれる火炎のブレス。ソレを防ごうにも警察の方には防御装備がない。職務上拳銃で怪人を牽制する必要があったが、本来ならそれさえ彼らにとってはそのまま死ねと言われている等しい無茶ブリだ。
「KAH!」
そうしてまるでファンタジーのドラゴンがそうするように。喉から高温プラズマを吐き出すトカゲ怪人。それは警察官を骨だけ残して燃やし尽くすだろう。
――――死。
覚悟した警察官。正確には覚悟ではなく、あきらめの境地。今から逃げ出しても超音速で吐きだされるビームの方が早い。ジタバタしたところで結果は変わらない。ここで俺たちは死ぬ。その悲壮感が警察官を襲っていた。
既にその状況を気楽に配信していて視聴率を稼いでいる動画配信者がたまに社会的に批判されるが、それでも駆逐されるほど単純な社会構造でもないのだ。
カッ! とトカゲ型メターマンの口からプラズマが吐き出される。それはまっすぐ警察官らを焼くために襲い掛かり。
「グラビティサンクチュアリ」
次なる世界に響く一言でブレスは超重力に押し潰されて地面を焼き。焼死体になるはずだった警察官がポカンとしている。だが、そのアニメボイスを聞いて、警察諸氏の顔に希望が張り付いた。
「は、はは……」
「遅いんだよ。本当に……」
ドローンが空中を撮影する。まるで壇上にでも立つように、空中に突っ立っている一人の少女。アニメのコスプレにつもりか、と言われるとそういうわけでもなく。フリフリの魔法少女然としたドレス姿の美少女。黒を基調としたゴスロリと魔法少女ドレスを足して二で割った服装。
「堕星少女……スタッブスター」
誰かが呟いた。瞬間、ニューヨークが希望で湧いた。
「GISHAAAAA!」
そうして相手が選手交代をしたことをトカゲ型メターマンの方も認識したらしい。頭上を見上げて敵視するような瞳孔の切れる視線を向ける。怪人の膝がたわんだ。瞬間凝縮した脚力が跳躍に使われ、魔法少女……堕星少女スタッブスターの高度まで跳び上がる。鋭い爪で切り裂いたのはスタッブスターの残像。思った瞬間、今度は跳躍の三倍速で地面に叩き受けられる。堕星少女スタッブスターが使うのは重力魔法。この宇宙を支える根源的なエネルギーを彼女は自在に操れる。もちろんただ押し潰すだけではない。
「グラビティギロチン」
ドローン撮影の拾った声は、そのまま魔法の宣言だ。スタッブスターが持っているブローギア……つまり魔法少女のステッキがスタッブスターの意志に術式を提供して魔法として具現する。現れたのは重力のギロチン。超高重力を細く長い面積に加重することで生まれる上から下に切り裂く斬撃。まさに重力によるギロチンだ。
「GII!」
メターマンも何かを感じ取ったのだろう。重力を認知は出来ないが、スタッブスターの宣言と、プレッシャーにも似た悪寒。叩き落とされた地面を蹴って、その場を離れる……つもりで、それより一瞬早く重力のギロチンがトカゲ型メターマンの右腕を肩の付け根から切り落とす。
「GAAAAA!」
血が流れる。生物の原則として、金属を血管に流すのはメターマンも同じだ。ただ相手を追い詰めるとどうなるか。ソレを知らないスタッブスターではない。というか、既に今の社会情勢でメターマンが出現した際に、最後にどうなるかは全世界の動画視聴者が知っている。
「GOAAAA!」
巨大化。これに尽きる。トカゲ型メターマンが高層ビルと同程度の背丈になって、切り飛ばされた右腕も復活し、ただ歩くだけで都市を壊滅させる破壊の権化へと至る。
「GOOOOO!」
その怪獣映画にでも出てきそうな巨大な人型トカゲが、それこそ怪獣映画さながらに膨大な火炎をスタッブスター目掛けて吐き出す。
「グラビティサンクチュアリ」
だがそのブレスさえも重力魔法で叩き落とされる。肥大化した体積と質量の整数倍で規模が大きくなった火炎ブレスを、だがスタッブスターは問題にしない。
「ファイナリティマジック……」
魔法のステッキ……ブローギアを頭上に掲げて、その様にスタッブスターは宣言する。つまりこれで終わりとなる魔法だ。宝石と金属で装飾されたアニメに出てきそうなステッキ。その先から黒い空間が生まれる。
「縮退圧崩壊」
その言葉が何を意味するのか。物理学を知っていれば想像に難くない。というかスタッブスターがフィニッシュマジックと呟いた時点で、彼女が行使する魔法は決まっているようなものだ。堕星少女スタッブスターの最強魔法。
「ストナーブラックホール!」
杖の先に生まれた暗黒空間。ブラックホールがまるで石でも投げられるように巨大化したトカゲ型メターマンに向かって放られる。その超重力はトカゲ型メターマンに触れた瞬間、その存在を吸収、圧縮して情報を破壊。後に綺麗さっぱり消え去った巨大トカゲを圧死させた後にブラックホールも縮小して消え失せ、虚空へと散っていった。
「ふう」
で、スタッブスターが吐息をつくと、ニューヨーク市民、および動画視聴者が歓声を上げた。助かった市民は歓喜でむせび泣き、魔法少女を応援していた動画視聴者は投げ銭で祝福する。とはいえ、破壊された街、殺された人、機能を失ったインフラ。これらが元に戻るわけでは……あった。
「ピスタキオン・サルベーション」
堕星少女スタッブスターが呟くとトカゲ型メターマンによって破壊されたニューヨークは一瞬で元に戻った。倒れたビルも殺された人間も全部が全部、無事息災となるのだった。




