バレンタインデーは動物になりたい。
「山田さん!」
薫君に呼び止められ、花子は立ち止まって振り返る。
「何?」
「山田さん、ごめん!山田さん、人なのに、犬扱いしてごめんね。でも俺にとっては本当に大事な飼い犬というか家族だから、馬鹿にするとかないんだ」
苦しそうな顔で薫は目をそらす。
急にどうしたんだろうと、花子は首をかしげる。
「いいよ。犬にでもなるし、何でもいいよ。山笠君のためだったら、豚にでもなる」
豚は悪く言われがちだが、本当にかわいい生き物であるから、花子にはぴったりである。
「いや、犬に動物にならなくてもいい。山田さん人間だし。その、ありがとう。薫って呼んでほしい」と、薫君はにっこり微笑んだのだった。
「私のことは花子って呼んでほしいな♡」
「うん」
微笑む薫をみて、絶対放課後薫にチョコを渡そうと、花子は決意するのだ。
「しかし何でさっき薫君は顔を赤らめてたの?」
花子の素朴な疑問の問いかけに、また薫君は顔を赤らめる。
だから何故に?花子は首をかしげる。
「何が?」
「ほらさっき加瀬やりち、いえ、加瀬君と私が話していた時、薫君顔赤らめていたよね?」
「それはその、さっき、加瀬君が、花子さんも女の子だから。気にしないでほしい」
「そ、そう」
やはり花子にはよくわからないのであった。
ところが放課後薫にチョコレートを渡そうと、花子は自分の机の中を見たところ、机の中に入れてあったチョコがなくなっていた。
「うそ!?どうしてチョコレートがないの?」
呆然自失で花子はその場に立ちすくんだ。
それから花子は必死で自分のチョコレートを、学校中をかけずりまわって、探す。すると、偶然にも桜の木の下で、薫と桜の姿を見つけてしまった。
そしてその二人を見ていると、花子はなんだか気づいてしまった。
花子の胸はドリルでえぐられたように、痛んだ。
桜はクラスでも人気があった。桜が花子への暴力があったとうわさがあったが、それも花子に何か原因があるのではないかと、心無い声がクラスの一部ではあがっていた。花子はそいつらに向かって、お尻ぺんぺんしていたが。
そのときはへの河童だったが、桜と薫の優しそうな顔を見ていたら、花子はなんだか完全敗北まったなしの気分になり、虚無になった。
「おい大丈夫か?」
ぼけーっと、放心状態の花子のもとに、親友の次郎がやってきた。
「うん。あ、次郎君いたんだ」
「なんかお前いつも変だけど、今日は特に変だな。大丈夫か?」
じーと次郎が至近距離で花子の顔を見てくるので、花子は俯く。
「うん」
「なんかあったのか?」
「別に。何もないよ」
そう別に何もない。
「山田に、お願いがあるんだ」
「何?」
「俺のお見合いをぶち壊してほしい」
「お見合い?」
「俺の両親が勝手に、俺の婚約者を決めようとしてるんだ。すげー嫌なんだ。断りてぇから、お前と付き合っていることにしてほしい」
「嫌無理。そんなことしたら次郎君の両親に殺されるでしょ、私」
「それもそうだよな」
はぁ、とため息をつく次郎。
「もう適当に結婚しちゃえば。結婚適齢期なんだしさ。相手探しなんかもう面倒だし」
「あの両親が勝手に決めつけてくんのが、なんだか人生の墓場に突き落とされるようで嫌なんだよ」
「ふぅーん。確かに次郎君の両親なんか、その、濃いもんね」
「濃いってなんだよ?まぁ、なんとなくわかるけどな」
まぁ、一応次郎君イケメンだし、黙っていてもいいおんながよってきそうなものだが。
「俺が山田と付き合っているから、親父と母親が俺がますます反抗期なんだろうって。おまけに山田の貧乏くささがうつるとか言って。本当、俺の親最低だよな」
煙草を吸おうとする次郎。花子は次郎から煙草を奪い取る。そして花子は綺麗な青空を見つめて思う。
地獄には道連れが必要だと。
「いいよ。全部ぶち壊してやろう」
花子はにっこり笑う。手の中にあった煙草を握りつぶした。
「ただし次郎君とは付き合っているではなく、愛人の設定で行こう」
花子の全身から黒いオーラが立ち上るのを見て、次郎は目をこすって二度見した。
ここからは花子の行動ダイジェスト版で行きます。
まずは花子はお見合いを壊そうと駆け回ります。そして次郎の父親の公博氏を縛り上げ、布団たたきで尻を叩きます。叫んだ次郎君の母親に、花子はげらげら笑いながらバク転をして、涙を流しながら警察に連行されるのでした。
・・・・・なんちゃって。
とはいえ、花子の行動の概要は大体あっていたのだったのである。(多分)




