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死体が消える町  作者: 臥亜


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3/9

夫の記録

 妻は、最近よく町を歩く。


 誰かを探しているように見える、と彼は思う。


 朝、彼女は台所に立ちながら、何度も同じ方向を見る。窓の外。海のほう。崖のほう。そこに何かがあるように。


 彼は声をかけない。


 かけても意味がないと知っているからだ。


 「また誰かが消えたの」


 ある夜、彼女は言った。


 彼は頷かなかった。否定もしなかった。


 この町で最近、失踪届は出ていない。彼はそれを知っている。役場の掲示板も、回覧板も、目を通している。


 だが彼女の言葉を遮ると、彼女は深く黙る。


 その沈黙は、以前にも見たことがある。


 兄の話をするときの顔だ。


 彼は兄を知らない。結婚する前の事故だ。ただ写真は見た。古いアルバムの中で、少年はいつも少し離れて立っている。


 「あなたは悪くない」


 義母が言ったという言葉を、彼は何度も聞かされた。


 そのたびに、彼は返事を探す。


 だが正しい返答は見つからない。


 彼女はときどき、夜中に手を洗う。


 何かを落としたあとみたいに、強く、長く。


 石鹸の匂いが消えても、まだ洗っている。


 彼は水を止める。


 彼女は驚いた顔をする。


 「どうしたの?」


 彼は笑う。


 何もない、と言う。


 何もないはずだ。


 彼はそう思う。


 この町では、誰も消えていない。


 少なくとも、記録の上では。


 だが彼女の手のひらには、何かが残っているらしい。


 彼は、それを見たことがない。


 見ないほうがいいのかもしれない、とも思う。


 町は静かだ。


 静かすぎる。


 彼は、ときどき考える。


 あの事故の日、誰が最初に崖の下へ降りたのか。


 彼女ではない。


 それは確かだ。


 だが、それを誰が確かめたのかは――


 彼は知らない。

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