第106話:悪役のやるべきこと
「この通りだ! 無雲帝国を自称するテロリスト集団は世界を支配し弾圧しようとしている! 民主主義という偉大な政治体制を否定し、おのが独裁で地球の文明を貶めようとしているのだ!」
大統領は今日も今日とて演説する。
「世界諸君! 決してユニバーゴの甘言に乗ってはならない。彼女の言葉一つで虐殺が起きる様を私は動画で見るように思い描ける。彼女が機嫌を損ねればあらゆる国のあらゆる尊い命が縛り首にされてしまうだろう。あえて言おう。レコンキスタドーンに恭順する者は暗愚であると!」
高らかにそう宣言すると、スピーチを聞いていたその場の米国人がスタンディングオベーション。そうして大統領を肯定しているように演出し無雲帝国が悪だと印象付けているのだろうが。
「よくもまぁ貶めてくれたものだな」
全世界ライブ中継。その場に俺……結論少女ユニバーゴが現れた。もちろんカメラは撮れ高。テレビ局はいきなり大統領の演説に現れた俺をアップで映す。
『ユニバーゴ様キター!』
『これはマズいんじゃないか?』
『大統領ヤムチャしやがって』
「つまるところ無雲帝国を国家として認めないと?」
いきなり現れた俺に動揺しながらも、それでも弁舌を振るう大統領。
「テロリストリーダーのユニバーゴ氏。君は今まで何人の人間を殺してきたか自覚があるかね?」
「さてね。お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」
そもそもだが、こっちから能動的に殺した数ならゼロだと思うが。
「君のような暴君に世界の命運は委ねられない。世界とは国民の投票によって選出された議員によって進められるべきだ」
「そのために俺たちに攻撃するなら、それは国民によって選ばれた暴君ではないか?」
「それこそがシビリアンコントロールというものだ」
なるほどね。
「「「「「フリーズ!」」」」」
大統領の演説に急に現れた結論少女ユニバーゴ。ボディーガードも取り乱し、演説の舞台に上がって拳銃を俺に向ける。六人で囲んで銃を向けているが、ファイヤラインは重なっていない。この辺りはさすがだと言えるだろう。
「わかるかねユニバーゴ氏。君が魔法を使おうと思えば、その前にボディーガードは君を射殺する。マッハよりも早く魔法を起動できるかね?」
脅すつもりで言ってるんだろうが。
「可能だ」
俺はあっさりとそう言った。
「というか俺にはメターマンと同じくメタリアルディフェンサーが備わっている。通常の物理攻撃では殺せない。あえて通用する攻撃を挙げるならバーゴストライクの魔法くらいだな」
「はったりだ」
冷や汗をかきながら大統領は上ずった声で言う。
「大統領。こちらに」
他のボディーガードが大統領を保護しようと演説の舞台から避難させようとするが。
「逃げるのか? 大国が?」
俺がそう言うと、米国のプライドがくすぐられた。今、世界中にこの映像は発信されている。その映像の中でユニバーゴは堂々と現れ、拳銃にも臆していない。その俺が言ったのだ。
「逃げるのか?」
と。
「殺せ! 殺してしまえ!」
「その銃を撃て!」
「正義の名の下に!」
「ユニバーゴを撃て!」
スピーチを聞きに来た民衆はボディーガードの拳銃のトリガーを引けと声を上げる。ネットの反応は見ることができないが、どうせ賛否両論だろう。結論少女ユニバーゴも、その内バーゴストライカーズのブースターパックに追加されるかもしれない。ん? とするとトップシークレットのレアカードには俺がサインをするのか?
