第16話:太陽少女の魔法
「じゃ食べたらタッパーだけ返してほしいっす。洗わなくていいので、というのがお母さんからの伝言っす」
そうは言っても、飯作ってもらってるんだから、タッパーくらい洗って返すが。というわけで予告通りにアジの南蛮漬けを貰って、飯を炊いて、味噌汁はインスタント。そうして畳座敷のちゃぶ台に料理を並べると、美味しそうな香りがした。特にアジの南蛮漬け。さすが料理のできる無敵のバツイチ元人妻香鳴キレイさん。料理が上手い産経婦って興奮するよな。そうして飯を食べようとするとスマホが鳴った。通知だ。スマホを見る。独富島……無雲帝国ではネットと電気は安価で使うことができる。エネルギー産業が発展しているので、ほぼエネルギーが使いきれないくらい余っている状況だ。なので、独富島の若者はお金を気にすることなくスマホを使って通信もネットもし放題。月ごとのギガを気にする必要ナッシング。とても快適なインフラが整っている国家であるのだった。最高だね。無雲帝国。で、それはともあれスマホの通知だ。飯を食うちょっと前なので、先にいただきますをしてからスマホで動画サイトを開く。そこには魔法少女がいた。
「おお」
バーゴストライクには四人の魔法少女が所属している。堕星少女スタッブスター。究極少女アルテミスト。罠娘少女ダーンディアナ。そうして最後の一人が……。
「今日は太陽少女オーバーサンか」
独富島に引っ越してきてから一番最後に見た魔法少女だ。というか爆乳で背が高く、スラッとした姿勢は太陽少女オーバーサンを「少女?」といじるのがネットでのお約束。
『太陽少女キター』
『おばさーん』
『おい止めろ。焼かれるぞ』
『むしろ焼かれたい!』
そんなコメントがネットに氾濫していた。今日の相手は狼型メターマン。素早い脚力と、鋭い爪。そして。
「KHAAA!」
遠吠えによる大音響のボイス攻撃。今日のメターマンが暴れているのはヨーロッパのちょっとした都市で、そこでブレスを吐いたり雄たけびを上げたり、爪で切り裂いたりとヤいたい放題。そうして国際魔法少女基金に振り込みがなされると、バーゴストライクに出動が要請され、今日は太陽少女オーバーサンが現れた、というわけだ。
「モグモグ」
で、白飯を食べて、アジの南蛮漬けを口にする。お酢の酸っぱさがいい感じ。さすがは香鳴キレイさん。料理の腕は一級だぜ。俺はスマホでオーバーサンを応援しながら、地獄のようなコメントを見る。
『もっとおっぱいを映せ』
『いやお尻を』
『オーバーサンってエロイよな』
『人妻だったり?』
色々と言われている。だがまぁネットでセクハラを抑止するというのも難しい話なので。ついでにセクハラのための言い訳としてスーチャもしているし。上限額の赤スチャでセクハラコメントを送っている剛のモノもいるわけだ。
「GHIIA!」
その動画の中で狼型メターマンが鋭い爪でオーバーサンを切り裂こうとする。だがそのオーバーサンに触れたメターマンの腕が消えた。正確には焼かれたのだ。一瞬で高温まで持っていったオーバーサンの魔法がメターマンの腕を焼き尽くした。
これが太陽少女オーバーサンの冷熱魔法。温度を支配し、あらゆるものを燃やし、凍らせる。
「アイスメテオよ!」
さらにオーバーサンがトリガーワードを唱える。同時にメターマンの頭上に巨大な氷塊が生まれた。それは重力に従ってメターマンに落ちていき、圧し潰そうとする。
「KHAAAA!」
その氷を熱のブレスで蒸発させる。同時に今度は炎がメターマンを襲った。
「メギドの火よ!」
蒸発した氷よりさらに上。衛星軌道上からの爆撃。神の怒りを意味するメギドの火。その意味するところ。超高音のレーザー爆撃。
「GU……GA……AAH……!」
