第110話:あの日あの時
「…………」
誰だろう? 誰かが泣いている。まるで悔しくて我慢できないかのように。どこかで見た顔だ。可憐で可愛らしく、乙女のようでいて、なのに綺麗さまで備えている。
「マーちゃん」
その乙女を見つめ、俺は彼女……いや……彼をマーちゃんと呼んだ。マスラオだからマーちゃん。そのように呼んだのだ。
「俺は……女みたいだって……皆が……」
「うん。そうだよ。マーちゃんはとっても可愛いの。だからきっとマーちゃんは誰よりも素敵な人になれるよ!」
幼いながらに言った言葉。その一言でマーちゃん……マスラオの涙が止まった。
「オワっちは……馬鹿にしないのか?」
「うん。だって可愛くても綺麗でも……マーちゃんはボクの親友だから」
きっとこれがきっかけ。多分だけど……そうだろう。
「…………夢」
朝起きると、俺は過去に自己嫌悪しているマスラオを絶望から救ったことを思い出していた。なるほどね。アレでマスラオは俺に惚れたのか。
「オワル。起きたのか?」
で、座敷部屋でむっくり起き上がると、エプロン姿のマスラオがヒョコリとこっちを見つめていた。リビングの方からだ。
「どうやって入った?」
「ちょっとメターマンを倒してきたから。ドレスティック・インバータはこの家でだろ? ついでに朝飯でも作ってやろうかと」
さいですかー。
「お前が望むなら裸エプロンもアリだぞ?」
「誰が得するんだ?」
「もちろんTSして」
「是非止めて」
「やっぱりおっぱい無いと嫌か?」
「そういう問題じゃない」
特に胸の過多は気にしない。
「飯食うか?」
「そうだな。いただこうか」
「というかおかずは香鳴さん家のキレイさんの作だがな。俺は米炊いて味噌汁作っただけ」
「おかずは?」
「ナムルとほうれん草の胡麻和え」
うーん。何というヘルシー。
「肉も欲しいか?」
「いや、十分だ」
そうしてマスラオが座敷のちゃぶ台に朝飯を並べて。俺はその間に布団を天日干しにし。
「じゃ、いただきまーす」
と、朝飯に入った。
「最近の情勢は知ってるか? オワル……」
「どれのことを言っている。世界大恐慌か?」
「それも関係することだが」
「とすると無雲帝国についてだな」
「国際魔法少女基金が資金を募ってる。これは知っているか?」
「まぁネットで流れている噂程度なら」
「世界中の国、企業、民間人、地球人類から資金を調達して目標額に達したら結論少女ユニバーゴを討伐するためにバーゴストライクを総出撃させる……と」
「あー、あれ」
知っているというか、俺がそう言うように国際魔法少女基金に命令したのだから知っている方が自然だ。もちろん馬鹿正直にマスラオに言ったりはしないのだが。
「結論少女ユニバーゴねー。次のバーゴストライカーズのブースターパックが楽しみだな」
「お前は本気で言ってそうで怖いよ」
実際本気だが。次のブースターパックの依頼が来た時のためにデザイン会社にサインを依頼するか。
「もしかしたら、百兆円に届くかもしれない」
マスラオが危惧しているのはそこ。たしかに無雲帝国の皇帝ユニバーゴは自分を皇帝と自称した。そして無雲帝国の属国になれば核融合技術を提供するとも。だが逆に言えばユニバーゴを討伐すれば無雲帝国は皇帝不在の無秩序国家となり、その隙をついて核融合技術を手に入れられる……かもしれないのだ。俺にしてみれば狸の皮算用だが。そもそも俺の命令から解放されたメターマンがどのような行動をするのか。ソレを知らないとまでは言わないが、最悪核廃棄物より厄介な存在が地球に残ることになる。簡単な話だ。バーゴストライクのブローギアは俺の脳機能であるコネクトーン・ネクサスを仲介して真空エネルギーを取り出している。つまり俺が死ねばバーゴストライクは魔法を失い、メターマンのメタリアルディフェンサーを突破する攻撃が地球から失われるわけで。
「そしたら俺たちは……無雲帝国の皇帝を排除する方向に動く可能性が……」
「大変だなー」
まさにだから何としか言えんのだが。
「怒らないのか?」
「何に?」
「バーゴストライクが……つまり俺たちが……独富島に牙を剥くんだぞ?」
「一種のクラウドファンディングだよな。金を出した奴は優先的に核融合技術を手に入れられる……か。で、百兆円集まりそうだと」
「もしかしたら独富島を攻撃するかもしれないんだぞ!?」
「ああ、大丈夫だ。別に俺は気にしない。気にする必要も無いしな」
「許すということか? それとも俺たちが勝てないと?」
「どちらもって感じだな。少なくとも結論少女ユニバーゴは」
つまり俺は。
「勝算もなく社会に顔を出したりしないだろ。脅威となるバーゴストライクについても思考を巡らせている……と考えるのが妥当じゃないか?」
「それは……でも……俺は独富島を攻撃したくない」
「ユニバーゴも皇帝だから攻撃されたくないと思うぞ」
「じゃあ……」
「決戦は独富島じゃないだろうな」
そういう話に結論する。まぁ実際に独富島でブラックホールだの反物質だのを撃たれても困るのでそれはいいとして。
「その上で勝算はあると思っているはずだ」
「オワルは俺のこと嫌いにならないか?」
「それこそ杞憂だ」
ニッコリと俺は微笑む。
「マスラオが俺をどれだけ好きかは……さっきちょっと確認した」
「確認?」
「余計なことを言ったんじゃないかと思ったが、まぁそうでもなかったらしい」
自分を好きでいてくれる存在。そういうものに俺が救われているのは事実だ。ただそうなると、俺が今考えていることがちょっとだけ申し訳ない。
「そのー……ところでだなー……」
で、朝飯を食って、マスラオが皿洗いをし、そして食後の茶を出しながら、どこかソワソワしてマスラオが言う。
「俺と……しないか?」
「セクロス?」
「ええと……まぁ……だな」
「まぁやるのはいいんだが、どうせなら魔法少女ドレス姿でするか」
「思ったよりオワルって手慣れているよな」
優秀な教師が隣に住んでいるもので。バツイチの元人妻に性指導をされるとか、どれだけ幸福ものだよって話で。そうしてブローギアを呼んだマスラオはドレスティック・コンバータをし、そのドレス姿のまま俺の慰み者になり果てた。マスラオのアソコは気持ちよかったぞ?




