第19話:ちょっとエロい壱岐尾先生
「ハロハロー! オワル♡」
何かと俺に付き纏うその一。星崎キラーン。徒歩通学の俺を道ばたで待っていて、見つけたら笑顔で駆け寄ってくる。
「ちょ! 離れろ!」
で、何かと俺に付き纏うその二。ご近所に住んでいる斑鳩さん家のマスラオくんは俺の隣に並んで歩いていた。
「えー? いいじゃん。私オワルくんに興味があってー」
色気で口封じがしたいだけだろ。今のところは空振りに終わっているが。地球全人類の半数である男を下に見ているキラだが、その実、その事実を俺に握られている。堕星少女スタッブスターが視聴者をバカにしているとかネットに噂が流れたら、それだけで投げ銭……つまりスーチャは激減する。まぁ仮に俺が呟いても「ソース出せ」で終わると思うが。その事実を指摘しても、夜も眠れないのが被害者側の心情らしい。まさに俺にはどうでもいい。
「くそぅ」
「遠藤だけいい目見やがって」
「仕事人に依頼するか?」
「誰かデスノートを持ってこい」
色々と顰蹙を買っているわけだが。
「オワルは俺の方が好きだよな?」
「信頼はしてるよ」
「オワルおっぱいは好き?」
「大好きです」
二江さんのおっぱいとか見事すぎてガン見してしまう。まぁ十中八九バレているだろうけど。バレていても見たいものは見たいのだ。それに爆乳で言えば俺には壱岐尾先生もいることだし。
「じゃあ今日も勉強頑張ろー」
「ちょ。星崎。オワルから離れろ」
「ね~ぇ♡ オワルは離れてほしい?」
「密着してほしいです」
「だってさ。プップクプー。悲しいねぇマスラオ……」
だからって煽るなよ。マスラオだって俺に好意的なんだから。刺されるかもしれんぞ。ブローギアはいつでもどこでも呼び出せるので、堕星少女スタッブスターと罠娘少女ダーンディアナが戦うのはちょっと見物かもしれないけど。どっちが勝つだろうな。重力魔法と電磁魔法か。スタッブスターはブラックホールが作れるけど、ダーンディアナはパウリの排他原理を無視できるしなー。
「おっはよー。みんな!」
で、俺の腕におっぱいを押し付けたまま、キラが教室の皆さんに挨拶をする。
「おはよう」
「ございます」
「お、おおおお」
「おはようでござる」
「今日もいい天気で」
さすがは人気者のキラ。教室の男女問わず彼女の御機嫌を窺う。それから俺と腕を組んでいるのを見られて。
「星崎さん。遠藤くんみたいなのがタイプ?」
「そういうわけじゃないけどー。気になる男の子……みたいな?」
完璧にお前の事情だろ。そうして俺が教卓前に座り、何時もの通り三美姫が周囲に座る。というか二江さんは今日もラブコメのラノベを読んでいた。そんなもの読まなくても男子に告白されるだけで彼氏作れるんじゃないか?
「はいはーい。それじゃあホームルーム始めますね。星崎さん。斑鳩くん。ご……遠藤くんとイチャイチャするのは止めなさい」
間違っても「ご主人様」なんて呼ぶんじゃねーぞ。あとさり気に嫉妬するな。
「はーい」
「チクショー」
そうして二人のアプローチが終わり、俺は解放されたわけだが。
「じゃあ出欠ね。ちゃんとデジタルで処理すること。忘れたら欠席や遅刻扱いになるし、訂正するにも先生の仕事が増えるので止めてくださいねー」
まさに自分の都合を押し付けるが如し。
「わかりましたか? 遠藤くん?」
「えーと。はい。タブレットで出欠は徹底します」
「よろしい♡」
そう言って、にこやかに微笑んだのだが、その晴れやかな笑顔にクラスの半数……つまり男子が違和感を覚えた。
「じゃあ今日の予定だけど……」
科目は既に決まっているし、独富学園はエスカレーター式で大学まである。今更進路もないだろうし。そもそも十万人規模の無雲帝国に三つも四つも学校は要らない。マンモス校になっている独富学園だけで十分だ。ちょっと距離が離れていてもタダ同然でタクシーが使えるし。
「それじゃね。今日もよろしくみんな」
御機嫌にそう言って、スキップでもするような足取りで壱岐尾先生は去っていった。彼女も授業の準備があるのだろう。
「なぁ。なんかさっきの壱岐尾先生……エロくなかった?」
男子の一人が隣の男子にそう囁く。俺がギクリとする。どう考えても壱岐尾先生は俺に発情していた。メスの顔こそ見せなかったが、どこか浮かれている空気を感じて、男子はそう言ったのだろう。
「そうか? ああいうにこやかな先生だろ」
隣の男子は別に感じなかったのか。否定するようにそう言った。
「それにエロいエロくないで言えば、あの爆乳はエロすぎるだろ」
「それはある」
納得するな。たしかに爆乳だけども。
「じゃあ俺の気のせいか」
そうだ。お前の気のせいだ。あと壱岐尾先生。俺に牽制のメッセージを送ってくるな。
『星崎さんや斑鳩くんと仲良くしちゃダメだぞ♡』
『奴隷の分際で口答えするな』
隣に見られないように、そうメッセージを送る。今頃俺にSNSで叱られて嬉しそうにしているんだろうな。
「なぁなぁ。一限目の英語だけど課題してきたか?」
後ろの席のマスラオが聞いてくる。
「まぁ指示された程度は」
今時ネットのAIにアップして翻訳してもらえば速いが、一応俺は自力で翻訳していた。
「見せてくんねえ? 昼飯奢るからさ」
「別に奢らなくていいけど、見せるのはいいぞ」
「こーら。オワル。マスラオくんを甘やかさない」
「とは言っても幼馴染だし」
俺とマスラオの仲だ。
「そうだぞ。赤の他人はすっこんでろ」
「幼馴染なんて負けヒロインじゃん。しかも男の娘なんてファンディスクじゃないと攻略不可だし!」
「今時は多様性の時代だろ! 俺だってオワルのことは気に入ってんだよ!」
「それって恋?」
「友情ではあるけど」
「オワル? 私は恋かもよ?」
お前のが一番信用できん。
「じゃあ今日は私がオワルの晩御飯作ってあげようか?」
「裸エプロンなら一考する」
俺がそう言うとクラスの男子の殺気が飽和した。
「もう♡ オワルのドスケベ♡」
案外嬉しそうなキラだが、一応嫌がっているのは見て取れる。俺に裸エプロンを見せるほどの仲じゃねーしな。ただ男子に対してドン引きすると、三美姫の一角としての立場が危うくなるのだろう。
「っていうかメシマズだったり?」
「よーし。喧嘩売ってるんだね?」
あ、マジで晩飯作るに来るのか?
「カレーくらい作れるんだが」
まさかレトルトをレンジでとか、そういうオチじゃねーよな?




