第18話:フェラーリ
「くあ」
寝室の布団で寝ており、朝起きて、朝飯を食わんと、と思っていると。
「あ、ご主人様♡ 朝食の用意は出来ておりますよ♡」
何故か裸エプロンの壱岐尾先生がキッチンに立っていた。たしかに合鍵は渡したが、まさか次の日に朝から侵入してくるとは。ちなみに週末の休日なので、今日は学校はない。教師にはあると思うんだが、それを聞くと「全部終わらせてから来ました」と社会人の意識の高い御言葉が返ってきた。
「ちなみに朝食は?」
「白米と焼き鮭。サラダとお味噌汁です」
「ん。苦しゅうない」
そうして座敷のちゃぶ台に朝飯を並べてもらって、俺はそれを食べる。
「美味いな」
「光栄の極みです。ご主人様♡」
「これなら教師じゃなくてホームヘルパーでもやっていけるな」
「でも生徒に支配される女教師がやりたくて学校で働いている感はありますから」
何という残念な性癖。
「あ、おっぱい見ますか?」
「遠慮しておく」
朝飯がマズくなる。
「で、朝飯作るために来たのか?」
「いえー、そのー……」
壱岐尾先生がこうやって言うのを躊躇う時は割とロクでもない。
「ご主人様とデートしたいなぁ……なんて」
「思ったよりまともな返答が来たな」
「ダメですか?」
「ダメではないが。独富島をか?」
「車を用意していますので。ドライブとかどうですか?」
なるほど。ソレは大人にしか出来ないデートプランだ。キラやマスラオだとゲーセンやカラオケになるしな。
「じゃ、俺を楽しませろよ」
「はい♡ ご主人様♡」
そうして朝食を食べ終わった後、皿洗いを壱岐尾先生に任せて。俺は着替えを行った。そして二人で家を出ると。
「わお」
フェラーリが玄関前に駐車されていた。
「これ先生の車?」
「ええ、まぁ。三千万くらいなので。はした金ですよ」
三千万をはした金というか。さすが魔法少女は稼いでいるな。
「まぁ左ハンドルなので、ちょっと無雲帝国では不便ですけどね」
イギリス文化の濃い日本から独立した無雲帝国も、もちろん道路は左車線。駐車券とかドライブスルーとかに対応するときはどうしても不便になってしまう。べつにいいけどさ。
「フェラーリねぇ」
「年代物を揃えていますので。お好みの車種はありますか?」
「そもそも車に詳しくない」
「そうですかー。ちょっと残念です」
すまんな。
「それではデートしましょう。潮風を浴びながら車から海を見るのもいいものですよ」
言われて俺も乗車。そうして車で独富島をドライブする。
「おい。オワル。今どこだ?」
壱岐尾先生の年齢がわかる選曲が車内に流れる中、俺のスマホにマスラオからメッセージが送られてきた。
「海岸沿い。どこまでかは詳しくは知らん」
「一人でか?」
「まさか」
「誰とだ? まさか星崎?」
「黙秘で」
壱岐尾先生と一緒とか言えるか。
「どうですか。ご主人様。ドライブの感想は」
タクシーとはまた趣が違うんだな。
「何せスーパーカーですから。これでも大切に乗っているんですよ?」
「ああ、伝わるよ。それは」
「昼食はどうしましょう? 食べたいものはありますか? 奢りますよ」
「じゃあカーネルライトニングスの像が飾られているあのチェーン店で」
「フライドチキンですか。確かに美味しいですよね」
「壱岐尾先生の場合、栄養が胸に行くんじゃないのか?」
「ええ、まぁ。いくら食べてもウェストじゃなくてバストにエネルギーが行くんです」
他の女性が聞いたらなまはげになって襲い掛かりそうなことを言う。
「じゃあ行くか。タンケッキー」
「ええ」
そうして海沿いデートをちょっとだけ中止して、メガフロートの繁華街。そのタンケッキーでドライブスルー。もちろん左ハンドルなので対応は右の席に乗っている俺。さすがに高級車を油で汚すわけにはいかないので、適当に海が見える絶好の場で、お持ち帰りのフライドチキンを食べた。
「あの、ご主人様……」
「何か?」
「油で汚れたご主人様の指を舐めて綺麗にさせてください」
「いいけど……嬉しいか?」
「御褒美です」
あー。さいですか。
「じゃあよろしく」
油まみれの指を壱岐尾先生に差し出す。
「ん♡ ちゅ♡ ぱ♡ あ♡ はぁ♡」
丁寧に俺の指の油を舐め取って、恍惚とした表情でトランス状態になる壱岐尾先生。
「ちなみに学校ではどういう風に俺に接するんだ?」
「一応教師と生徒の立場で、バレないように。でもご主人様が命令するのならすべてに従います。教師職よりもご主人様の命令の方が大切ですから。教師でいられなくなる命令でも喜んで従いますわ」
ガチだなコイツ。
「じゃあ命令だ。今、キスしろ」
「あの……先生の唇……今油まみれで」
「俺もだ」
「ああ♡ ご主人様の唾液と油♡」
何が嬉しいのかさっぱりだが、きっと壱岐尾先生にしか見えないものがあるのだろう。ところで壱岐尾先生って処女か? 別に魔法少女が処女である必要はないが。ブローギアはそういうことを女性の選別の項目にはしないはずだし。
「しょ……処女です……」
うわー。聞きたくなかった。二十代の魔法少女が処女拗らせて生徒のメス奴隷とか、どれだけ話がややこしいんだよ。エロコンテンツサイトで少しだけ見るかどうかだぞ。俺は見たことないからソースは無いけど。
柔らかくキスをして、それから壱岐尾先生は俺の唾液を舐めた。
「ああ、支配されるって素敵ですね」
しているつもりはないんだが。まぁそこはツッコむまい。
「それじゃドライブに戻りましょうか。夜はイタリアンレストランを予約していますので」
無雲帝国にはいろんな文化が集まる。メターマンがそこら中に存在しているので恐ろしい環境ではあるのだが、メターマンがどういう条件で人や街を襲うのかは、既に世界の共通認識だ。今時は子供でも知っているし、それでも週に二回や三回は魔法少女が出動するのだからやっぱり大人って汚いよなって話になるんだよなー。




