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灰雪のベルクレア  作者: 村井 世那
前日譚
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第六話 機骸化

 

 僕はその場で腕を捻り上げられ、膝をつかされ、あっという間に拘束された。盗んだモノは回収され、周囲のざわめきの中には「やっぱり」「こいつか」というような声が聞こえてくる。


 けれど、そんなものは僕の耳に入らなかった。

 頭の中には、たった一つの光景だけが残っていた。

 それは、ウェインが自分を置いて逃げことだ。


 信じたくなかった。一度逃げて、その後で助けに来るのかもしれない。そんな都合のいいことを、拘束されながらも考えていた。


 だが現実は違った。


 その夜のうちに、ベルクレアから近隣各国へ伝書鳩が放たれたのだ。文面はとても短かったが、その内容は不気味なほど明確だった。

  

  『隣国へ盗人の少年が逃亡。

        異様な手口ゆえ、警戒せよ』


 その報せは、ウェインの逃げた先であるベルグリューン王国にも当然届いていた。だが、当のウェインがそれを知るはずもない。


 隣国へ逃げ延びたあとも、彼は盗みを重ねた。

 別に物凄く飢えていたわけではない。

 そして追い詰められていたわけでもない。

 それでも彼は、盗みの手を止めなかった。


 もはや生きるためというより、長く染みついた癖のようなものだった。盗みが成功したときの達成感は凄まじい。きっと彼も、僕と同じで、それがやめられない理由なのだろう。


          ***


やがてウェインは、ベルグリューンの聖騎士に拘束され、正式な手続きを経てベルクレアへ送還された。


 その報告を受けたベルクレアの王は、深く溜息をついたという。


「飢えゆえの罪なら、まだ救いもある。だが、逃げ延びた先ですら盗むとは――」


 そうしてウェインは、処刑ではなく

 別の『運命』を与えられた。


 王宮地下の禁術工房。

 そこで何が行われ、何を目的としているのか、僕らのような庶民に知る由もない。

 ただ、恐ろしい噂だけは耳にしたことがあった。


 罪人を兵器へと作り替える――魔導機骸実験。

 人はそれを、『機骸化』と呼んだ。


 失敗すれば死に、骸捨場(がいしゅうじょう)へと運ばれる。

 あるいは喉を潰され、声を奪われたまま生き残る。

 これまで一度として成功したことのない、最悪の実験。


 そう、ウェインは――それに『失敗』した。

 死ぬことすら許されず、醜い『機骸』へと姿を変えられて。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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