第111話:皇帝のサービス
「くあ……」
俺が朝に目を覚ますと、ネットニュースは騒然としていた。地球に存在する国、企業、人……それぞれが力を合わせてかき集めたお金。それが百兆円に達したのだ。人類は無雲帝国の属国になるより自称皇帝を討伐して核融合技術を奪うことを決意したらしい。とは言ってもあくまで先進国の意向であって一部後進国は無雲帝国の属国になることを表明していたりする。なかなか国ごとに事情があって面白いやら何やら。
「とすると……」
バーゴストライクが襲い来るわけだが。
「結論少女ユニバーゴぉ!」
島全体に響き渡る声で、堕星少女スタッブスターがユニバーゴの名前を呼んだ。
「出てきて私たちに討滅されなさい!」
スリークイーンは既に出動しているのか。独富島上空に浮遊している四人のバーゴストライクをドローンカメラの映像で映していた。国際魔法少女基金は地球人類から百兆円徴収した。であれば、後はバーゴストライクを派遣して無雲帝国皇帝にして結論少女ユニバーゴを討伐すれば世界中の人々はハッピーになれるわけで。
「じゃあ行きますか……」
どうせドレスティック・コンバータをするので衣服はどうでもいい。
「ドレスティック・コンバータ起動」
そうして魔法少女のドレス姿になる。結論少女ユニバーゴ。
「あんまり行きたくないんだけどなー」
キラ達と戦うというのも、それはそれで憂鬱ではある。
「まぁいいか」
そうして玄関を開けて、外に出ると。
「行くんでありますか?」
スリークイーンの一人、ランクイーンこと朝路辺イイトが立っていた。俺を待っていたのだろうが、仮に俺が玄関を経由せずに、そのまま屋内でWARPドライバを使っていたらどうする気だったのだろう?
「まぁそこは勘でありますよ」
腹を探られるようで面白くないなー。
「何か用か?」
今更俺にかける言葉も無いだろうという諦観からの一言だったが。
「この子が結論少女ユニバーゴのサインが欲しいというので」
と、一人の少女を指差した。イイトと一緒にいる幼女が誰なのか気になっていたが、俺のファンか。まぁそりゃ今まで顔出ししていなかったわけだから美しい魔闘家の理想みたいに「無雲帝国皇帝ってどんな人だろう!?」という議論はあったわけだが。
「こーてーへーか。サインください」
幼女はトレーディングカードゲームであるバーゴストライカーズのコモンカードを俺に差し出す。もちろんマジックと一緒に。俺にサインをせがまれた星崎キラーンの心境もこんな感じだったのだろうか? いや、アイツはもうちょっと調子に乗っていそうだな。仕方ないので『ユニバーゴ』とひねりの無い筆記でカードに名前を書き込み、握手を求める幼女に応えてやる。そうして幼女が満足すると、俺はイイトに視線を振る。
「お前がバラしたのか?」
「まぁそうとも言えるような言えないような、であります。下ごしらえはしっかりとしておくタイプの人間でありますので」
下ごしらえ?
「じゃ、行ってらっしゃい」
ヒラヒラーとイイトは手を振って。俺はそれに応えた後、タクラマカン砂漠まで空間転移した。
「さて、じゃあ始めるか」
そうしてどこまでも広がる砂漠にエネルギーを通して結晶化。サラサラの砂粒を岩石に再変換する。砂漠全てをそうするわけではないが、俺の視界に映るあたりは全て岩石に変わった。そこから結晶を削り、切り裂き、繋ぎ、乗せ、転移し、無くし、増やし、タージ・マハルのような宮殿を作り上げた。まぁタージ・マハルは正確には墓なのだが、あえてそのことにはツッコむまい。そうしてタクラマカン砂漠の一部を広大な宮殿に変え、その写真を撮ってタクラマカン砂漠の座標を付随の上、
「ここで待ってまーす。イェイ!」
とコメントをSNSに投下。数分で十万いいねが付き、おそらくだが三十分後には百万いいねに達するだろう。どこまでも広がる砂漠の一部を宮殿に変えたのだ。エモーショナルではあるだろう。そうして俺が宮殿の中心、その尖塔の屋根の上でホケーッとしていると。
「結論少女ユニバーゴ!」
堕星少女スタッブスターが俺の名を呼んで現れた。そして究極少女アルテミストが。太陽少女オーバーサンが。罠娘少女ダーンディアナが。次々と転移してくる。そうして砂漠に出来た東京ドームで例えると四桁を超える広さの宮殿を見て、狼狽える。
「これ……あんたが創ったの?」
「ああ、結論少女ユニバーゴの魔法は創造魔法。あらゆる全ての始まりである」
気取った風に俺はそう言った。
「……砂漠を宮殿に変える……か」
「先生たちの魔法じゃこうはいかないわね」
「っていうか敵にするには惜しくないか?」
四人とも俺の有用性には異存が無いらしい。
「まぁ実費はかかっていないからな。いくらでも壊してくれて構わんぞ」
もったいない気はしないでもないが。フワリ、と俺の身体が浮かぶ。空中浮遊程度は魔法少女の嗜みだ。
「戦うのか?」
罠娘少女ダーンディアナが聞いてくる。
「こっちのセリフだ。俺とやるのか?」
国際魔法少女基金が出した指令は結論少女ユニバーゴの排除。つまり俺をどうにかしないことには始まらない。
「世界征服を取りやめる気はないか?」
「ノー」
ダーンディアナの妥協の求めに、俺は一言で否定した。暴君のシチュエーションを取りやめる気はない。排除したいならやってみるといい。そう俺は挑発する。
「今時世界征服って……」
「マロンがあっていいだろ?」
「そんなロマンだけで世界中滅茶苦茶にしようってか」
「当たり前だ。お前らの目の前にいるのは世界皇帝だぞ?」
「傲慢……というには力を持ちすぎているな……お前」
俺がその気になれば地球は終わる。そう察するのも難しくはないのだろう。
「では、戦うしかないんですね?」
太陽少女オーバーサンが聞いてくる。
「こっちに着くなら相応の待遇は約束するが?」
「……中々そういうわけにもいかず」
アルテミストが困ったように頬をかく。四人とも自分のブローギアを握りしめ、今まさに魔法を発動しようと緊張している。困ったものだ。俺もまた宮殿の上の空でフィニッシュブローギアを握り、その切っ先を四人に向ける。
「さて、つまり俺にとってお前らは邪魔。お前らにとっては俺も邪魔。なら、どちらかが消えるしかないよな?」
「どうしても世界を征服するつもりか?」
「無論だ。雨が降って出かけられない時は国を一つ滅ぼしてうっぷんを晴らし、冬の寒さがい備しい時は人を燃やして暖を取る。地球上のすべての人間が俺のおもちゃになるんだよ」
酷薄の笑みで、俺は俺が支配する世界の青写真を語り聞かせる。ここで俺を打倒しないなら、もはやそれは第三帝国の比ではない犠牲が出る。それをバーゴストライクが認識するのにさほどの時間はいらなかった。
「人間を核融合させるのもいいかもな。人の命を使って人類の暖を取る……」
「反吐が出るわね」
スタッブスターが吐き捨てる。どうしようもない邪悪。その様に今の俺は映っているのだろう。
「ではどうする?」
聞いた問いには返答はなかった。代わりに空が落ちてきた。




