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灰雪のベルクレア  作者: 村井 世那
灰雪の少年編
5/5

第四話 隠していたもの

 

 僕が十五歳、ウェインが十六歳になった冬。

 ベルクレアには、再び雪の季節がやってきた。


 街の人たちはこの景色を今でも美しいと言うけど、十五歳になった今でも灰色にしか見えない。

 いや、むしろ以前よりも、その灰色は深まっている気さえする。


 それだけ、僕の心は貧しくなっているのだろう。

 そういえば、ウェインにはこの雪がどんなふうに見えているのだろうか。


 僕は、ふと気になったが、きっとウェインの目にも同じ灰色に見えているんだろうと思った。


 十二歳から盗みを始めて三年。

 僕たちの盗みの腕は、街でもかなりのものになっていた。

 別に、表立って名前が知られているわけじゃない。

 けれど、露店商たちの間では、噂になる程度には注目され始めている。


 たとえば、いつの間にか硬貨の入った巾着が消える。

 見張っていたはずなのに、食材がなくなる、と。

   

     ――まぁ、そんな具合に。


 ある夜、屋根の上でウェインがふいに言った。


「イザヤ、前から気になってたんだが......」


「どうした。ウェイン」


「お前、どうやって巾着袋を盗ってるんだ」


 僕は口にしていた干しぶどうを噛みながら、首を傾けた。そうだ、ウェインは僕が能力を持っていることを知らないんだ。


 僕は、不思議そうに聞いた。


「......どうやってって?」


「俺には手の内がある。

 お前と初めて会った日に見られたアレだ。

 だからまだ分かる。だけど、お前は違うだろ」


 ウェインがじっと僕を見る。


「お前が道具を持っているようには見えない。それどころか、ポケットを探る動きすらしてないだろ。なのに腰に吊るされた袋は盗れてる。あれは、どういう理屈だ」


 僕は少しだけ笑った。


「どこから見てんだよ」


「屋根の上からだ」


 そう言われると、僕は右手の甲にゆっくり視線を落とし、そっと手で覆うような動きをしてしまった。

 癖みたいなものだった。

 隠しておきたいものに触れるときほど、手はそこへ伸びるのだ。


 しばらくして、僕から先に口火を切った。


「見せたほうが早い」


「じゃあ、今見せろ」


 ウェインは即座に言ってきた。


 だが、僕はそれを拒んだ。


「星誕祭の市でみせてやるよ」


 そういうと、ウェインは眉を寄せた。


「最悪の日だろ。騎士団が一番張るんじゃないか」


「だからだよ。雪も降るし、人も多い。向こうの目も散る」


「お前、たまに本当に馬鹿だな」


「昔からそうだ。俺は頭が悪い」


「開き直るな」


 ウェインは呆れたように息をつき、それでも少しだけ笑った。


「……でも、お前のような馬鹿と一緒にいても疲れん。むしろ、以前よりも楽しい気がする。

 ーーありがとう、イザヤ」


 その何気ない言葉が、嬉しかった。


 僕はその夜、誰にも言っていない秘密を、初めて見せようと思ったのだ。自分の中にあるものを、そんなウェインに。いや......『親友』に。

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