表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死体が消える町  作者: 臥亜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/9

消えたはずの人

 最初に気づいたのは、郵便局だった。


 窓口に立っていたのは、見知らぬ若い職員だった。


 「前の人は?」


 凛は何気なく尋ねた。


 「前の人?」


 職員は首を傾げた。


 「ええ、背の高い、髪の長い女性。三年くらい前から……」


 「ここ、三年ずっと私ですけど」


 柔らかい笑顔。


 凛は言葉を失った。


 違う。そんなはずはない。あの人は確かにいた。名前も知っている。たしか――


 名前が出てこない。


 帰り道、凛は商店街を歩く。


 魚屋の主人に声をかける。


 「郵便局の人、辞めたのよね?」


 「郵便局? ああ、若い子? ずっとあの子だろ」


 「違うの。前にいた……」


 主人は笑った。


 「この町、人はあんまり入れ替わらないよ」


 それが、この町の誇りだった。


 夕方、凛は役場の前を通る。


 掲示板に目を走らせる。


 行方不明者の張り紙はない。


 事故の報告もない。


 葬儀の案内もない。


 何もない。


 だが、彼女は確信している。


 あの郵便局員は、消えた。


 それから数日、凛は町を歩き続ける。


 理髪店。喫茶店。診療所。


 「最近、誰か亡くなりましたか?」


 誰もが同じ顔をする。


 不思議そうに。


 困ったように。


 少しだけ、哀れむように。


 夜、夫に話す。


 「みんな隠してる」


 「何を?」


 「人がいなくなってるのに」


 夫はゆっくり息を吐く。


 「写真、ある?」


 凛は答えられない。


 写真。


 ない。


 名前。


 思い出せない。


 声。


 曖昧。


 だが、確かに話した記憶はある。


 小包を受け取った。世間話をした。雨の日、傘を貸した。


 はずだ。


 凛は翌日、役場の戸籍課に立つ。


 端末に指を置く。


 検索欄を開く。


 何を打ち込めばいいのかわからないまま、カーソルが点滅している。


 彼女はふと思う。


 もしかして。


 消えたのは、あの人ではなく――


 記憶のほうなのかもしれない、と。


 だが、その考えをすぐに振り払う。


 違う。


 消えている。


 確実に。


 この町では、死体が消える。


 だから、証拠が残らない。


 それだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