第101話:リベリオン
「究極少女アルテミストだと!?」
独富島に放たれた対地ミサイル。それが斥力場で防がれて、ついでにペンタゴンは及び腰。既に関係者に被害が蔓延しており、米国全体が無雲帝国の手の長さにようやく気付いたらしい。
海底基地アトランティス。そこに集う円卓の会議メンバーは……なるほどそうそうたるメンツだった。社会で起業をしていれば一度は顔を見る存在。とはいえ、それで俺が遠慮を覚えるはずも無いのだが。
「クソが! こうなったら予告なく衛星爆撃を行うしか!」
「いや待て。まずは無雲帝国の虐殺を世界に公表すべきだ。世論をこちらに付ければ無雲帝国は孤立する……」
「もうこうなれば手段を選んでいられん。島民を虐殺して無雲帝国の自称皇帝をテロリストに貶めるべきだ!」
色々言ってくれちゃってまぁ。俺はスマホのスピーカーから彼らの声を拾って、新規に開設した【無雲帝国の皇帝チャンネル♪】の初生配信でアトランティス会議の面々の口汚い無雲帝国批判をリアルタイムで世界中にお届けしていた。
俺? 光学迷彩を纏ってアトランティスに侵入している。相手が何処の海底にいるのかさえ分かればWARPドライバで転移するのは容易だ。アサルトヘイトの時は宇宙だったが、アトランティスも海底にいるおかげで今まで俺のメアリーシステムから回避していたのだろう。だからってこれから起こることが変わるわけでもないのだが。
「世界中の核ミサイルを発射すべきだ。この際バーゴストライクもろとも焼き尽くそうぞ」
「然りであるな。我々に恭順しない勢力などあってはならない」
「我々は世界経済に責任を持つために愚民どもをブタのように調教する義務がある」
「そうと決まれば独富島を焼け野原にすべきだろう。核融合技術は技術者を拉致して聞き出せばいい」
「その拉致が問題だ。どうやって攫うための要員を確保する?」
「相手から出て貰えばいいだろう。金なら幾らでもあるのだ。技術を持った職員の五人や十人……無雲帝国以上の金で釣れば簡単に靡くだろうさ」
あっはっはー。完全に舐められているな。
「愚民どもに対してアドバンテージを得るには核融合技術がどうしても必要なのだ」
「我々の権力と財力を用いれば従わせることなど造作もないだろう」
「愚かしいバカどもを支配するためにも、核融合技術だけは確保する。そして無雲帝国はテロ集団として国際的に処罰する。バーゴストライクはそれぞれ各地に散ってもらって、我々の命令に従って無雲帝国に謀略を仕掛けようとしている愚鈍どもを襲うメターマンの相手をしてもらおう。その間に、爆撃で独富島を更地にする。ミサイルの速度に飛行型メターマンが対処できないのは既に証明されている」
そうして俺のスマホの拾っている世界中に流れている彼らの横暴な会話は、俺の【無雲帝国の皇帝チャンネル♪】に駄々洩れで、まぁコメント欄は炎上している。愚民ども。核ミサイル。バーゴストライクもろとも。爆撃して独富島を更地に。まぁそりゃ炎上するわな。完全に地球全人類をバカにした会話だ。ヘイトがたまるのも致し方ないというか。
「はい。じゃあ今回の無雲帝国の皇帝チャンネル♪ ……はここまで。視聴者の皆さまお疲れ様でしたー」
そう音声を吹き込んで、俺は「それではー」とチャンネルを切る。そこでようやくアトランティス会議は、その会議室に俺がいることに気付き、そのまま驚愕した。
「だ、誰だお前は!」
「誰だねチミはってか。そうです。俺が無雲帝国の皇帝です」
と言っても、既に外見は変えているのだが。俺専用のブローギアで魔法少女になっており、女の子になっている。とはいえ、俺が無雲帝国の皇帝であることは紛れもない事実。
「よ」
で、気さくに挨拶。
「いつからいた!?」
「さっきからずっといたぞ。お前らが会議を始めてからな。いやー、有意義な時間だった。まさかあそこまでの爆弾発言を聞けるとは」