「さて、大統領」
俺が一歩、大統領に近づくとボディーガードが焦る。
「「「「「フリーズ!」」」」」
「撃ちたいなら撃て。後悔するのはそっちだがな」
そうしてさらに一歩大統領に近づく。一人が銃弾を撃った。そうしてパァンッ! と銃声が鳴ると頭を撃ち抜かれた。俺の、ではなく演説を聞きに来ていたセレブの一人の、である。
「「「「「――――!」」」」」
悲鳴が上がった。さっきまでのユニバーゴを撃ち殺せという弾劾はどこへやら、ここにいると死んでしまうという恐怖が民衆を突き動かした。
「さて、じゃあ国民代表のプレジデント。君の口から聞かせてもらおう。米国は無雲帝国の属国になる意思はあるか?」
「無い! 断じて!」
さらに銃声。演説の視聴者の一人がまた死ぬ。話としては簡単だ。撃たれた銃弾をWARPドライバで転送しているだけ。そのWARPドライバについては何も知らないだろうが、俺に銃弾を撃っても意味がないことは理解したらしい。
「待て! 話し合おうユニバーゴ氏! 私たちは対話が可能なはずだ!」
「残念ながら俺はプレジデントが仰る通りの暴君でな。暴力を用いて意見を通す。逆らう奴らは皆殺しだ」
酷薄な笑みを浮かべて俺……結論少女ユニバーゴはそう言う。
「国際社会における汚点となるぞ!」
「独富島にミサイルを撃ったお前ら米国がそれを言うか?」
既に朝路辺イイトが対地ミサイルを撃ったのはペンタゴンの意思だと証明している。
「それで聞くが、アメリカは無雲帝国の属国になるか? ならないか? どっちでもいいぞ。イエスと答えるまでプレジデントの首がすげ変わるだけだ」
「そ……れは……国際社会における国家の在り方ではない!」
「お前らが言ったんじゃないか。無雲帝国は正式な国家じゃない武装テロリスト集団だと。そんなテロリストに国家の在り方を説くのか?」
「ノー! それはあくまで貴君らの横暴による世界中の見解であり……」
大統領がそう言った瞬間、彼の右手の人差し指……その爪がはがれた。
「ッ……があああぁぁッッ!」
いきなり痛み出した大統領。その意味するところを世界中継ライブ映像では把握することができない。俺は演説台のマイクまで歩いて、そうして視聴者に高らかに告げる。
「これから俺はプレジデントを拷問する。貴君らの選出した代表が、無雲帝国を正式に国家として認め、なお米国が属国となることを承認するまで拷問を止めない。諸君らは見届けてくれ。君たちが選出した国民の総意が無雲帝国に屈服するところを」
そうしてドローンカメラが今度はバーゴストライクチャンネルでライブ映像を映した。さすがにアメリカ側がこれ以上国家の醜態をさらすわけにはいかないのでカメラを止めたわけだが俺には関係ないね。スリークイーンがドローンカメラを作って臨場感たっぷりに俺と大統領のやり取りを撮影する。
「あのドローンを撃墜しろ!」
ボディーガードの責任者がそう言って、拳銃の銃口がドローンカメラに向けられるが、銃弾は一発も当たらなかった。スリークイーンのシタギに付与している魔法は放逐魔法。空間を転移させ害するものを別の場所へ放逐してしまう。そうして弾丸は何発も撃たれ、そのたびに大統領を支持する演説視聴者が撃たれていく。
「さあプレジデント。カメラの前で宣言してくれ。偉大なる合衆国は我が軍門に下るや否や」
既に結論少女ユニバーゴの世界中における印象は最悪だろう。だがそれでいい。そのために悪役を演じているのだ。
「銃が効かないならせめて拘束しろ!」
言われて羽交い絞めにしようとするボディーガードの一人。だが俺に触れた瞬間、コマ落としで映像を編集したように突然消え失せた。
「一介のボディーガードが無雲帝国皇帝に触れようなど。不敬が過ぎるな」
そうしてそのボディーガードがどうなったかというと、高い空から落ちてきてスピーチ視聴者を巻き込んで激突死。もうこの時点で理解はしたのだろう。目の前にいるのは人の形をした超越者である……と。
「プレジデントは国民の総意を受けていると解釈する。返答は如何に?」
俺がそう聞くと大統領は震えながらも意思を表明した。なら、しょうがないよな?




