第113話:誰がための鎮魂歌【三人称視点】
星崎キラーン。二江キワミ。壱岐尾クレナイ。斑鳩マスラオ。四人はタクラマカン砂漠からオワルの家の座敷部屋に転送され、そしてドレスティック・インバータを起動させた。一時的に全ラになって、それを写真に収めようとする変態チックなオワルが見れると思ったのだが、四人の予想は外れ、座敷部屋にはオワルはいなかった。こんな絶好のチャンスをオワルが逃すと思えなかった四人だが、まぁいないのだから何か都合があるのだろうと意識を切り替える。
とりあえず世界は平和になった。世界征服とか頭の悪い政治をガチでやろうとした結論少女ユニバーゴは死んだ。殺人を犯したという罪悪感は残るが、それでも世界中の誰もが肯定する殺人であったのも事実で。世界中から集まったファンド資金百兆円。国際魔法少女基金と折半して、さらにそれを四等分。バーゴストライク一人につき十二兆五千億円。なお無雲帝国では課税対象にならないので国庫には一円も納める必要が無い。世界を救った報酬にしては安いかもしれないが、それでも個人資産で十兆を超えればどう見ても勝ち組だろう。そうして四人が持っているブローギア……正式名称ブルーローズィックギアが最後の魔法を音声説明する。
「個体名、結論少女ユニバーゴの死によりコネクトーン・ネクサスの分解を確認。決定的崩壊より先に設定された最後の魔法、ピースタキオン・レストレーションを開始します」
ピスタキオン・サルベーションではない。ピースタキオン・レストレーション。それが何を意味するのか。それを世界が知るのはもう少し後。とにかくピースタキオン・レストレーションが自動的に行われ。それが何を意味しているのかも知らず。世界は結論少女ユニバーゴの死に沸いた。
『バーゴストライクが勝つって俺、信じてた!』
『最後はやっぱり正義が勝つんだな!』
『でもユニバーゴちゃんも可愛かったしワンチャン光落ちしないかとも思ったけど』
『まさかの切り札だったな』
『スクール水着仮面二号……よくやった』
『世界が救われるってマ?』
そうしてスクール水着仮面二号も独富島のマンションの一部屋に戻り、シュクールミジュギをドレスティック・インバータ。バーゴストライクとは別の場所で全ラになって、それから私服へと変じる。復讐は終わった。殺す相手はもういない。もう誰も憎まなくて済む。そのことに心が軽くなることを感じていた須久留ミズキ。そのスマホに電話がかかってきた。見ればそれはありえない番号。死んだはずの父の電話番号だ。
「もしもし。ミズキか?」
「お……とう……さん……?」
「あ、ああ、俺だけじゃないぞ。お母さんもいる。何だろう。何があったのか正確には分からないが確か俺と母さんは……」
死んだはず。というか事実死んでいた。では電話の向こうの声は何者だ。
「そうだよな。お前を遺して死んだんだよな。なんで俺も母さんも生き返ったんだ?」
もしかして、とミズキには一つ思い当たることがあった。バーゴストライクのピスタキオン・サルベーション。アレはメターマンに殺された人間を蘇らせる。もしもその上位互換の魔法を結論少女ユニバーゴが使えたとしたら。可能性としてはありえなくない。それなら、死の直前に彼女が行使していてもおかしくはないのだ。
「あ……あ……あ……」
涙があふれた。あの狂人を討ったことに一片の後悔もないが、それによって両親が蘇ったのなら幸せの総量的にはむしろプラス。世界は救われ、死者は蘇り、罪人が死んだ。残ったメターマンも少しずつバーゴストライクとオーダーメイドで駆逐していけばいい。とにかくミズキは幸せだった。日本で死んだはずの両親は現実に意識が追い付いていないらしく、とにかく一度会って話をしようと予定を立てて、それから今度はスクール水着仮面一号へとテレパシーを送る。シュクールミジュギの副産物だ。だがいくら経っても繋がらない。一号が無視しているのか。あるいはシュクールミジュギが機能していないのか。実はその双方であったのだが。
そこに不思議を感じていると星崎キラーンから呼び出しがあった。何だろうとは思ったが、特に拒否する理由も無いので応じる。タクシーに乗って指定された住所へ。そこには古びた一軒家があり、表札には遠藤の文字が。
「遠藤の家?」
何故ここに呼び出されたのか。玄関に立つと迎えられ、そのまま中へ。既に呼び出した星崎キラーンがおり、さらに何故か二江キワミ、壱岐尾クレナイ、斑鳩マスラオがいて。
「なんで呼んだの?」
「とにかく呼べって。香鳴キレイさんが」
そうして瞳を閉じて黙祷している香鳴キレイを見る。隣には娘のカレンがいて。部屋の隅っこでは朝路辺イイトがタブレットを見ながらすさまじい速度で無線のキーボードを叩いている。
「全員揃いましたね」
あらあら、と言う気も無いらしく。厳かにキレイは言った。
「御本人たっての希望なので個人葬をさせてもらいます。念仏も棺桶もありませんが、皆様が悼む気持ちは等しいとわたくしは考えております」
その言葉に五人が困惑する。カレンとイイトはキレイの言うことを事前に知っている。
「堕星少女スタッブスター……星崎キラーンさん。究極少女アルテミスト……二江キワミさん。太陽少女オーバーサン……壱岐尾クレナイさん。罠娘少女ダーンディアナ……斑鳩マスラオさん。スクール水着仮面二号……須久留ミズキさん。そしてスリークイーンの一角。ハーレクイーン……香鳴キレイ。シークイーン……香鳴カレン。ランクイーン……朝路辺イイト。この八人で遠藤オワルの遺産を八等分します」
「「「「「……は?」」」」」
今、なんと言った。遺産。誰の。オワルの?
