使者の覚悟
「弟子よ、今日は魔法を使って絶品のシチューを作る練習じゃ。芋を買ってくるのじゃ」
「絶品なのに芋なんですか!? 僕はお肉が食べたいですよ師匠!」
そんな夢を見た。
僕と師匠で平穏に暮らしていた、そしてそれがずっと続くと思っていた時の夢だ。
師匠はもういない。僕の周りには誰もいない。
僕が暮らしていた家も、町も、人も、全ていなくなった。僕が壊し殺したんだけど。
そこに後悔はない。あるのは虚しさだけだ。
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「いたぞ! 魔王だ! 囲め!」
僕は今、瓦礫になった元領都にある砦にいる。元は盗賊が占拠していた場所だ。僕が領都を破壊しつくして誰もいなくなった後、あてもなく歩いていた時に見つけた場所。ここに住み始めて数ヶ月が過ぎた。
僕はどうやら国から魔王認定され指名手配されているらしい。こうやってたまに討伐隊のようなものが僕の家にやってくる。僕が住んでいる砦は城ほど大きくはないけど、それなりに大きな砦だ。国境にあるらしい。
だから僕が住んでいた国と、その隣国から、ちょこちょこ討伐隊や賞金稼ぎのような輩が僕の命を狙ってやってくる。
もちろん僕はただやられるわけにもいかないので、今のところ全て返り討ちにしている。僕の魔法で。
僕の魔法。そう召喚魔法だ。ちょっと詠唱はあれだけど、今のところ最強の魔法だ。僕の相棒でもある。意志の疎通はできないし、ずっと召喚する事はできない。その時の想い、目的が達成されたら自然に消滅する。
「うんちでるでる ぴーぴーでるでる」
ドチャッ
なにもない空間からいつものようにふんわり茶色がかった軟体物の塊が落ちてくる。
僕の召喚は詠唱がアホだ。でも最強。負けたことはない。そして、あまり口にしたくなかったけど、明らかにうんちだ。特に詠唱が短い召喚になると、まんまうんちだ。まあ、そういう詠唱だからね。仕方ない。
「う、うわあああーー! なん、な、なんだこれ!! なんなんだよこれ! おぇくさ!!」
「ふ、ふ、不浄です! 不浄の魔物です! みな、みなさ、みなさん! 避け、ああ、え? く、くさい!!」
僕の相棒はどうやら臭いらしい。隣にいても臭くないんだけどね? どうやらスライム型は生き物を取り込む事もできるようで、取り込まれた場合はすごく臭い。まあ? なんのにおいかは、あえて言わないけど。
「ぷるぷるっ」
スライム型の僕の相棒が侵入者を全て処理したらしい。スライム型は後処理がいらないから楽だよね。装備はそのままにして、みたいな指示も聞いてくれるし。
こうやって討伐隊や賞金稼ぎがやってきて、スライムに処理されるってのを定期的に繰り返している。だから僕の砦にはそれなりに装備やお金が溜まってるんだよね。まさに魔王城っぽくなってきたよ。砦だけど。
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その日はなにか空気が違っていた。
僕が日課であるエアレーシングゲームで遊んでいると、一人の老人が入ってきた。僕が住んでいる砦は僕しかいないし、僕は気配を感じるとかはできないので、僕のいる場所まで一直線だ。相棒をずっと召喚しておく事もできないしね。セキュリティなんてものはない。
「魔王殿に謁見を求める」
いきなり現れた老人は、これまたいきなりそんな事を言い出した。
「謁見って……魔王って僕のこと? 僕は魔王だと思ってないけど……どうぞ?」
「ふむ……」
老人は若干戸惑いながら、僕の数メートル先まで歩いてきて跪いた。
「魔王殿……いえ、魔法使いコルマド殿の最後の弟子殿。我がタウンゼンド王国との和睦を結んでいただきたい」
「和睦……?」
和睦ってなんだ? え? 戦争中なの? 僕と国で? そいつあ初耳だぜ! まあ領都壊しちゃったしね! でも和睦かあ。僕は領都を壊したけど、それ以外はこの砦で引きこもってただけなんだけどなあ。まあ、侵入者は軒並みうんちスライム君が処理しちゃったけど。
「弟子殿、タウンゼンド王国は弟子殿との和睦にあたり、コルマド殿と弟子殿の名誉の回復と、デュランス伯爵が行った非道に対する謝罪と賠償金を支払う用意がある。謝罪はタウンゼンド国王御自ら、弟子殿に対して行い、書面にも残すと約束する」
老人は一息にそういうと、こちらを見据えて答えを待っているみたいだ。うーん、どうしようか。和睦ね。こっちは争っているつもりなんてさらさらなかったけど、王様が謝罪って事は、王都に来いって事かな? まあいいや。魔王っぽいノリで返答しよう。
「うむ。和睦の使者であるか。ご苦労。して、その謝罪とやらはどこで行うおつもりか? まさかそなたの王の元まで来いとおっしゃるか?」
「…………」
ススっと老人が動くと綺麗に膝を折り、土下座の体勢になる。
「弟子殿からしたら謝罪をするから来いという要求に理不尽を感じるのは至極当然。されどタウンゼンド王国も一枚岩ではないゆえ、王がこの地まで足を伸ばすこと叶わず! どうか矛を治め我が国との和睦を検討していただきたい」
素晴らしい土下座だ。感心した。土下座で下手に出たように見せかけて、言葉の節々と老人の目はまったく動揺していない。覚悟が決まった目をしている。行ってもいいかな。王様にも会ってみたいし、王都とやらにも行ってみたいしね。
「あいわかった。使者殿の覚悟に免じて王都に赴こう。して、どのように王都へ行くのか」
「有難きお言葉。この老骨も使命を全うできまする。王都へは馬車を用意しておりますゆえ」
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「ほほう! 和睦に応じると申したか!」
まだ年若いタウンゼンド王、レイトン・ド・タウンゼンド四世は喜色満面で答えた。頭を悩ませていた辺境の魔王こと、グルーエンの魔法使いコルマドの弟子から、和睦に応じる旨の返答をもらい王都に赴く、という使者からの先ぶれがあったのだ。
「これは朗報ですな、陛下。討伐隊も賞金稼ぎも問答無用で殺戮し、誰一人返さなかった辺境の魔王に話が通じるとは」
王の側近である宰相は、若干の複雑な感情を顔に表しつつも、コルマドの弟子との謁見が前向きに進んだ事に驚き頬を綻ばせた。
「うむ。宰相よ。これは失敗できんぞ。なにせ相手は一人で都を破壊しつくす魔法を使う魔王だ。できればこちらが足を運びたかったが……」
「死ぬとわかっている地に王自ら赴くことはまかりなりませぬよ。ましてや先代王が、かのデュランス領での悪夢の責任を取って当時の殿下に王位を譲位し1年ほど。まだまだ政情は不安定でありますゆえ」
「わかっておる。しかし……そうなると使者を任せた先代デュランス伯爵の処遇が問題になるな? まさか生きて帰ってくるとは思わなかったなどと、本人に言えるわけもなかろう」
「先代デュランス伯爵は有能な人物ですぞ。彼の息子、今代のデュランス伯に問題がありすぎたのです。デュランス伯の横暴は陛下も小耳に挟まれた事はあるでしょう?」
「そうだ、な。まあいい。先代デュランス伯の問題はおいおいだ。して、今日先触れが到着したという事は、魔王が到着するのはあと3日ほどか。できれば謁見と歓待、そして情報収集と根回しにもう1日ほど準備の時間がほしいな」
「打診してみましょう」




