第50話 『武具の街アバンダス』
あれからさらに、数十分ほど歩いた頃。
辺りは微かな光とともに、目覚めの気配を少しずつ見せ始めていた。
その証拠に、近くの野鳥が『ピヨピヨッ』と鳴いた。
周囲には夜の虫もまだ残っていたけれど、世界はたしかに、朝の活動に向けて少しずつ動き始めていた。
「うわぁー! あれがアバンダスね!」
ティエラはクルエルを抜き去り、疲れを感じさせない明るい声でそう言った。
僕は彼女の言葉を聞きながらも、アバンダスの城壁をじっと見つめていた。
武具の街・アバンダスと呼ばれているくらいなら、外側の壁に特徴的な施しでもされているのかとも思ったが、ベルクレアとそこまで違うようには見えなかった。
アバンダスへ近づくにつれ、門の外にまで漂ってくる鉄の匂い。
朝の湿った空気の中に混じる、火と金属の匂いだ。
鍛冶場の熱を思わせるその匂いが、この街が何で成り立っているのかを、門の外にも教えてくれているようだった。
「ここが武具の街・アバンダスか...」
僕は誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。
門の脇には、剣を携えた門兵が二人。
彼らの装備は実用に寄ったもので、ただ単純に飾り立てるための甲冑ではなさそうだった。
門前まで行くと、クルエルが門兵たちと話し始めた。
会話の内容は聞き取れなかったが、おそらくドロームと同じで、滞在の目的とかを聞かれているのだろう。
やがてクルエルが話を終え、僕たちは中へ通された。
そして、アバンダスの街並みを見た瞬間。
「おぉ...すげぇー」と、思わず声が漏れてしまった。
石畳の道がゆるやかに伸び、その両脇には鉄骨で組まれたであろう家々が並んでいた。
その家々の一階部分は店になっているところが多く、武具を初め、花やアクセサリー等の雑貨を個人で売っている家もあった。
『カンッ! カンッ! カンッ!』
近くから、熱した金属を槌で叩く音が聞こえてくる。
朝だというのに、火床はもう動いているらしい。
(さすがは武具の街...)
「ゴホッゴホッ! うえぇ...」
煙突から上がる細い煙が空気の中へ溶け、僕は運ばれてくるその空気に喉奥を掴まれてしまった。
するとティエラが、僕を心配して声を掛けてくれた。
「大丈夫? イザヤ」
「あぁ。少し喉を刺激されただけだ」
「あの...」
ムシュキが、何かを伝えようと唇を震わせた。
「ありがとうございます。僕たちの家はあっちです」
そう言われ、僕たちはムシュキたちの背後について歩き始めた。
その道中、僕は色んな姿をした人を目にした。
武具の修繕を頼む冒険者。
腰に武器を下げて歩く、騎士のような男。女。
布に包んだ槍とかを、肩に担ぐ商人。
皮手袋をつけたまま、食料を買っている鍛冶職人。
「ほんと武具の街って感じね...」
ティエラが辺りを見回しながら、そう言葉を零す。
するとクルエルが、続けて少し得意げに言ってくる。
「ここは冒険者も騎士もよく出入りする。研ぎ直し、継ぎ直し、調整。武具に関することなら、大抵のことは何とかなる街だからな」
その言葉を聞きながら、僕はもう一度通りを眺めた。
もしかしたら、ここには何かあるのかもしれない。
強くなるための何か。
旅を上手く進めるための何か。
あるいは――
ウェインを元に戻す、手がかりに繋がる何か。
いやいや、そんな簡単に見つかるわけないだろ。
そう分かっていても、少しだけ期待してしまう。
だってこの街は、こんなにも僕のことを飛び立つ思いにさせるのだから。
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