その恐ろしさを察知したのだろう。メターマンの反応も早かった。巨大化だ。小さなサイズでは焼き尽くされると思ったのだろう。巨大化することで、衛星爆撃を耐えられるだけの肉体を手に入れたのだ。背丈が二十倍になり、体積はその三乗。さらに運動能力は損なわれず、俊敏な動きを巨大怪獣が行うのは、それだけで超音速と言える。
「仕方ないなー」
まさにしょうがない、と太陽少女オーバーサンは言う。
『やれ!』
『オーバーサン!』
『俺たちのスーチャを受け取れ!』
『今こそ必殺の!』
「ファイナリティマジック……」
ドレスを着た妖艶な色香を放つ魔法少女。妖艶な色香と魔法少女が並列しないのは、この際置いておいて。実際にネットの考察でもオーバーサンは十代ではないのでは疑惑はよく議論されている。別にいいじゃない。二十代が魔法少女をやっても。
魔法少女特有のメカメカしい見た目の魔法のステッキ。ブローギアを構えて、巨大メターマンを睨みつけるオーバーサン。
「GHISHA!」
狼型メターマンは、その口からブレスを吐き出し、ヨーロッパの街並みを焼く。敵対しているオーバーサンはもちろん殺すが、そうじゃなくても破壊を撒き散らす。それがメターマンの結論なのだろう。街が焼かれ、人が死に、破壊が進んでいく。
「この駄犬がぁ!」
そうして破壊の権化と化したメターマンに、太陽少女オーバーサンはファイナリティマジックを行使する。
「マイナスヒートランチャー!」
超極低温のビームが魔法のステッキ……ブローギアから飛ぶ。それは一瞬でメターマンを貫き、そして一瞬で消滅させる。超極低温のビーム……マイナスヒートランチャー。それはマイナス一億度のビームだ。触れるだけで体積が反転し、マイナス宇宙へ放逐。この世に存在できなくなる。
「G――」
最後に何を言おうとしたのか。だがやはりマイナス一億度は議論の余地もないのか。メターマンはそのまま消えた。俺は喝采を上げて飯を食う。スマホで魔法少女を追っているのはいいのだが、普通に楽しんでいる自分がいる。死者が出た。ビルは倒壊した。インフラも破壊された。それでも魔法少女がいれば何とかなる。
「ピスタキオン・サルベーション」
その一言で壊された街も殺された人も生き返る。因果を逆転させるピスタキオン。タキオン粒子の一種だ。それは現在を改竄することで過去を現在に至る過程に修正する魔法のエキゾチック粒子だ。これある限り、本当の意味でメターマンに殺される人間はいない。
「めでたしめでたし」
これで飯が美味いぜ。魔法少女の勝利を祝って、アジの南蛮漬けを食べよう。そうしよう。そうして配信動画を終わらせて、ご飯に集中する。いやー。いいもの見た。やっぱり最後に正義は勝つのだ。悪が世に蔓延っているのなら、今頃世界は……というのは俺に言えた話じゃないが。
だが、俺は一つの事実を忘れていたのだ。そう。魔法少女は戦闘が終わると俺の部屋へと転移してくることを。俺が飯を食っていると魔法陣が現れる。それは畳の表面に描かれ、それから天井へと昇る。その下から上への移動に合わせて、ポータルでワープしてきたかのように、一人の女性が転移してくる。太陽少女オーバーサンだ。
「ちょ、ま」
だがブローギアは待たない。
「ドレスティック・インバータ」
そう魔法少女の杖であるブローギアが言った瞬間、太陽少女オーバーサンは全裸になった。アルテミストより大きな爆乳。背丈が高く、とても少女には見えないオーバーサンが、音の姿に戻る。もちろん正体を隠すためのパーソナルジャマーも解かれたわけだから、俺にもその正体がバレてしまった。
「壱岐尾クレナイ……先生?」
「……………………え?」
長い三点リーダを挟んで、太陽少女オーバーサン改め壱岐尾クレナイ先生……俺のクラスの担任が全ラで俺を見る。その様は正に唖然。ほら。なるほど。太陽少女オーバーサンは壱岐尾クレナイ先生だったのか。たしかに少女じゃねーな。
「えと。遠藤くん?」
「はい。俺っす」
果たしてどういうリアクションを取るのが、この場合の最適解なんだ?




