究極魔法の使い手 爆誕
「弟子よ、アイマクの町まで本を取りに行ってきておくれ」
「アイマク!? めっちゃ遠いじゃないですか!」
アイマクの町はここグルーエンの町から徒歩で片道4日ほどかかる、それなりに大きな町だ。
「うむ。遠いといえば遠いが、今回は3台の馬車を連れた隊商との同行じゃ。馬車じゃからだいぶ楽じゃろう?」
「そりゃそうかも知れませんけど……」
この世界は便利な魔法がある反面、危険な魔物も出るし、治安が悪く盗賊なんてのも出る世界だ。荒事は苦手だから町で暮らしているのに……とはいえ、師匠からの仕事だ。嫌だけど行くしかない。嫌だけど!
――――――――――
「ちっ! でっかいムカデの魔物だ! 見えるだけで4体!」
馬車でガタゴトと移動すること3日目の昼前、平和に進んでいた旅路に怒号が響き渡った。どうやら魔物が出たらしい。町を出発して初めてだ。僕は先頭から3台目の馬車に乗っているので、どんな魔物がどこからきているのかは見えない。
にわかに周りが慌ただしくなる。僕が乗っている馬車は基本的に荷物がスペースのほとんどを占領している。そこに僕と、アイマクの町の息子さんに会いに行くっていう女性と、荷物番らしい護衛の人の3人が乗っていた。その護衛の人も、外から声を掛けられて出ていった。どうやら馬車の外で、この馬車の護衛をするらしい。
ゴゴゴッ……ゴゴッ……
外から大きな音と、心なしか地鳴りのような、馬車ごと揺れるような振動がある。魔物だって声が聞こえたから護衛の皆さんが戦っているんだろう。残念ながら僕は戦えません! コップ半分の水しか出せませんから!
そんな風に信じてもいない神様に祈りながら5分たったか、10分たったか。
ガゴッ!! ゴン! ガタン!!
大きな揺れと共に視界が横転する。荷物と一緒に馬車の中で転がり、身体中を打ち付けた。一緒に乗っていた女の人は頭を打って目を回したようだ。僕もそこかしこが痛くって泣きそう。外の様子はわからないけど馬車ごと横転したみたいだ。
外からの激しい音は聞こえるけど、人の怒号はあまり聞こえない。意を決して馬車の外に出るために、入口の幕を上げた。
そこは……まさに死屍累々。大きなムカデの化け物が2体、そしていっぱいの人が倒れている。その中には、出発の時に挨拶した隊商のお偉いさんもいる。
状況がわからない。まだどこかで戦っているのか? ムカデの化け物は近くにいるのか? それとも退けたのか? 護衛や傭兵といった戦える人達はどこにいるのか。いや、まだ残っているのか……それほど倒れている人が多い。おびただしい量の血が地面を濡らし、その血の出所であろう人達が血まみれで倒れている。ピクリとも動かないところを見るともう……
呆然と立ち尽くしていると、ひと際大きな音が響き、同時に馬車が吹っ飛んだ。僕が乗っていた馬車じゃない。あの馬車はおそらく先頭を走っていた馬車だ。そこには大きなムカデがL字の形に立ち上がってこちらを見据えていた。
「あぁ……あ……」
声が出ない。あまりの恐怖に頭が働かない。動かない。どうしたらいいか全くわからない。
「ぅわ……うわあああ!!」
頭は動かないのに声を出し走り出していた。なぜ走っているのかもわからないけど、とにかく走った。
「ああ! あああああ! うわうわああああ!」
無我夢中で叫びながら逃げる。逃げる。
キーーーーーーーーン
頭の中でよくわからない音が聞こえる。でも僕にはその音を聞いている余裕はない。逃げなければという焦燥感と恐怖だけが脳を支配した。
キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
「あ……いたっ! ……ぐっ……」
僕は、その時、無我夢中で走っている時に、たしかに、聞いた。
僕の、僕の中に眠る内なる声。想い。魂の叫び。
「これが……僕の魔法……僕の詠唱……え? 本当に……?」
心で理解できる。僕の心を具現化する魔法。周りの倒れている人や、魔物も気にならない。僕の世界と語り合い、僕だけができる魔法。詠唱もわかる。詠唱なしでは成り立たない魔法だとわかる。難しい詠唱だ。言葉が難しいのではなく、詠唱する事自体が難しいと言えるだろう。この詠唱は。
周りにはまだ息のある人もいる。ふと、一緒の馬車に乗っていた女性と目があった。目を覚ましたのだろう。目を見開き、僕のほうを見ていた。
僕は立ち止まり、女性に向かって大きく頷き、そして大きく息を吸って、吐いた。この女性、いや、この隊商を救えるのは僕だけかも知れない。その想いは女性にも伝わったのだろう。女性は手を組んで祈りだした。
僕は背を向けていたデカいムカデに振り返り、睨み返した。
この魔法がこの窮地を救ってくれるはずだ。そのポテンシャルは感じる。僕は覚悟を決め詠唱を開始する。
「うんちでるでる ぴーぴーでるでる!!」
ドチャッ
なにもない空間から唐突に軟体物のような塊が落ちてきた。
「スライム……かな? え……心なしか、ほんのり茶色くない……?」
僕がそんなことを思った瞬間、スライムは四方八方に四散するように腕を伸ばした。目で追うのがやっとのスピードだ。僕でなきゃ見逃してしまうほどの速さ。
バシュッ! バシュッ! バシュッ! バババババシュッ!!
デカムカデは死んだ。合計6体いたらしい。撲殺だ。僕が召喚したスライム?が全て倒した。
なんとか命は助かったが、それからも大変だった。隊商のお偉いさんが死んでしまったし、護衛傭兵も大半が帰らぬ人となった。馬もやられるか逃げるかしてしまい、もはや隊商の体をなさない状態になってしまった。
僕は生き残った数人と徒歩でアイマクの町まで行き、本を受け取り、また徒歩で帰った。帰りは一人だ。僕はピンチになれば召喚魔法が使えるようになったから。
グルーエンに帰ってから師匠に自分の魔法を見てもらったら、師匠から憐れむような目を向けられた。でもこのスライムめっちゃ強いんですよ! このスライムがいなかったら僕も死んでたし、師匠も本が手に入らなかったでしょ! と前のめりに言うと、ああ、うん、と気のない返事があった。
大丈夫だよね? このスライム……