ヒラヒラーとスマホを振る。ソレで悟ったのだろう。彼らが地球全人類を愚民と称し、彼らの家畜でしかないと認識していることが世界中にバレてしまった……と。
「ま、そういうわけで。今頃ネットは大炎上だろうねぇ」
俺が言えた義理でもないが。
「き、貴様! まさか!」
「別にいいだろ。たまには王様の耳はロバの耳って叫ばないとやってられないだろ? 俺はそれを世界中に流しただけだ」
「警備兵! 来い!」
緊急事態。この世界の支配者しか入ることの許されない円卓に、迷い込んだ一人の魔法少女。その彼女に脅威を覚えた会議のメンバーが衛兵たちを呼ぶ。
「殺してしまえ!」
「穏やかじゃないな」
俺は口笛でも吹くようにそう言った。
「ちなみにその拳銃のトリガーを引くと、自分が死ぬことになるからな? それくらいは覚悟して撃てよ?」
俺の言っている意味が分からなかったのだろう。警備用の拳銃を抜いて、円卓の広い空間で跳弾の危険もあったが、それも問題視していないのか。あっさりと五人ほど現れた衛兵が銃を撃つ。それは俺に向かって銃弾を正確に飛ばし、そのままWARPドライバによって空間転移。撃った彼らの頭蓋を突き刺して運動エネルギーを消費した。
「「「「「!!!???」」」」」
何が起きたか分からない。そう言いたいのだろうが、こっちにしてみれば今更だ。そもそもなんで俺がここにいると思うよ? 空間を転移できるからに他ならないだろう。
「さて、じゃあ独富島……ひいては我が国無雲帝国への再三の攻撃。殺される覚悟はできているだろう?」
俺は魔法少女の姿でニコリと笑みを浮かべる。
「ま、待て! 待ってくれ! そもそも我々は貴君をアトランティス会議に迎えようとしていたのだ。我々と一緒に世界を統治しないか? そのための力を我々は持っている。核融合技術を欲しているし、それを我々だけで独占すれば、世界経済を掌握するなどあまりに簡単なはずだ!」
「興味ないね。陰謀論がしたいなら既にローゼンクロイツに入団しているよ。俺が興味があるのは世界が核融合技術の恩恵を受けてどこまで発展できるかだ」
「であればなおさらだろう!? 我々が手を組めば世界をさらに一段階上へと押し上げられる!」
「最初にそう言ってくれれば聞く耳も持ったんだがな。アサルトヘイトを使っての攻撃。それ以前にアメリカの第七艦隊もお前らだろ? 衛星爆撃。諸々。まぁよくここまで敵対してくれた。そのバカさ加減に勲一等を送りたいくらいだ」
「待て! 待つんだ! 我々はあくまで平和裏に核融合技術を!」
「そうして世界中で無雲帝国への敵対勢力を作ってバーゴストライクの世話になっていたと」
「悲しい誤解だ! そもそも貴君が核融合技術を独占したことが何よりの――!」
「じゃあな」
そうして俺はWARPドライバを行使する。円卓に座っている会議メンバーの首から上を空間転移させて、それぞれの本社の個人部屋に送付する。ソレを見ればわかるだろう。自分たちの上司が誰を敵に回したのか。
「さて……これからが問題だよなー」
なんせ世界の経済を牛耳っていた十二人のトップが殺害されたのだ。株式市場は荒れるだろうし、無雲帝国の皇帝への批難も殺到するだろう。対する貧困層は完全に愚民と見下していた円卓メンバーにヘイトを集め、その所属する企業や財閥に批判が殺到することになる。
「やりきれないねー」
後は俺が計画的に今日まで温めていた計画を実行するだけ。とは言ってもだ。それもあまりしたくないと言えばその通りではあるのだが。
「仰げば尊し我が師の恩。今こそ別れめ。いざさらば……か」
さよならだけが人生だ、とは誰が言った言葉だったか。分かっていながら、それでもこれからの俺の立場を考えると、俺の上空から見ている俺が、俺に同情しているのだ。