「どういう……こと?」
オチが分かる。わかってしまう。なのに理解が及ばない。
「日本から独富島の独立を謀ったレコンキスタドーンの首魁……コードネーム・シングルモルトは遠藤オワルという人物でした」
「「「「「…………」」」」」
バーゴストライクとオーダーメイド。五人は何も言えない。
「彼はその後、独立戦争を勝ち抜き、独富島に無雲帝国を建国。皇帝となります。さらにその手腕を活かしエンドレース株式会社を起業。社長に就任し、自らの持つ魔法で核融合炉を建造しました。彼の持つ魔法はあらゆるものを繋げるコネクトーンと呼ばれるエキゾチック粒子を演算し中央で管理するモノ。この粒子の効果の一つにトンネル効果の再現があり、つまりエンドレース株式会社の核融合炉は全て遠藤オワルの脳内演算に依存していたわけです。さらに自衛手段で作ったメターマン。その暴走を止めるためにブルーローズィックギアを開発。一定以上の被害が広がらないようにバーゴストライクを組織。国際魔法少女基金を設立し、魔法少女の有機的運営まで行っておりました。なおそれでもパワーバランスが崩れることを恐れ、第四勢力地球秩序維持思想団体オーダーメイドを発足。須久留ミズキさんを勧誘して世界のパワーバランスを均等化。本人は一号を名乗っていましたが、事情が事情のため一号としての活躍は自由にはできませんでした。これら全てをこなし、自分が死んだら核融合技術が失われることを恐れ、彼は工学的に汎用性を持ったコネクトーン操作技術の開発に腐心。結果としてこちらの朝路辺イイトがAIアルゴリズムによってオワルを介しないコネクトーン応用操作を開発。今は核融合炉三号機の実験段階ですが、オワルの脳を用いなくても常温核融合が実現できる兆しが見えて参りました。けれどもそれによって結論として遠藤オワル……つまり全ての元凶シングルモルトは、そのアイデンティティを消失。結論少女ユニバーゴを名乗り、地球人類に対して宣戦布告。あなた方に討たれ、浄土宗で言うところの西方浄土に旅立たれました。わたくしの言っていることがわかりますか?」
もちろんわからない。わかりたくもない。星崎キラーンが。二江キワミが。壱岐尾クレナイが。斑鳩マスラオが。そして須久留ミズキが。彼女らが殺したのが遠藤オワルだなんて。
「う……嘘……だよな?」
マスラオが真っ先に口を開く。受け入れるわけにはいかない現実。だがキレイの言っていることに不合理性は一切なく。さらにこの場にオワルはいない。結論少女ユニバーゴは戦いの前にタクラマカン砂漠に宮殿を作った。もしもそれが自分の墓を作るためだとしたら?
「一号お姉様が……遠藤オワル……?」
憧れていた「じゃあ復讐しよう」とシュクールミジュギを与えてくれた一号が須久留ミズキにとって親の仇。
「だって、それじゃあ、なんで、私たちと戦うなんて……」
感情が空っぽになる。それをまざまざと実感しながらキラーンが尋ねる。
「魔法少女なら分かるでしょう。コネクトーンは別宇宙からエントロピーの低い真空エネルギーを持ってきて膨大な相転移エネルギーを行使できます。もしも彼の脳内演算がエラーを起こしたら、その時点で宇宙が終わってもおかしくないのです」
だから死んだ。それだけのこと。
「エンドレース株式会社の株式。ならびに無雲帝国のオワルちゃんの銀行口座のお金。これを八等分して皆に渡します。よかったですね。星崎さん。二江さん。壱岐尾さん。斑鳩さん。須久留さん。これであなた方も立派な世界的な資産家ですよ」
わたくしはあなた方を一生許しませんけどね、とキレイは添えた。




