第四話 隠していたもの
僕が十五歳、ウェインが十六歳になった冬。
ベルクレアには、再び雪の季節がやってきた。
街の人たちはこの景色を今でも美しいと言うけど、十五歳になった今でも灰色にしか見えない。
いや、むしろ以前よりも、その灰色は深まっている気さえする。
それだけ、僕の心は貧しくなっているのだろう。
そういえば、ウェインにはこの雪がどんなふうに見えているのだろうか。
僕は、ふと気になったが、きっとウェインの目にも同じ灰色に見えているんだろうと思った。
十二歳から盗みを始めて三年。
僕たちの盗みの腕は、街でもかなりのものになっていた。
別に、表立って名前が知られているわけじゃない。
けれど、露店商たちの間では、噂になる程度には注目され始めている。
たとえば、いつの間にか硬貨の入った巾着が消える。
見張っていたはずなのに、食材がなくなる、と。
――まぁ、そんな具合に。
ある夜、屋根の上でウェインがふいに言った。
「イザヤ、前から気になってたんだが......」
「どうした。ウェイン」
「お前、どうやって巾着袋を盗ってるんだ」
僕は口にしていた干しぶどうを噛みながら、首を傾けた。そうだ、ウェインは僕が能力を持っていることを知らないんだ。
僕は、不思議そうに聞いた。
「......どうやってって?」
「俺には手の内がある。
お前と初めて会った日に見られたアレだ。
だからまだ分かる。だけど、お前は違うだろ」
ウェインがじっと僕を見る。
「お前が道具を持っているようには見えない。それどころか、ポケットを探る動きすらしてないだろ。なのに腰に吊るされた袋は盗れてる。あれは、どういう理屈だ」
僕は少しだけ笑った。
「どこから見てんだよ」
「屋根の上からだ」
そう言われると、僕は右手の甲にゆっくり視線を落とし、そっと手で覆うような動きをしてしまった。
癖みたいなものだった。
隠しておきたいものに触れるときほど、手はそこへ伸びるのだ。
しばらくして、僕から先に口火を切った。
「見せたほうが早い」
「じゃあ、今見せろ」
ウェインは即座に言ってきた。
だが、僕はそれを拒んだ。
「星誕祭の市でみせてやるよ」
そういうと、ウェインは眉を寄せた。
「最悪の日だろ。騎士団が一番張るんじゃないか」
「だからだよ。雪も降るし、人も多い。向こうの目も散る」
「お前、たまに本当に馬鹿だな」
「昔からそうだ。俺は頭が悪い」
「開き直るな」
ウェインは呆れたように息をつき、それでも少しだけ笑った。
「……でも、お前のような馬鹿と一緒にいても疲れん。むしろ、以前よりも楽しい気がする。
ーーありがとう、イザヤ」
その何気ない言葉が、嬉しかった。
僕はその夜、誰にも言っていない秘密を、初めて見せようと思ったのだ。自分の中にあるものを、そんなウェインに。いや......『親友』に。




