第12話:両手の花デート
「オワル。オワル。これ似合うと思うなー」
「オワルにはデニムが似合うんだよ」
喧々諤々。丁々発止。独富島のメガフロート……つまり海上都市で、俺たちはショッピングに明け暮れていた。俺が引っ越した時には既に無雲帝国になっていたので、こちらでの文明がいかほどのモノか。考えはしたが、まぁ最先端で。この前イタリアの雑誌で発表になったばかりのファッションが揃えられたりと、そのさまはまさに未来に生きている。いや、俺はイタリアのファッション雑誌なんて読まないけど、店の人が見せてくれたのだ。
やはり無雲帝国の産業力はヨーロッパも座視できないらしく。エンドレース株式会社と縁を持ちたい財閥や大企業も数多く存在する。それら各国に合成燃料を安価で輸出して、大量の利益を得ている。無駄遣いしても問題ないくらい電気を作り出しているので、これくらいはまぁ……な。
「こっちのパンクファッションがオワルには似合うの!」
「いいや。インディゴの色合いこそがオワルをだな!」
で、両手に花デート。独富学園の生徒が見たら噴飯モノだが、事実は事実として受け止める。で、お前ら何がしたいのよ。
「オワルはどっちがいい?」
「俺の方がいいよな!?」
「着る服には困ってないからどっちもいらん」
俺は両手を広げて遠慮した。
「そんなこと言わずー。私に貢がせてよー」
これだけ切り取るなら、独富学園の三美姫の一人が俺に金を貢いでいるようでもあるが、事態はもうちょっと深刻だ。彼女にとって俺は金を出してでも御機嫌を取らなくちゃいけない相手。つまり監視対象だ。別に俺はSNSに呟いたりはしないと言っているのだが、信用してもらえないらしい。まぁあそこまで舐め腐った発言は、確かに人に見られると心に来るものがあるだろうけど。
「じゃあ消費物を奢ってくれ」
「クレープか?」
「出来れば飲み物で」
「じゃスタブ行こ。スタブ。今堕星少女スタッブスターとコラボしてるんだよ?」
それについちゃぁ俺も知ってはいるんだが。っていうかスタッブスターってお前だろ。星崎キラーン。ニコニコしながらメガフロートの都市部を歩き、スタブに入り。それから俺はコーヒーを頼んだ。スタッブスターのコースター付きで。
「やっぱりいいよね? 堕星少女スタッブスター……」
「あんな人様に媚び媚びの魔法少女の何がいいんだか……」
うっとりとスタッブスターを見るキラに、マスラオがケッと反論する。
「じゃあ斑鳩……マスラオの推しって?」
「罠娘ダーンディアナに決まってるだろ」
それもお前だろ。斑鳩マスラオの正体は罠娘少女ダーンディアナなのだ。
「オワルは?」
「オワル?」
「俺は箱推し」
日和見主義と笑わば笑え。
「あえて! あえて一人を選ぶなら!」
縋るようにキラが言う。
「だから箱推しだって。正確には魔法少女萌え」
究極少女アルテミストも太陽少女オーバーサンも俺は大好きだ。
「オワルの浮気者ー」
「この日和見主義!」
好き勝手言ってくれるなこの野郎。コーヒーを飲みつつ、俺はうんざりと彼女らに視線を向けた。カフェオレを頼んだマスラオと、なんかやたら長ったらしい呪文を唱えていたキラと。三人でデートをしているのだが……これがまぁ目立つ目立つ。そもそも二人とも可愛すぎるのだ。さすが独富学園の三美姫。特にキラはおっぱい大きいし可愛いし髪染めているしで、まさにギャルって感じ。男の股間には特攻攻撃だろう。別にいいけどさ。
「星崎さんが……」
「斑鳩くんが……」
「誰だ。あの冴えない男」
冴えない男で悪かったな。チューとコーヒーを飲みながら、俺は噂する冷たい衆人環視に一言物申したくなった。しないけどさ。
「じゃあ飯でも食って帰るか」
一応香鳴キレイさんに『今日は外食しますので、おすそ分けはいりませんよ』とだけメッセージを送っておく。ほぼ毎日のように一人暮らしの俺を心配して飯を届けてくれるからな。お隣の奥さん。バツイチ子持ちの元人妻とかどれだけエロイ……。しかも爆乳だし。大きさで言えば担任教諭の壱岐尾クレナイ先生に匹敵する。童貞の目測では壱岐尾先生の方がちょっとだけ勝っているみたいだけど。さすがにバストサイズを聞くわけには……。
「じゃ、ホテルいこーぜ」
「え、あの話マジだったの?」
マスラオのあっさりとしたホテル宣言に、俺はギョッとする。
「当たり前だろ。金なんて生きている内に使わないと損なんだから」
「私にも奢ってくれる?」
当たり前のようにキラもついてくるらしい。
「構いはしないが……飯食ったら帰れよ。俺とオワルは甘い一夜を過ごすんだから」
「オワルってそう言う趣味があるの?」
もちろん可愛い男の娘とはいえ、マスラオは男。男とそういうことをするのかという質問なら、俺は否と答える。
「俺も飯食ったら帰るぞ」
「オワル~」
見捨てられたような目をするな。
「お前は可愛いんだから貞操は大切にしろ」
「その貞操をだな……」
あーはいはい。とりあえずホテルな。メガフロートに建てられた高級ホテル。その最上階のレストランに招かれた。学校での一件から予約を取ったらしい。それで予約が取れると言うのが凄いのだが。この無雲帝国で無理を通せるのは、そこそこのステータスを持っていないとありえないのだが。まぁそこはな。マスラオにも黙秘ってことで。そうして日が沈んで夜。カラオケで時間を潰した後、ホテルに出向き、最上階レストランで食事と相成ったわけだが。スマホが震えた。個室を取ってもらっているし、この際食事マナーは二の次だろうとスマホを見ると。
「あー」
「あー……」
「あー…………」
俺とキラとマスラオと。三人揃って残念な声を出す。何がって? もちろんメターマンの暴走だ。今日のメターマンはウツボ型怪人らしく、強力なアゴで建物を嚙み潰していた。もちろんバーゴストライクの出番だが、キラとマスラオは俺を見て、何か意思表示をしていた。つまり自分が出向くかもしれないと。キラはマスラオのことを、マスラオはキラのことを知らないが、二人とも自分と俺だけが魔法少女の正体を知っているという奇妙な関係だ。だがその懸念もすぐに払しょくされた。
「……そこまでです……メターマン」
国際魔法少女基金に入金がされたのだろう。アメリカ合衆国のとある地方で暴れているメターマンが、その声に引きつけられた。
「……ボクが相手だ」
そうして現れたのは。
『キター!』
『待ってました!』
『アルちゃんマジ最高!』
『今日もナイスおっぱい!』
ネットが沸騰する。現れたのは究極少女アルテミスト。魔法少女バーゴストライクの一人で。とある魔法を使う魔法少女でもある。
「KHSYAAA!」
そのアルテミストを敵と認定して、襲い掛かるメターマン。そのウツボ特有のアゴの強さで、噛み砕かんとした瞬間。
パァン。
ウツボ型怪人は見えない何かに弾かれた。これがアルテミストの絶対防御。イージスシステムだ。
「GIAAAAA!」
そうしてウツボ型メターマンと究極少女アルテミストの戦いのゴングが鳴った。俺たちはレストランでコース料理を食べながら、各々のスマホで、その戦いをワクワクしながら見ていた。っていうかマジでおっぱい大きいな。究極少女アルテミスト。




