第7話 『アリーシャの面会』
牢獄での日々は、時間の流れ方がおかしかった。
朝も夜も曖昧で、灯りの色も食事の味も薄い。
ただ自分が閉じ込められていることだけが、妙にはっきりしていた。
そんな中、アリーシャだけが何度も面会に来てくれた。
ウェインも叔母さんも、誰一人面会に来ない中で彼女だけが、僕を気にかけてくれたんだ。
青い髪をきちんと結い、小さな外套に身を包んで、まだ十歳の細い体で何度も何度も石の階段を降りてくる。
「また来たのか?」
鉄格子越しに言うと、彼女は少しむっとした顔をした。
僕はそんな彼女の表情が好きだ。
とても安心する。
「来ちゃだめなの?」
「あ、いや...そういうわけじゃない」
そう言うと、彼女は僕に包みを差し出してきた。
中には小さな焼き菓子と、数枚の硬貨。
「これ、叔母さんにもらったお小遣い」
彼女が必死に貯めたであろうお小遣い。
それを、こんな僕のために使ってほしくはなかった。
僕は、彼女の気遣いを払うように言い放った。
「持ってくるなよ。そんなの」
「......お兄ちゃんのほうが、よっぽど持ってきちゃだめなもの持ってきてたでしょ!!」
その言葉に、僕は黙ってしまった。
正しい。
正しすぎて何も言い返せない。
兄としての自分が、ひどく情けなかった。
「わたし、実は気づいてたよ」
「...何に」
「お兄ちゃんが盗んでたこと」
僕は目を伏せた。
彼女は僕の悪事を指摘せず、黙ってくれていたんだ。 叔母さんにも言えただろうに。
「いつから」
「お兄ちゃんが、初めて干し肉を持ち帰ってきた時から、なんとなく」
「じゃあなんで!」
「言えなかったの!」
彼女は鉄格子をぎゅっと握りしめ、小さな指先が白くなるほどに力を込めていた。
「悪いことは嫌い。ほんとはすごく嫌だった」
「うん、ごめん」
「でも、お兄ちゃんがわたしのためにやってるって分かってたから、正直に言えなかったの」
喉が詰まった。
おそらく彼女は、僕を責めているわけではなかった。
ただただ、悲しんでいたのだ。
初めから気づいていたのに、僕に言えなかったことを、ずっと後悔しているようだった。
彼女の「ほんとはすごく嫌だった」。
その言葉に、僕の胸の奥で何かが音を立てて崩れた。
『妹のため』
その言い訳を、僕はずっと握りしめていたつもりだった。
でも本当は、途中から違ったんだ。
盗むことそのものに慣れ、うまく盗むのもウェインと競うのも楽しくて、段々と妹のための盗みではなくなっていた。
今さら気づいたところで、もうあの頃には戻れない。
「ごめん...っ」
声が震えた。
そしてもう一度。
「ごめんな。アリーシャ...」
涙は、一度こぼれると止まらなかった。
かつて僕の盗む手がそうだったように。
止めようと思っても、止まらないのだ。
その様子を見て、彼女は何も言わず、ただ鉄格子の向こうからそっと手を伸ばしてきた。
けれど、その手は届かない距離で止まった。
その届かなさが、ひどく罰のように思えた。
なぜ忘れてしまったんだろう?
こんなにも近くに、護りたくて失いたくない存在がいたということを。
そんな彼女の手を、僕は取ることができなかった。
再び目を伏せて、床を見つめることしか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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