第103話:ヒューマニティキャンサー
「聞いてくれ。世界の人々よ」
なんか米国の大統領が演説をするというので「お暇があれば見てください」とか言われて、仕方がないのでエンドレース株式会社の社長室で、俺をスマホを斜めに置いて、映像として映る大統領を眺めた。
「どうせ何か無雲帝国に不利なことを言うんでありましょうけど」
ランクイーンこと朝路辺イイトが分かり切っています、とばかりにそう言う。一応トンネル効果を促進させるAIアルゴリズムは成功しているが、それで満足しないところがイイトのプロ根性。というかキーボードを打っていないと安心できないらしく、常にプログラムを更新している。
「無理しなくていいぞ」
とは言っているが。
「いえ、単なる性分です」
とのお答え。とにかく何かコンピューターに向き合っていないと精神が安定しないらしい。もはや病気と言えるが本人がそれで満足しているので、こっちから止めろとも言いづらい。
「いま世界を襲っている大恐慌は無雲帝国が引き金を引いたものだ。かの自称国家は自分たちの権益のために容赦なく世界を混乱に陥れた!」
何言ってんだテメェ。こっちに対地ミサイル撃ち込んでおいて。
「まぁそういう風に理論展開をするしかないないわよねー」
ハーレクイーンことキレイさんがあらあらと困ったように動画を見てため息。
「財産を失った国民諸氏。地球の人類よ。今こそ力を団結するときだ」
その内、立てよ国民、とか言い出しそうだ。
「我々地球に責任ある大国は、かの自称国家組織無雲帝国を人類初のヒューマニティキャンサーと呼称し、全力でもってこれの快癒にあたる所存だ!」
ヒューマニティキャンサー。つまり人類のガン。人の内部より発生した人類のタナトスが、つまり俺たちらしい。で、どうすんの?
「無雲帝国皇帝を自称する人類史上最大のテロリストを我々は捕えて裁判にかけることとする! なお、無雲帝国に利することをした国家、企業に対してもヒューマニティキャンサー治療の一環として厳粛な対応をさせてもらう。さあ行こう人類よ。我らの内部に生まれたデストルドーを乗り越えて、新しい平和を手に入れようではないか!」
そうして、大統領の演説が終わり、それから無雲帝国は対応を求められた。そもそも無雲帝国は帝国と自称はしているものの、皇帝が誰なのかもわかっていない。エンドレース株式会社の社長とて正体不明という見えざる政府に支配されている国だ。このまま無雲帝国がおとり潰しになれば、国民は最悪の末路を迎えるだろう。それはそれで面白そうだが。
「どうしますか? シングルモルト様……」
顔は出さなくても、国家の方向性を示すことは可能だが……。
「なぁランクイーン。プログラムによるトンネル効果は既にお前が把握している……ってことでいいんだよな?」
「んーと、まだ自分自身もどうしてトンネル効果が発生しているのかはわかっていないんでありますが」
ボタンを押したらジュースが出ることは分かっても、その自販機の内部で何が起こっているかは悟れない。偶然ゲッター線の栄光を受けて進化を促されたランクイーンこと朝路辺イイトが偶然トンネル効果を生み出すアルゴリズムを完成させたという偶然に近い何かが起きたわけだが。
「完璧に把握はしていなくても、おおよそ程度は分かっているんだろ?」
「まぁ中国語の部屋の中に入っている人間が何語を喋っているのかどうか程度は……」
それで十分だ。
「じゃ、そろそろ世界征服に乗り出すか」
「シングルモルト様……世界に御尊貌をお晒しになると?」
「さすがに遠藤オワルとしては出ないがな」
そう言って俺は社長椅子に座ったまま、真横に水平に腕を伸ばす。
「来い。フィニッシュブローギア」
言われて現れたのはブローギア。それも四人のバーゴストライクとはまた別のそれ。つまり五本目のブローギア。俺がつけた愛称はフィニッシュブローギア。ほら、なんかちょっと厨二心を刺激するだろ?
「第五ブルーローズィックギア……ですか?」
「そ、俺専用のブローギア」
斑鳩マスラオがそうであるように、俺もこれで魔法少女に変身できるのだ。
「ヒューマニティキャンサーとはよく言ったものだ。的確過ぎて反論の余地もないね」
「ではシングルモルト様が魔法少女に変身して、御身を晒すと」
そういうわけだな。
『無雲帝国は人類のガン』
『あの国のせいで俺は財産を失った』
『うちの会社も畳むしかねえ』
世界中から悲鳴が漏れ出ている。その原因を作ったのが俺だということには自覚があって。でもだから何? で終わってしまう結論でしかない。
「じゃあスリークイーン。無雲帝国が世界征服をするにあたって、必要となる口上を考えてくれ」
「あらあら」
「がんばるっす」
「まぁ考えるのはいいんでありますが」
スリークイーンもレコンキスタドーンの立派な女幹部。こういう仕事は任せるに限る。
「ちなみにそれって世界中の国を属国に?」
「無論だ。何のためにイイトを雇って核融合技術を汎用的にしたと思う?」
「あー……」
それを言われると、みたいな表情になるイイトことランクイーン。
「多分一番対応に困っているのは日本政府だろうな」
「ですわよねー。あらあら」
「お役所仕事も大変っすね」
「笑い事じゃないでありますけど」
無雲帝国に利することをすれば即人類の敵認定。だが無雲帝国を敵に回すのは日本としては避けたいだろう。そう思ったのだが。
「米国との融和を乱すつもりは誓ってないが、無雲帝国は日本から独立した正規の国家だ。かの国は既に核融合技術を手に入れており、なお安価で合成燃料を輸出してくれる。これによる人類の発展にどれだけ貢献しているかは火を見るより明らかであり、日本政府としては無雲帝国に対し敵対的行為は、その一切を禁じるものとする」
おー。俺はスマホの前で拍手していた。見解を述べたのは総理大臣。もっと日和るかと思ったが、日本の姿勢は無雲帝国の味方をするらしい。もちろんアメリカ側の反発も織り込み済みだろう。だが、それを加味しても無雲帝国との敵対はリスクが高すぎる。そう思ってくれたらしい。
「日本は属国にしなくていい。友好国として迎えてやってくれ」
「あらあら。承知しましたわ。シングルモルト様」
「っていうか核融合炉を日本に建てるんでしたっすよね?」
「そのために自分が頑張ったんでありますから」
とすると、どこに核融合炉を設置するかだが。
「太平洋側で、ついでに地震の可能性が少なく、なお設置に便利……となると」
「四国?」
「鹿児島っすか?」
「沖縄とか良いんでは?」
沖縄か。沖縄ねー。問題はあそこの人たちが許可してくれるかだが。とはいえ日本本国だとそれはそれで地震のリスクがあるからな。そこまで加味しても本国に建築するとすると。
「北海道?」
「東北は世論が反対しそうですねー」
「いっそ東京とか」
確かにもうこの際東京に作っちゃうか。まずもって東京原子力発電が東京に無いって言うのが俺は政治的に気に食わん。
「リスクを背負うのがどこでも一緒なら、核融合炉は東京でもいいかもな」
あとは各々の国に降伏勧告を出すだけだ。無雲帝国の属国になれと。もちろん鞭ばかりでは如何なものかという話もあるので、飴の方も用意せねばな。




